ラクーンホールディングス【3031】小規模事業者にも多くのビジネスチャンスを提供する
今回は、企業間EC事業、ファイナンシャル事業のラクーンホールディングス【3031】のIR部門を訪問してきました。
ラクーンホールディングスの本社は、東京都中央区日本橋蛎殻町1-14-14です。
東京証券取引所から徒歩で3~4分の場所にあり、地下鉄半蔵門線水天宮駅から4分、東西線茅場町駅から5分、その他にも徒歩圏の駅が複数あり、交通至便と言って良い場所にあります。
訪問した時はちょうど外装メンテナンス工事の最中で、ビル全体がシートに覆われ、外観の撮影ができませんでした。ということで、冒頭はエントランスの写真です。
1.中国留学を経ての創業
ラクーンホールディングスは、現代表取締役社長の小方功(おがたいさお)さんが、1993年9月に「ラクーントレードサービス」という屋号で始めた個人事業がルーツです。
その2年後の1995年9月には資本金500万円で有限会社ラクーントレードサービスが設立され、これが法人としてのスタートとなりました。
有限会社設立のわずか8ヶ月後の1996年5月には、資本金1000万円の株式会社ラクーンに組織変更し、その10年後の2006年4月には東証マザーズに上場し、IPOを果たします。
その勢いはとどまらず、さらにその10年後の2016年の3月には、東証1部へと市場変更となり、2018年11月には事業グループを再編し、商号をラクーンホールディングスに変更して、現在に至っています。
まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」と形容できるようなラクーンホールディングスのここまでの道のりですが、小方さんはどのような経緯で個人事業を始めたのでしょうか?
小方功さんは1963年北海道生まれ。北海道大学工学部を卒業し、1988年に東京の大手建設コンサルタント、パシフィックコンサルタンツ株式会社に入社します。
その会社で小方さんは道路計画や都市計画などに携わっているうちに、以前からあった起業への思いが次第に強くなり、1992年にパシフィックコンサルタンツを退職し、起業準備として1年間中国・北京に留学します。
この留学で、小方さんの考え方に決定的な影響を与えた中国人実業家との出会いがありました。
この実業家との出会いによって、小方さんは商売における「信用」の本質を深く考えるようになります。
なお、この中国での経験は後に本にまとめられ『華僑 大資産家の成功法則』(2005年、実業之日本社。現在は品切れ)として上梓されました。
小方さんは1993年に帰国後、自宅で中国雑貨や健康食品の輸入販売を始めたのが、冒頭に書いた個人事業の始まりです。
この時点ではECではなく、実際に中国から商品を輸入し、日本国内の通信販売会社などに卸す輸入貿易の仕事でした。
この仕事によって日本国内に取引先が増えてくる中で、小方さんは担当者から色々な話を聞くようになりました。そのうち取引先が在庫の問題を抱えていて、その在庫処分も頼まれてしまい、在庫転売の仕事もするようになりました。
この仕事は大変苦労しましたが、その頃、日本のネット環境はブロードバンド時代となり、1997年には楽天【4755】が個人向けインターネット販売(BtoC-EC)を始めるなど、ネット上のマーケットプレイスが産声を上げました。
小方さんはこの新しい時代の流れを取り込み、1998年8月に在庫転売ビジネスをネット上でも実現した「オンライン激安問屋」をオープンしました。
小方さんのこの狙いは当たり、在庫処分をしたいメーカーや商社と、客寄せの目玉商品(激安商品)が欲しい小売店の双方のニーズを見事にオンラインで結び付けたのです。
次第に利用する事業者が増えるにつれて「アウトレット品ではない、普通の商品も仕入れたい!」という要望が寄せられるようになりました。
そこで、2002年に「スーパーデリバリー」をオープンしました。
スーパーデリバリーは、簡単に言えば「メーカー(出展者)と小売店(登録事業者)をつなぐネット上の問屋さん」です。
このスーパーデリバリーは企業間取引(BtoB-EC)の場としてラクーンの業績は急激に拡大していきました。
それに伴って取扱商品を拡大したのはもちろん、掛売などファイナンス面でのサービス充実も図った結果、先に述べたように2006年のIPOに繋がる成長を果たしたのです。
2.ラクーンホールディングスの事業(EC事業)
ラクーンホールディングスの2018年4月期決算の売上高は25億46百万円、営業利益は4億37百万円、営業利益率は17.1%です。
セグメントとしてはEC事業とファイナンシャル事業です(2019年4月期より。それまでのPaid事業と保証事業の2セグメントをファイナンシャル事業へと再編した)。
EC事業である「スーパーデリバリー」の売上高は16億95百万円。売上全体の66.6%を占めます。
スーパーデリバリーなどのECがなかった頃の事業者間取引は、売る側と仕入れる側が面談などで直接コンタクトして取引が行われていました。
その場合、メーカーにとって優先する営業先は、どうしても販売ロットが大きく、売掛金回収不安の少ない百貨店やGMS、量販店などの大手小売業者や大手商社になります。
限りがある営業人員のリソースと営業交通費を使って得られるのが小規模な取引では割に合わないからです。また規模が小さい取引先は与信の問題もあります。
一方小売店側も、EC以前は近所の競合店と差別化するために面白い商品を仕入れようとしても、中小メーカーの商品は仕入れにくい、あるいは商品を知ることさえできないという状況でした。
これに対しスーパーデリバリーは、ネット上に出展者であるメーカーの商品を掲載し、登録済みの小売店などに商品を購入してもらう「事業者間ECサイト」として、商品流通の場を提供しました。さらに、スーパーデリバリーがメーカーに代金を支払うことで、個々の小売店に対するメーカーの売掛金回収リスクを無くしました。
スーパーデリバリーが取り扱う商品はアパレルや雑貨を中心に、家電、インテリア、書籍などの商品のほか、什器や店舗資材など、84万点以上にもなります。
これら商品を出展するメーカーは1,300社以上あり、中にはアイリスオーヤマやハリマ共和物産【7444】などの大手企業もありますが、中心は年商3億円~5億円規模の中小メーカーです。
スーパーデリバリーのうち、海外に向けた卸売サイト(越境EC)は「SD export」といブランドで展開しています。
SD exportの流通額は、EC事業流通額全体の15%程度を占め、その伸び率は国内の伸び率に勝っています。
購買側の登録事業者(小売店)は北米やアジアが多く、国によって人気の商品ジャンルが違うそうです。たとえばアメリカでは文房具や雑貨が好まれ、台湾では特に陶器の仕入が多く、香港では雨が多いせいか傘が人気だそうです。
今後もアジアを中心にネット広告出稿を増やし、海外の登録事業者拡大に向けてさらに注力していく予定です。
また出展企業である日本の中小メーカーにとって、SD exportはビジネスチャンスを掴むツールになっています。
最近特に2020年に予定されている東京オリンピックの影響か、海外事業者からの問い合わせは多く、中には日本語のWebページで商品画像を見て、海外から中小メーカーに直接電話で問い合わせが入ることもあるようです。
そういった場合、外国語対応や輸出知識に関する人材リソースに乏しい会社ではお手上げになることも多かったのですが、SD exportを通した海外からの受注であれば、EC事業を担当する子会社のラクーンコマース指定の倉庫に商品を送るだけで、輸出手続きから発送、代金回収まですべてを代行してもらえます。
このようにラクーンホールディングスのEC事業は、中小メーカーと小規模・地方小売店の取引機会の拡大、中小メーカーの海外取引拡大に貢献しています。
3.ラクーンホールディングスの事業(ファイナンシャル事業)
ラクーンファイナンシャルが担当するファイナンシャル事業の売上は8億50百万円(2018年4月期決算)。売上全体の33.4%を占めています。そのうち決済代行関連で約3億3百万円、売掛保証・家賃保証などの保証関連で5億47百万円の売上となっています。
決済代行は「Paid」というブランドで展開している「掛払い(後払い)」サービスです。
企業間取引において、日本国内では以前から「掛売り」という後払いの商習慣が一般的です。具体的に言えば、当月1ヶ月の取引をまとめて月末に請求し、請求を受けた方は翌月25日に支払う、といった方法ですね。
皆さんご存じのように、消費者向け通信販売(BtoC)では、買った人の代金支払方法は、銀行振込や代引き、クレジット決済などの「前払い」方式がほとんどです。
企業間取引の「スーパーデリバリー」も、当初はクレジット決済だったそうですが、ひと月に何回か利用する場合、購入申込の都度、クレジット決済をしなくてはいけないことや、クレジットの限度額にかかったり、そもそも法人向けクレジットカード発行が当時あまりなかったことなどが原因で、利用が伸び悩んだ時期があったそうです。
そこで、外部のリース会社と提携して売掛保証を付け、後払い(掛売)を可能にしたところ、再びスーパーデリバリーを利用する小売店の増加率がアップしたそうです。
「後払い」ということは、代金を回収できないリスクを負うことになります。リスクに応じて保証料を設定しなければなりませんから、ラクーンには小売店の信用力を見極める力が必要になります。
そこで、提携したリース会社である株式会社トラスト&グロースの全株式を2010年に取得し、サプライヤー(メーカー)には請求書発行と代金回収代行、バイヤー(小売店)には掛払いを提供する「Paid」を翌2011年に開始し、事業化を果たしました。
事業化によって、スーパーデリバリー以外の企業間取引でも「Paid」が利用できるようになりました。
保証関連では、2010年に掛売を開始した際の「売掛保証」と2016年開始の「URIHO」、賃貸不動産の事業用家賃保証および居住用家賃保証の「ALEMO」があります。
売掛保証とURIHOは、サプライヤー(メーカー)が加入する代金回収保証で、バイヤー(小売店)の代金不払いがあっても、ラクーンが保証するものです。
売掛保証は、売上に対する場合と、予め決めた極度額に対する場合と選択できます。
URIHOは年商5億円までの小規模サプライヤー(メーカー)に特化した売掛保証で、最低料金の月額9,800円のコースの場合、1社あたり50万円までで、保証額合計1000万円まで社数制限なく保証するというものです。
このURIHOというサービスには、ラクーンの企業姿勢が良く出ていると思います。
というのも、保証会社がより売上を増やそうとすれば、どうしても規模の大きい会社に営業を優先するのは、先述の企業間取引の場合と同じです。
年商が小さいサプライヤーは保証額も小さくなるため、保証会社からも置き去りにされがちでした。
ところが、日本の企業の8割以上は小規模会社であり、そういった小規模会社ほど、1回の焦げ付きで致命傷を負う可能性が高いのです。
それを何とかできないか、ということで開発されたのがURIHOです。
URIHOでは、できるだけ営業コストを掛ないようにするために、申込、与信審査、履行依頼のすべてをインターネットで処理できるようにし、料金も定額制にしました。
コラム:「信用」「与信」「売掛保証」について 商品代金引換渡しの場合は別として、企業間取引では後払いである「掛売り」での取引がほとんどですので、お客様である販売先(バイヤー)は利益をもたらしてくれると同時に、そのバイヤーの不払いや倒産等によって売掛金が焦げ付くと、重大な損失の原因にもなります。 「与信」とは、「相手の信用度合いに応じて後払いを認める」ことを言い、企業規模や過去の取引・支払実績などにより決めた取引限度額内での販売に収める管理を「与信管理」と言います。 売掛金の焦げ付きは、サプライヤー企業の利益が失われるだけでなく、場合によっては資金繰りが悪くなり、最悪の場合支払に支障を来たして倒産に至ります。 倒産にはならないとしても、焦げ付いた損失を取り戻すには大きな努力が必要です。 たとえば、ある企業の平均粗利率が10%で、売掛金100万円が回収不能になったとします。 100万円のうちの90%、90万円は代金回収不能であっても支払いが必要な材料費や経費ですので、他の売上による粗利益でカバーしなければなりません。ということは、 90万円÷10%=900万円 となり、別途900万円を売り上げて代金回収しないと、焦げ付いた分の原価や経費はまかなえないのです。 取引先の与信管理をしても、焦げ付きが押さえられないことがあります。そのような不慮の事態に備えて「売掛保証」があるのです。 |
賃貸不動産の事業用家賃保証は、売掛保証での与信審査ノウハウを活用して2014年から開始したサービスです。
個人事業主や小規模事業者、新規開業事業者はオフィスや店舗を借りようとしても、断られたり、高額な保証金(家賃の半年~1年分程度)や連帯保証人を求められます。
一方、不動産オーナーは、賃料を回収できないリスクや賃借人が大量の残置物を置いたまま行方不明になるリスク、またそれらに関する訴訟が起こるリスクをカバーしなければなりません。
ラクーンの事業用家賃保証は、賃料の0.65~1ヶ月分の保証委託料(2年目からは月額賃料等の10%)により、賃料の24ヶ月分+訴訟費用を保証することで、借り手・貸し手が抱える問題を解決します。
2018年12月に、従来から居住用家賃保証を行っていたALEMO株式会社の全株式を取得し、居住用(個人向け)家賃保証サービスも開始しました。
速い審査スピードと生活保護受給者や外国人にも対応しているのが特長です。
これは、事業用家賃保証で取引のある不動産会社を通じたクロスセル商品といえます。
4.競合や今後について
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2017年のBtoC-ECの市場規模は約16兆5000億円。これに対しBtoB-ECは、約20倍の約317兆2000億円です。卸売だけを取ってみても94兆円もあります。しかもEC化率は27%程度。
大企業から個人まで多くの参入が続くBtoB-ECですが、それでもスーパーデリバリーにとって、巨大なマーケットが広がっています。
ラクーンでは、越境ECにおいても、国内に近いサービスを提供して拡大していきたいと考えています。
一方、保証事業は国内において多くの競合が存在します。GMOペイメントゲートウェイ【3769】やイーギャランティ【8771】などの他に、大手損保やリース会社などの金融系企業、大手企業のグループ会社などで、様々な保証サービスが提供されています。
また、居住用家賃保証についてもCASA【7196】やイントラスト【7191】など上場している専門会社のほか、多くの企業が家賃保証事業を行っており、競合は多いです。
その中でALEMOは10年近い家賃保証の実績があり、不動産店とのつながりも多く、今後事業用家賃保証とのシナジーも期待されます。
いずれの事業においても、規模の側面から劣後にあった事業者を対象としているところが特徴的であり、かつそのような事業者は数多く存在しています。
こうして見るとラクーンは、保証事業を通して小規模事業者の信用力をしっかりと把握しているところが特徴的で、それがEC事業の拡大を支えていることがわかります。
大手の保証会社は手を出さないニッチマーケットに注力し、広く分散する小規模事業者からどれだけ効率よく受注できるかが成長のカギになると思います。
インタビュー後記
スーパーデリバリーも、売掛保証も事業用家賃保証も、それまで冷遇されてきた小規模事業者に多くのビジネスチャンスを与えています。
また個人が対象のALEMOにおいても、生活保護受給者や外国人といった、賃貸契約を断られやすい人達にとっての救いとなっています。
その背景には、ECによって事業者間の距離の問題が解決したことと、小規模事業者ゆえに、保証事業における小口分散(リスク低減)ができたことがあります。
中国で「肩書きや所属する組織の規模で判断しない」「信頼を積み重ねる」ということを学び、それを日本で実践してきた小方社長。
ラクーンホールディングスには、今後も信頼をベースにしたサービスで、多くの人のビジネスチャンスを増やしてもらいたいと思います。
以上
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