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日本郵船、商船三井、川崎汽船 海運3社の超絶好業績とその後について


特需による業績変動(2021.3期~2022.3期)に株式投資でどう対処するか?

好業績の要因

海運3社の業績は急拡大したのですが、これは、2020年のコロナ禍において、これまでと違った需要が高まったことにより、需要が多少盛り上がったというのが一因と考えられます。
例えば、在宅ワークが増えたことにより、家具に対する需要が一時的に増えるなどです。
また、港湾での船積み・荷降ろし作業が、コロナ禍により停滞して、物流が目詰まりを起こしたことにより、船舶の供給量が一時的に減少したと考えられます。
総合的に見て、物量は多少増加したが、物流の目詰まりにより、コンテナ運賃が急騰したことが好業績の主因でしょう。
つまり需要は大して増加していないのに価格だけが急騰したわけで、これが長期間継続するとは考えられません。

一時的に価格が高騰することで

日本郵船の利益貢献は、主としてコンテナ船

日本郵船の経常損益のうち、約6割がコンテナ船に関連する利益です。
コンテナ船の利益は、コンテナ運賃の影響を大きく受けます。

不定期船、ドライバルク船は、利益の1割強です。
ドライバルク船の利益は、バルチック海運指数の影響を大きく受けます。

 

コンテナ運賃に連動するように株価が上昇していきました。
コンテナ運賃の上昇は、そのまま会社の業績に直結するため、業績に連動するように株価が上昇していった、ともいえると思います。

コンテナ運賃については、次の情報源を参考にしています。
・公益財団法人日本海事センターの「海上荷動きの動向」
 (公財)日本海事センターは、日本海事財団(1964年設立)、財団法人日本海運振興会(1964年設立)、財団法人海事産業研究所(1966年設立)の3団体の事業を承継し、もしくは法人を統合する形で2007年に設立された財団法人日本海事センターが、2011年に公益財団法人に移行したものです。
 東京都千代田区麹町に本部があります。国土交通省と関係が深いと考えられます。

 

 

価格高騰による好業績の例

価格高騰は、古くはチューリップバブル。日本においては不動産バブル。最近では黒鉛電極価格の高騰などがあり、様々な国・分野で発生します。
それによって、一時的に好業績となる企業があります。

黒鉛電極価格の上昇に関していえば
・昭和電工
・東海カーボン
・日本カーボン
・SECカーボン
などの業績が急拡大し、株価も急上昇しました。


 

PER 1~2倍台について


PERは、利益に対して株価が割安かどうかを判断する指標のひとつです。
通常、10~20倍のレンジに収まることが多くなっています。
PERが低ければ割安、高ければ割高、と判定します。

特需を受けて海運3社のPERは1~2倍台となっており、一見、非常に割安に見えます。

業績の急拡大により、一時的にPERは非常に低い状態となりますが、その後、業績が元の水準に戻り、株価も下落するというのが、よく見られるパターンです。

高い配当利回りについて


配当利回りについても、非常に高水準になっています。
配当利回りは、理論的には、株式の価値に影響を与えないのですが、現実的には、株価形成に影響を与えていると考えられます。

配当性向が2%、3%と高くなってくると、預金や債券との比較で(多少の価格変動リスクはあるとしても)魅力的に感じられるようになるからです。

 

ONEの持分法損益とキャッシュ・フローについて


ONEの損益の状況


ONEの業績は絶好調です。
海運3社の出資先であり、日本郵船38%、商船三井31%、川崎汽船31%という出資割合で3社それぞれの持分法適用会社となっています。

この持分法損益は、計算上のものであり、キャッシュ・フローを伴わないため、すぐに配当に回すことはできません。

ONE(持分法適用先)からの配当について


シンガポールの会社法制により頻繁に配当できる。
シンガポールの子会社から頻繁に配当されることから、なぜそのようなことが可能なのか、当初疑問に思いました。

例えば、ONEは、2021年の場合
●月〇日
〇月〇日
●月〇日
○月〇日
の4回、配当を実施しています。
日本の法制においても、四半期ごとに配当を実施することは、可能です。ただ、これは、前期末時点での配当可能利益を財源とした配当であるのに対し、ONEが実施した配当は、進行期の利益を財源とした配当であると考えられるからです。
もう1つの疑問が、シンガポール法人が配当するのは、株主であるONEホールディングスに対してであって、その出資者である海運3社には、直接配当できないのではないか?という疑問です。(これについては、後述の資本構成を確認するなかで、配当可能であることがわかります。)

 

 

工夫された資本構成


工夫された資本構成となっており、結果的に法人税等の節税につながっています。
ONEについては、資本構成が複雑になっていますが、税制上のメリットを享受するための工夫された仕組みになっていると考えられます。

ONEの構想が発表されたときの資料によれば、下記のようになっています。



しかし、実際には、下記のように、海運3社から直接シンガポールの事業運営会社に対して出資されている部分もあります。(というか、金額的には、その方が大きいです。)



なぜこのような仕組みになっているかと言えば、海運3社にとって、国内法人から配当金を受け取る場合と、海外法人から配当金を受け取る場合で、法人税法上の取扱が異なるからだと推測しました。
(著者は税理士ではありますが、国際税制とその実務について詳しくないので、あくまで推測です。実際にスキームを組み立てる場合は、専門にしている税理士さんに相談してください。詳しい税理士さんに知り合いがいたのですが、残念ながら数年前に他界されました。)


日本郵船の有価証券報告書を見てみましょう。
有価証券報告書の「4【関係会社の状況】」という項目には、「(1) 連結子会社」や「(2) 持分法適用会社」にどのような会社があるかが列挙されています。(連結子会社と持分法適用会社とは何か?について、よくわからない方は、別の記事を参考にしてください。)


持分法適用会社にオーシャンネットワークエクスプレスホールディングス(株)があり、資本金50百万円、持株割合は38%であることがわかります。

さらにページをめくっていくと、OCEAN NETWORK EXPRESS PTE.LTD.も持分適用会社として示されています。
本社はシンガポール、資本金は30億ドル(約4200億円)、事業は定期船事業、当社から定期船を賃借していることが示されています。
ここで注目したいのが持株割合です。0%となっています。
正確には議決権の所有割合です。
議決権は所有してないけれども、持分法適用会社である、ということです。
これは、OCEAN NETWORK EXPRESS PTE.LTD.の親会社(おそらく100%親会社)である、オーシャンネットワークエクスプレスホールディングス(株)が持分法適用会社であることから、それに連動しているものと考えられます。


 

ONEの決算書で、無議決権株式を見てみると
ONEホールディングス株式会社の決算書がホームページに掲載されているので、これを見てみると、とても興味深いです。

貸借対照表を見てみましょう。

資産を見てみると、
・現金及び預金5890億円
・売掛金2069億円
・使用権資産(コンテナ船と思われます)5947億円
が目立った資産で、総資産1兆4667億円となっています。
では、これだけの資産をどのようにして調達したか?負債・純資産の部を見てみると、
・買掛金1481億円
・前受金1071億円
・リース債務(流動+固定)6100億円
・非支配株主持分5813億円
が主な調達手段となっています。

使用権資産5947億円とリース債務(流動+固定)6100億円は、ヒモついていると考えられます。
また、現金及び預金5890億円と非支配株主持分5813億円が、概ねヒモついているのだろうと予想されます。

資本金は5000万円、資本剰余金(資本準備金等と予想されます)7173万円であり、株主による払込資本は、非常に少額です。
一方、非支配株主持分という項目があり、これが5813億円となっています。
非支配株主持分とは、ONEホールディングスの連結子会社において獲得した利益のうち、ONEホールディングス以外の株主の取り分を意味しています。

上記の資本構成に照らして考えれば、日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社が、ONEシンガポール法人に対して直接保有している部分(が大半)であろうと推察されます。

 

 


次に損益計算書です。
売上総利益率が30.0%、営業利益率が24.6%と高水準であることが目を引きます。
注目したいのは、非支配株主に帰属する当期純利益です。
当期純利益は3699億円ですが、そのうち3697億円が非支配株主に帰属する当期純利益であり、残りの2億円だけが親会社株主に帰属する当期純利益(すなわちONEホールディングスの取り分)ということがわかります。
非支配株主に帰属する当期純利益3697億円は、日本郵船に38%(1405億円)、商船三井に31%(1146億円)、川崎汽船に31%(1146億円)帰属すると考えられます。
これらの企業の決算書においては、営業外収益の持分法投資損益として表示されます。


 


 

例えば、日本郵船の2021年3月期の連結損益計算書をみてみると、持分法による投資利益1559億円となっていますから、このうち1405億円がONEシンガポール法人の利益によるものと考えられます。

 


 

ONEが巨額の利益を得ることの妥当性について(独占禁止法の適用除外)
そもそも疑問に思うことが、このような運賃の上昇は、カルテルなのではないか?ということです。

特にコンテナ船事業については、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業がONE社に統合されており、ONE社の独擅場となっています。
そしてそのONE社が巨額の利益をあげ、それを上記3社が持分法損益として営業外収益に取り込む形で、3社の業績が異例の好業績となっています。

独占禁止法の適用が除外される理由
外航海運については、海上運送法に基づき、独占禁止法の適用除外となっています。その理由として示されているのが、「国際的な制度の整合性」と「荷主の利益の保護」です。
国際的な制度の整合性は、アメリカ、EUにおいても外航海運について、その一部が反トラスト法、EU競争法(日本の独占禁止法に相当)の適用除外になっていることから、その適用除外範囲と整合性を取る、という趣旨です。
また、荷主の利益保護とは、独占禁止法の適用除外によって、運賃の安定化が損なわれないかどうか、という趣旨です。

独占禁止法の適用除外とすることが妥当であるかどうかについては、定期的に公正取引委員会が検討しており、WEB上でもその概要を確認することができます。
(平成28年2月4日)外航海運に係る独占禁止法適用除外制度の在り方について(概要)公正取引委員会
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/feb/160204.html

海上運賃高騰の独占禁止法適用除外への影響について
2020年、2021年、2022年に起こった海上運賃の急騰は、「荷主の利益の保護」を損なうものではないかと思われます。
海上運賃の高騰は、荷主にこれまでに比べて大きな運賃負担を強いることになりました。また、それが荷主の運ぶ商品に一部転嫁されることで、物価の上昇にも影響していると考えられます。

今後、独占禁止法の適用除外が妥当なのか、議論されるときのポイントになってくると考えます。

 

 

 

 

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