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シャープの減資を読み解く


なぜシャープは減資するのか?

本日(2015年5月9日)の日経新聞朝刊で、シャープが資本金を1億円まで減資する、という記事がありました。

シャープからの正式発表ではなく、あくまで日経新聞の記事ですから、実際にそうなるかどうかは分かりません。

 

ですが、なぜ減資という話が出てくるのか、考えてみたいと思います。

少し回り道するようですが、DES(デット・エクイティ・スワップ)のことから触れていきたいと思います。

 

シャープの2014年12月末の純資産は2500億円(総資産は2兆2100億円)

シャープの2014年12月末の純資産は2500億円でした。

庶民的な感覚で見ると、すごく多いな~、と思いますよね。

ところが、新聞報道等によると、2015年3月末の決算では2000億円以上の赤字になる見通しだそうです。

 

もし仮に2000億円の赤字が出たとしましょう。

シャープの純資産は500億円になります。

総資産2兆2100億円に対して、負債が2兆1600億円、純資産が500億円、ということになります。

なんとも心許ないですよね。

もしかしたら、倒産するんじゃないか?と不安になる投資家も出てくるでしょう。

 

さらには、2016年3月期も1000億円程度の赤字になる、という報道もあるくらいです。

もしそうならば、2016年3月期には債務超過になってしまいます。

 

シャープは東証1部に上場しています。

東証1部の上場廃止基準のひとつに「債務超過になってから、1年以内にそれを解消できない」ことが挙げられています。

つまり、現実に債務超過になるとか、債務超過になる恐れが出てくると、

投資家は「上場廃止」の可能性を考え始めるのです。

 

つまり、このままシャープが決算を迎え、純資産500億円となると、

投資家はシャープの「倒産」や「上場廃止」を(今まで以上に)意識してしまいます。

 

そうなると、何が起こるでしょうか?

株価の下落です。

株価が下落すれば、新株発行による資金調達が非常に難しくなってしまいます。

なぜなら、株価が下落すればするほど、新株発行したときに、既存株主の持分が希薄化します。

そもそも、株価が下がり過ぎれば、新株発行による資金調達をしようとしても、

これに応じてくれる投資家が出てこなくなってしまいます。

 

シャープが自ら事業再生するためには、研究開発等の資金が必要です。

一部事業をリストラするにしても、やはり資金が必要です。

ですから、株価が下落することで新株発行による資金調達ができなくなると、

シャープはとても困ってしまうわけです。

 

だから、投資家に「倒産」や「上場廃止」を意識させてはいけないのです。

 

投資家に「倒産」や「債務超過による上場廃止」を意識させないためには、純資産を増やさなければならない。

それでは、投資家に「倒産」や「上場廃止」を意識させないためにはどうすればよいか?

2000億円か、それ以上の赤字が出ても、決して債務超過にならなさそうなくらい、

純資産を増やせばよいのです。

 

では、シャープが純資産を増やすためには、どうすればいいでしょうか?

正攻法は、利益を出して、純資産を増やすことです。

ただ、これができないから、今の状況にあるのですよね。

 

次に考えられるのが増資です。

ところが、シャープは2013年11月に、公募増資を行っているのです。

そのときの公募価格が279円。

今の株価(2015年5月8日)が、258円ですから、今の株価は当時の公募価格より低いわけです。

 

当時は、シャープがV字回復する期待感がありましたが、

今は状況が違います。

今は「倒産」や「上場廃止」を意識してしまう状況です。

 

このような状況で公募増資をするのは、ハードルが高い。

 

そこで窮余の策として出てくるのが、DES(デット・エクイティ・スワップ。略してデス)です。

DESによる資本増強、すなわち純資産を増やす、方法があります。

 

DESとは、債務を純資産(資本金等)に振替えること。資金は動かない。

DESは、主に有利子負債(主に銀行からの借入金)を資本金等(主に資本金)に振替えることをいいます。

デット(負債)とエクイティ(資本)をスワップ(交換)する、ということです。

 

銀行等の金融機関からすれば、シャープに対する貸付金を、シャープ株に切り替える、ということになります。

 

例えば2000億円のDESをすれば、負債が2000億円減って、純資産が2000億円増えるわけです。

この方法の特徴は、金融機関がシャープに対して、追加的に1円も資金を提供しなくても、

シャープの純資産が2000億円増加する、ということです。

 

金融機関としても、窮境に陥っているシャープに追加で融資(貸付金)するのは難しいかもしれませんが、

1円も追加でお金を出さずに、貸付金をシャープ株に切り替えるだけなら、まだハードルは下がります。

 

というわけで、シャープを「倒産」や「上場廃止」から遠ざけるために、DESという手法が登場したのです。

 

シャープに対する貸付金を優先株にDESする

シャープから、決定事実として発表されたことではありませんが、

報道では、金融機関が貸付金の一部を優先株にDESする、とされています。

 

優先株とは、いったい何でしょうか? なぜここで登場するのでしょうか?

 

金融機関の立場から見ると、DESは、シャープに対する貸付金をシャープ株に振替えることなのですが、

シャープ株といっても、私たち個人投資家が売買している「普通株」に切り替えるわけにはいかないのです。

なぜなら、シャープの今の時価総額は約4000億円。

2000億円もの貸付金を普通株に振替えてしまうと、金融機関がシャープの大株主になってしまいます。

銀行は原則として、特定の企業の大株主(5%以上)になれないので、

普通株にDESするという選択肢はないのです。

 

でも、DESはしたい。

そこで優先株が登場するのです。

 

優先株とは?

優先株とは、様々に設計できるのですが、一般的には、

・議決権がない

・(その代わり)配当金を(普通株の株主に比べて)優先的に受け取ることができる

というものです。

 

議決権がないので、金融機関はシャープに対して支配力がありません。

つまりシャープの大株主になるというわけではありません。

 

議決権がない代わりに配当金を優先的にもらえるというのも大事です。

金融機関の立場になって考えたときに、金融機関にもたくさんの株主がいるわけで、

その株主は、いつも厳しい眼で金融機関を監視しているわけです。

 

シャープに対する多額の貸付金を回収できなくなったら、

金融機関は、自らの株主たちから怒られてしまうわけです。

 

回収できなくなるくらいなら、優先株に振替えよう。

しかも、優先株だから、普通株よりも優先的に配当金をもらえる。

だから、金融機関が、自らの株主たちにたいしても、納得してもらいやすくなります。

 

一方、既存の普通株主からすれば、DESによって「倒産」や「上場廃止」からは遠ざかるものの、

その分、デメリットもあります。

 

それは、業績が回復したときには、優先株の方に先に配当金を取られてしまうことだけではありません。

業績が回復したときには、優先株はその出資額以上の金額でシャープが買い戻したり、

優先株の設計によっては、普通株に転換されて、株式の希薄化が進んだりする可能性があるからです。

 

つまり、業績が回復したとしても、いいところは、優先株の株主が持っていくわけです。

 

ちなみに、優先株を発行するには、会社の定款を変更しなければならないため、

株主総会による決議が必要です。

定時株主総会、もしくは臨時株主総会を開いて、

そこで、定款を変更しなければならないのです。

 

シャープが優先株を発行するならば、おそらく6月の定時株主総会で定款変更することになるでしょう。

 

配当するためには、利益剰余金等が必要。

さて、再び金融機関の立場になってみましょう。

シャープを救済するために、泣く泣く貸付金を優先株に振替えます。

でも、シャープに対して甘い顔をするわけにはいきません。

甘い顔をすれば、金融機関が、その株主から責められるからです。

 

金融機関としては、貸付金を優先株に振替えた後、

できるだけ早く、シャープが事業再生をして、配当金をもらわなければなりません。

少なくとも、配当金を一刻も早くもらおうとしている、という姿勢を内外に示す必要があります。

 

企業が配当金を支払うためには財源規制があります。

財源規制がないと、極端な話、会社の全財産を株主に配当してしまって、

株主は大喜びだが、債権者は貸し倒れ、となってしまっては公平でないからです。

 

財源規制は、ざっくりいうと、企業の利益剰余金等の範囲内でしか配当してはいけない、というものです。

 

さて、シャープの利益剰余金を見てみましょう。

2014年12月末時点で、約1300億円です。

 

仮に、2000億円の赤字が出てしまうと、利益剰余金がマイナスになってしまいます。

これでは財源規制に引っ掛かって、配当できません。

 

そこで、資本金の減資という話が出てくるわけです。

資本金の減資といっても、いろいろなタイプがあるのですが、

この場面で必要なのは、払い戻しや普通株式の消却などは無しで、

単に計算上、資本金を「その他資本剰余金(配当金の原資とできる)」か「利益剰余金」に振替える、

というものでしょう。

 

この場合、既存の普通株主からすれば、手持ちの株式数が増減するわけではないし、

すぐに発行済株式が増えるわけでもありません。

ただ、将来、優先株主から優先的に配当金を取られてしまうこと、

その後、優先株の普通株への転換や買い戻しによって、希薄化や資金繰り悪化が見込まれること、

が具体的に予想されるようになります。

 

(そもそも優先株主に配当金を「取られてしまう」というのは語弊があります。

 金融機関が貸付金を優先株にDESするからこそ、普通株主も助かるわけで、

 そういう意味では、金融機関としては、感謝されこそすれ、

 配当金を「取られてしまう」と言われては、心外でしょう。)

 

ともかく、資本金の減資によって、優先株主は将来早い時期に配当金を受け取れる可能性が高まりますし、

少なくとも配当金を早く受け取ろうとしているという姿勢はアピールできるわけです。

 

2014年12月末現在で資本金は1218億円ありますので、

資本金を1億円まで減資すれば、1217億円が将来の配当金の原資となりえます。

 

 

このように、シャープに関する、金融的な報道は、

会社法やファイナンス、会計などの観点から見てみないと、

なかなか理解するのが難しいです。

 

 

ここまで書いてきたように、DESをしても、減資をしても、

シャープには1円も入ってきません。

(あえて言えば、DESした分の借入金の金利負担がなくなる、という点では、

 資金繰りが改善します。)

 

さて、本当に事業再生できるといいのですが・・・

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