自社株買いの影響
自己株式の取得ってなに?
発行済株式総数100株、当期純利益100円。
このとき、1株当り利益は1円です。
自己株式を10株取得しました。
これによって、流通している株式数が100株から90株に減少します。
1株当り利益は、 100円 ÷ 90株 = 1.11円 になります。
自己株式の取得により、株主1人当りの取り分が増加しました。
自己株式の取得は、株価を上昇させる効果があるのです。
簡単に説明するとこのようになります。
企業が自己株式を取得した後の取り扱いかた
1.自己株式を消却する
その株式を消滅させること。消却した自己株式を、その後売却することはできません。
発行済株式数は減少します。
2.自己株式をしばらく保有し(いわゆる金庫株)、その後売却する
発行済株式数は減少しません。
それぞれについて見てみましょう。
「1.自己株式を消却する」は、発行済株式数が減少するため、
1株当り利益が1.11円に増加し、その後も変わりません。
したがって、長期的に見ても株価を上昇させる効果があります。
これに対して、
「2.自己株式をしばらく保有し、その後市場で売却する」は、発行済株式数は減少しません。
ここで注意しなければならないのは、発行済株式数は減少しなくても
1株当り利益は増加するということです。
少し長くなってしまいますが、決算短信等で開示される1株当り利益の計算方法は
「企業会計基準第2号 1株当たり当期純利益に関する会計基準(企業会計基準委員会)」で定められています。
これによると、
1株当り利益 = 普通株式に係る当期純利益 ÷ 普通株式の期中平均株式数
で求められます。
分母の「普通株式の期中平均株式数」とは、
普通株式の期中平均発行済株式数 - 普通株式の期中平均自己株式数
で計算されます。
つまり、自己株式が消却されずに手元に残されていても1株当り利益を計算する際には、
まるで消却されたかのように考えて計算するということです。
したがって、自己株式は消却せずに手元に残してあっても1株当り利益は増加するのです。
以上のことから、「2.自己株式をしばらく保有し、その後市場で売却する」場合、自己株式を保有している間は1株当り利益は増加し、これを売却した時点で1株当り利益は元に戻るのです。
このため、短期的(自己株式を保有している間)には、株価を上昇させる効果があり、自己株式を売却した時点でその効果は失われます。
最後に、実際に取得された自己株式について見てみましょう。
東京証券取引所は、毎月、自己株式の処理状況に関する統計資料を公開しています。
このデータを元に平成19年1月から10月に行われた自己株式の処理を集計すると
金額ベースで66%の自己株式が消却されており、残りは売却ないしそれに相当する形で処理されています。
ですので、全ての自社株買いが株の上昇要因にはならないということです。
自社株買いでROEの改善ができる!
自社株買いにより、自己資本も減少しますので、ROE(自己資本利益率)を改善することができます。
ROEは以下のように求めることができました。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROEは、企業の自己資本の何%にあたる利益を得ることができたのかを示す指標をいいます。
自己資本が減少することにより、ROEは高くなりますので、企業に収益力があることを意味します。
ROEを意識する投資家が増えていることから、投資家を意識して株主還元のために企業が自社株買いをしているといえます。