長期投資家のためのIR情報
バリュートレンド

SHOEI【7839】世界NO.1シェアのプレミアムヘルメットメーカー


SHOEI.jpg (146 KB)今回は「Quality & Value」を追求した製品で多くのファンを持つ、世界シェアNO.1のプレミアムヘルメットメーカー、SHOEI【7839】のIR部門を訪問してきました。

SHOEIの本社は、東京都台東区台東1-31-7 PMO秋葉原北の8階にあります。

地下鉄銀座線末広町駅から徒歩5分、JR・地下鉄日比谷線秋葉原駅からも7~8分の距離にある、蔵前橋通りに面したこのオフィスビルには、2019年1月に移転してきたばかりです。

とてもきれいな真新しいこのビルでお話を伺いました。

 

1. 創業から急成長するも倒産。その後再生企業として生まれ変わり、株式上場を果たす

SHOEIの創業は、1959年に港区新橋に設立された昭栄化工株式会社が起源です。

もともとポリエステル加工の会社だったのですが、荒川区に東京工場を設置し、一般用ヘルメットの生産に着手し、設立翌年の1960年には二輪乗車用のヘルメットの生産も手がけるようになり、東京工場を足立区に移転します。

この頃は、1964年に控える東京オリンピックに向けて首都高速道路や東名高速、その他一般道路網が整備されて「モータリゼーション」の波が目前に迫っている時期でした。

また、オートバイに限ってみても、当時世界最高の2輪車レースと言われていたイギリスの「マン島TTレース」で、1961年にホンダが125CCクラスで初優勝しました。

歴史的にヨーロッパのオートバイメーカーが優勝の多くを飾ってきたこのレースで、日本のメーカーが優勝したことは画期的でした。
日本製オートバイの性能が先進諸国に追いついたことの証となり、二輪車の国内での普及とともに輸出増加の契機となりました。

このような時代背景の中で、二輪乗車用ヘルメットの需要が高まりました。
昭栄化工でも国内営業拠点の整備はもとより、1967年には茨城県稲敷市に茨城工場を新設して生産体制を整え、翌1968年には米国ロサンゼルスに現地法人を設立し、北米への輸出販売の体制を整えます。

その後も1978年にヨーロッパの拠点としてベルギーに現地法人を設立し、その9年後の1987年にはフランスにも現地法人を設立するなど、早くから海外に進出していました。さらには、1989年に岩手県一関市に岩手工場を新設し、生産能力増強を図ります。

 

ところがそれから間もない1992年5月に昭栄化工は資金繰りに行き詰まり、会社更生法申請に至ります。

債権者である原料メーカーから三菱商事【8058】に再建の依頼があり、山田勝さんが三菱商事からの出向という形で管財人に就任します。

山田さんは昭栄化工の現場を見て回り、経費の無駄使いや過剰設備、過剰在庫など管理不在を目の当たりにしますが、一方でそのような状態でも売上を上げている商品の強みも感じます。

山田さんは管財人として更生計画を裁判所に提出し、計画が認可されると昭栄化工の代表取締役社長として計画実行の責任者となります(その後山田さんは三菱商事を退職し、昭栄化工に転籍しました)。

再建にあたっては東京工場を廃止し、本社を上野の賃貸ビルに移すなどのリストラ策を実行する一方、経営管理や生産管理の導入などで経営合理化を図りました。

こうして危機的状況を脱した後、ヨーロッパを中心とした輸出に注力するとともに、プレミアムヘルメット、つまり高級商品路線に舵を切った戦略も成功し、1998年3月には計画よりも早く会社更生手続きを完了します。

そして同年5月に商号を「株式会社ショウエイ」に変更し、さらに12月に現在の「株式会社SHOEI」に変更します。
これが、名実ともに生まれ変わった「SHOEI」の新たなスタートとなりました。

 

その後もSHOEIは順調に業績を伸ばし、2004年7月の日本証券業協会への店頭登録によってIPOを果たしました。
さらに2004年12月のジャスダック証券取引所上場、2007年9月の東証2部上場を経て、2015年10月には東証1部に指定されました。

株式公開によって再生を支援してくれた三菱商事や銀行、取引先には、キャピタルゲインというリターンを渡すことができました。

山田さんの後は、安河内曠文さん(2008年12月~2016年10月)を経て、現在は石田健一郎さんが代表取締役社長を務めています。

 


2.「安全性・快適性・ファッション性」三位一体のプレミアムヘルメット

SHOEIの事業は、一部に自衛隊向けの官需製品があるものの、ほとんどが二輪乗車用ヘルメットの製造販売で、単一セグメントです。
売上高は171億48百万円、営業利益37億34百万円、当期純利益25億78百万円(2018年9月決算。以下同じ)です。

SHOEIでは、ヘルメットの中でも高級品の「プレミアムヘルメット」に特化しており、「安全性・快適性・ファッション性の三位一体」が重要と考えています。
それではそれがどのように製品に活かされているか見てみましょう。

ヘルメットの構造を大きく分けると、外側の「シェル」、クッションとなる中間の「ライナー」、そして頭と接する「内装」の3層に大別できます。

安全性の面では、外部衝撃から頭を守るシェルの材質を、SHOEIでは全ての製品で軽くて強いFRP(ガラス繊維強化プラスチック)で作っています。
他社の安価なヘルメットでは、大量生産に向いた射出成形プラスチックが使われることが多いのですが、SHOEIでは手間のかかるFRPを使っています。

一口に「FRPのシェル」と言ってもわかりにくいのですが、SHOEIでは製造工程を動画にして公開していますので、下記のリンクを再生して、参考にして下さい。

 

SHOEIのヘルメットは各国の安全基準に適合しているのはもちろんのこと、世界グランプリをはじめとする二輪レースなどで、多くのトップレーサーに過酷な条件で使用され、その結果が製品にフィードバックされています。

FPS_n.jpg (117 KB)

快適性については、以前からベンチレーション(ヘルメット内に適切に空気の流れを作って、頭のムレなどの不快感を低減する)に定評のあるSHOEIのヘルメットですが、それに加えて最近は、内装のパッドを個人個人にジャストフィットさせるPFS(パーソナル・フィッティング・システム。特許取得済)のサービスを無料で展開しています。

これはSHOEIのテクニカルショップでユーザーの頭部計測し、その数値をソフトに入力することで、細かく分かれたそれぞれの内装パッドの最適配置が示され、その場でスタッフがパッドを調整し、ジャストフィットするヘルメットを提供するというものです。

このPFSのサービスによってユーザーは快適性を得られるだけでなく、従来は頭の形によっては内装の一部が強く当たるために本来より一回り大きなサイズを購入していた人も、ジャストサイズのヘルメットを使用することができるようになり、安全性もさらに高まるようになりました。

この結果、ショップ来店率が高まり、ユーザーと店員のコミュニケーション機会増加にも効果を上げています。

 

SHOEIではヘルメットのファッション性についても重要なポイントとしています。

ヘルメットのカラーリングに関しては、効率的な生産のために機械による下地塗装、研磨、仕上げ塗装を導入していますが、各工程の要所でチェックと熟練工の手作業による細かい研磨や仕上げ塗装が行われています。

ファッション性の高いヘルメットでは、転写シールによるダイナミックなカラーリングが施されますが、これも手作業により適切な位置に貼られます(その後、加熱工程でシールは定着)。
手作業ゆえに様々なデザインの転写シール貼付に対応ができるので、ユーザーは自分の嗜好、ファッションに合ったヘルメットを、多くの選択肢から選ぶことができます。

複雑なカラーリングの場合は、転写シールの工程を2度行うこともあり、先の手作業による研磨・塗装と合わせて「工芸品」かと思えるような工程を経て完成するヘルメットもあります。

 

3NeoTech2.jpg (33 KB)
NEOTEC Ⅱ(ルミナスホワイト)

さらには高機能ヘルメットの開発で、快適性とファッション性を同時に高める商品も提供されています。

一例を挙げれば「NEOTEC Ⅱ(ネオテック ツー)」というフリップアップヘルメットは、フルフェイス型でありながら顎にあたる部分を守る「フェイスカバー」が持ち上がるようになっています。

ツーリングの休憩時などで、ヘルメットを装着したままお茶を飲んだり、会話を楽しんだりすることを快適にしています。もちろんフェイスカバーを下げて、定位置にある時は高い密閉性を実現して、安全を提供しています。

また、この「NEOTEC Ⅱ」は、一度に8人まで同時に会話が可能なBluetoothインターコムである、韓国SENA社の「SRL」が内部に組み込めるようになっており、ケーブルやマイクの露出がなく、バイク走行中でも仲間と会話によるコミュニケーションを取りながらツーリングを楽しむことができます。

このSRLが組み込まれたヘルメットは、単独使用の場合でも、スマートフォンとBluetoothで接続することによってスマホの音声ナビを聞いたり音楽を聴いたりすることもできて、バイクツーリングの楽しさや快適性を向上させてくれます。

この「NEOTEC Ⅱ」は、小売価格6万円~7万円という高価格帯ヘルメットでありながら、これらの機能が日本をはじめヨーロッパでも人気を博していて、計画を大きく上回る受注で生産が追いつかない状態です。

 

 

IT-HL.jpg (76 KB)
IT-HL(仮称・参考出品)

SHOEIではさらに「東京モーターサイクルショー2019」において「ヘッドアップディスプレイ」内蔵のフルフェイスヘルメット「IT-HL」を参考出品して多くの話題を集めました。

この「IT-HL」は、日本精機【7287】の連結子会社であるNSウエストと共同開発したもので、走行中のライダーの視野にナビゲーション情報を映し出してくれるものです。

いままでバイクライダーは、バイクを停止させて地図やスマホのナビゲーションを確認するか、ハンドルバーに取り付けたナビに視線を落として確認しなくてはなりませんでした。

しかし、この「IT-HL」では視線を走行方向に向けたままナビゲーション情報を受け取れるので、視線を大きく移動させることなく、適切な進路を選ぶことができます。

なおこの「ヘッドアップディスプレイ」の技術は自動車(四輪)では既に実用化されており、ヘルメット装着タイプでは戦闘機用などでも実用化されているそうです。

これらの先行技術を活かした「ヘッドアップディスプレイ内蔵(二輪乗車用)ヘルメット」の商品化を早く見たいでものすね。

 


3.競合、海外、事業特性

二輪乗車用プレミアムヘルメットの分野でSHOEIは世界トップで、シェアは約60%。2位がアライヘルメット【非上場】で約30%と日本のメーカーが市場の9割を占めており、これにドイツのシューベルト社(SCHUBERTH)が続きます。

一部競合する中価格帯ヘルメットでは、フランスのシャーク、イタリアのノランやAGV、アメリカのBELLなどのメーカーがあります。

欧米のヘルメットメーカーは、韓国や中国のメーカーの低価格攻勢にさらされ、苦しい状況にあるようです。

こういったこともあり、SHOEIでは海外生産は行わず、茨城・岩手の2工場で新鋭機械と熟練工の技術の組み合わせで「Quality & Value」を追求し、世界の競合他社との差別化を継続する方針です。
そのための設備投資も積極的で、2019年9月期は約12億円の設備投資計画となっています。

Bike Hanbai suii.JPG (89 KB)マーケットを見てみましょう。

国内市場では、人口減少に加え若者のクルマ離れ、バイク離れもあって、排気量50cc未満の原付バイクを含む二輪車の国内販売台数は、1980年に約237万台だったものが、2017年では約36万台と、約15%にまで減っています(日本自動車工業会資料より)。

ただし、プレミアムヘルメット購入層である排気量50cc超の自動二輪車に限れば39万台から18万台と47%にとどまっています。

またバイクライダーの年齢層は平均54才という調査もあり、趣味に時間とお金をかけられる年齢層が主体となっています。

このことから、ヘルメット全体の国内市場は大きくシュリンクしているものの、プレミアムヘルメットに限ればその傾向は比較的緩やかと言えます。

 

SHOEIの2018年9月決算における世界地域別売上割合は、欧州が46.1%、国内が26.7%、北米が16.1%、その他の地域が11%となっていて、売上の4分の3が海外です。

モータースポーツが盛んなフランスやドイツなどの旧西欧諸国ではSHOEIブランドの認知率は高く、安定した売上を上げています。さらには旧東欧諸国でも売上が伸びつつあります。

膨大な数のバイクライダーがいる北米でも新商品の「NEOTEC Ⅱ」が好調で、南米やオセアニアでも売上が伸びています。

さらに小型オートバイの伸長が著しい東南アジアでも売上が伸びており、将来のプレミアムヘルメット市場の拡大が期待されます。

SHOEIの製品は海外での販売比率が高いことから、業績は為替の影響を受けやすいという性格があります。

ただ、ドイツ、フランス、イタリアにある販売子会社はユーロ建て、北米は米ドル建てですが、欧州子会社以外とその他の地域での代理店販売については円建てとしており、為替リスクをヘッジしています。

また、商品特性としてツーリングの季節である春から夏にかけてよく売れ、冬は販売が停滞するので、冬場に商品在庫が増えるという季節変動性があります。

 


4.具体的に落とし込まれる経営方針と、それが現れている決算書

冒頭に記したように、SHOEIでは「Quality & Value」のビジネスコンセプトのもと、

 一、世界一の品質
 一、世界一のコスト競争力
 一、世界一楽しい会社

の実現を目指しています。

そのために6つの基本方針と10の行動指針は、とても具体的な言葉に落とし込まれています。

例を挙げると、基本方針では「1.健全な財務内容の堅持(自分の会社は自分で守る)」「6.利益の公平、公正な分配(50%配当性向、従業員の配分、会社への配分(内部留保))」とあります。

また、行動指針では法令遵守や差別・パワハラ・セクハラ・インサイダー取引の禁止などの他に、
「10 当社は、以下に掲げる資産は保有しない。
 (1)本社建物、役員専用車等当社業績向上に直接には寄与しない資産
 (2)株式、商品先物、デリバティブ等元本割れリスクの高い資産(営業関連外国為替先物取引を除く)」

と明記されています。

これらの方針は確実に実施されており、本社については25年ぶりの移転でしたが、移転先も賃貸オフィスです。

株式についても、有価証券報告書の「株式の保有状況について」の欄を見ると、純投資目的株式が無いのはもちろんのこと、純投資目的以外の株式(取引の維持・強化目的などの、いわゆる政策保有株式)も保有していません。

借入金のない無借金経営を維持しており、自己資本比率は81.5%と高い財務健全性を示しています。

世間の常識や業界の慣行などにとらわれず、経営に大切なものを追求している姿勢が決算書(有価証券報告書)からも見えてきます。

経営方針をいわゆる「お題目」とせず、具体的な行動にまで落とし込んでいるからこそ、社員一人ひとりの日々の業務結果となり、それが積み重なって基本方針の「1.健全な財務内容の堅持(自分の会社は自分で守る)」が体現された業績になっていると思います。

 


インタビュー後記
プレミアムヘルメットを重視する戦略と高い品質で、シェアを伸ばしているSHOEI。

その経営の根幹には、経営管理の徹底で会社を再び危機に陥らせない、という強い意志が見えます。

この経営スタイルの道を開いたのが「中興の祖」ともいうべき山田勝さんです。

バブル経済が崩壊して日本中の企業が経営不振に陥った時期において、三菱商事という安定した大企業の籍を投げうって倒産企業に転じるそのチャレンジ精神や勇気は素晴らしいと思います。

そして山田さんに続いた安河内さんや現社長の石田さんも、やはり三菱商事を退職して、SHOEIの経営をさらに洗練されたものにしています。

石田社長の方針に「築城10年落城1日。不正につながりかねない理不尽なノルマは課さない。愚直に、しかし眼前の課題から逃げずに着実に前進する」とあります。
倒産という経営の失敗を、二度と繰り返さないという強い意志が、しっかり引き継がれています。

ぜひSHOEIには「3つの世界一」を追求し続けて欲しいと思います。

以上

 


※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。
当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。
このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。
当社はコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、無謬性を保証するものではありません。
当コンテンツの読者が投資活動を行い、その結果損失を被ったとしても、当社は一切の責任を負いません。

ページトップへ戻る