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幸和製作所(7807) ロボット歩行車で一歩先を!


今回は、2017年11月28日に東証JASDAQスタンダードに上場したばかりのシルバーカー・歩行車でトップシェア、幸和製作所(7807)の本社を訪問して来ました。

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幸和製作所の本社所在地は大阪府堺市堺区海山町。南海本線七道駅から海側に約1kmの位置にあり、近隣は中小の工場や住宅が混在している地域です。

また幸和製作所本社前の道路を、さらに海側に1.5km程進むと、製鉄所や化学、機械メーカーの巨大工場などが展開する臨海工業地帯となります。

ちなみに、この臨海工業地帯の一角には、バレーボールファンにはおなじみの強豪チーム『堺ブレイザース』の本拠地(チーム所在地)である「新日鐵住金堺体育館」があります。

そんな巨大工場から小さな工場まで林立する、いわば「もの作りの街」の一角に幸和製作所はあります。

 

1.創業は乳母車メーカーとして

幸和製作所は、現会長の玉田栄一さんが1965年に個人商店として乳母車(ベビーカー)製造販売の家業を手伝いながら1970年には早くもシルバーカーを開発しました。これが、日本国内で最初のシルバーカー製造販売でした。

栄一さんが事業を開始した頃の日本は、第1次ベビーブーム(1947年~49年)の後で、第2次ベビーブーム(1971年~74年)が近づき、出生数が再び増加していた頃です(ただし1966年は丙午の迷信があり、この年だけ極端に出生数は少ない)。

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当時ベビーカーの競合メーカーが多く存在する中でシルバーカーを手掛けたのは、使い古された乳母車に重しを乗せて押している高齢女性の姿を、栄一さんが目に留めたことがきっかけだったそうです。この時「もっと扱いやすい、専用の歩行補助車を作ったら良いのでは」ということで開発を始めたそうです。

その後、栄一さん37才の1987年、堺市堺区幸通に株式会社幸和製作所を設立します。この頃はまだベビーカーが主要事業でした。

 

それからさらに10年が経過し、1997年の堺市堺区少林寺への本社移転、翌1998年の新工場(現本社)建設に伴い、幸和製作所はシルバーカーの専業に舵を切りました。

すでにこの頃、国内の少子化と高齢化の傾向は確定的であり、ベビーカーマーケットはどんどん縮小していましたが、幸和製作所はベビーカーに頼らずに、早くからシルバーマーケットへの製品を育てていたからこそ出来た事業転換だと思います。

その後2005年に栄一さんは社長を退き、長男の玉田秀明さんが代表取締役社長に就任しました。この時、栄一さんは55才、秀明さんは27才。なんとも若い社長交代ですが、この若さが幸和製作所の活力の一因になっているのではないでしょうか。

2. 歩行補助具を中心とした福祉用具の製造販売

幸和製作所の事業は、歩行車、シルバーカー、杖など歩行補助を中心とした福祉用具の製造販売が中心です。当事者でない方にとっては、シルバーカーと歩行車の区別はつきにくいのですが、定義も流通ルートも異なります。幸和製作所の取扱い製品をカテゴリー別に見ていきましょう。

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歩行車

「歩行車」は、自立歩行が困難で歩行時に体重の支えが必要な要支援・要介護認定者を対象とした、介護保険が適用される歩行補助具です。

主に介護用品のサービス事業者を通して、主にレンタルでエンドユーザーに提供されます。レンタルでは、月額料金の9割が介護保険で補助され、本人負担は1割となります。機種やサービス事業者の地域によって値段が異なりますが、個人負担額は概ね月額数百円~千円未満のようです。歩行車はメンテナンスが重要であり、パーツ供給などのアフターサービスが求められています。

 
 
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シルバーカー

「シルバーカー」は、製品安全規格(SG基準)により「自立歩行が可能な高齢者が外出時や物品の運搬および休息に用いる四輪以上の歩行補助車」と定義されています。

シルバーカーは卸業者を通じて主にホームセンターやGMS、ドラッグストアなどのチェーンストアや百貨店等に供給され、介護用品コーナーなどで販売されています。

なお、各小売店に介護用品コーナーが設置されるようになったのは最近のことで、2010年頃まではホームセンターの自転車コーナー等で販売されていたとのことでした。

「杖」も身近で重要な歩行補助具です。幸和製作所では昔ながらの1本杖はもちろん、安定性とファッション性を備えた多脚杖や、「サイドケイン」と呼ばれる一見脚立のような多脚杖も製造しています。

その他幸和製作所では、歩行補助カートや入浴補助用具や腰掛便座、食事・衛生サポート用品の製造販売と各種福祉用具を相手先ブランドで納入するOEMがあります。

これらのカテゴリー別売上の概要は、歩行車約13億円、シルバーカー約12億円、杖4億円、その他福祉用具とOEMがそれぞれ約8億円で、売上合計45.6億円(2017年2月期)となっています。

この中でも、以前主力だったシルバーカーを売上額で抜いた歩行車の伸張は著しく、後に述べる介護ロボット歩行車も含め、さらに歩行車の売上は伸びると見込まれています。

3.大阪府に集中している競合、重くて大きい海外製品

シルバーカー・歩行車の競合会社としては、株式会社島製作所(未上場。大阪市東住吉区)と象印ベビー株式会社(未上場。東大阪市御厨西之町)の2社があります。それぞれの売上は10億円前後と想定され、売上45.6億円の幸和製作所とはかなり差があるようです。また「フエルアルバム」で有名な文具メーカーのナカバヤシ(7987。大阪市中央区)もシルバーカーを製造販売しています。

面白いのは、いずれも大阪府の企業ばかりだということ(ナカバヤシは、子会社の島根ナカバヤシが製造を担当)。かつては関東にもシルバーカーのメーカーはあったようですが、淘汰されてほぼ大阪の企業だけになってしまったとのこと。業界地図としては、めずらしい状態ですね。

その要因を考えてみると、大阪府には堺市や大阪市に、自転車の部品メーカーが多いということが挙げられます。経済産業省の平成26年工業統計調査によると、従業員4名以上の自転車部品出荷事業所は、全国114事業所のうち、大阪府は51事業所を占め、2位埼玉県の13事業所を大きく引き離しています。この傾向は戦後の復興期から続く特長であり、これらの部品メーカーは大阪のシルバーカー産業の伸長にも貢献したと思われます。

海外に目を移すと、シルバーカーは、特に欧米で「Rollator」という名称で歩行補助具として位置づけられ、普及しています。しかしそれら製品は、日本製に比べて大きく、重く、日本人の体格には合わないことから、輸入はあまりされていません。幸和製作所自体も一時期輸入販売しましたが、上記の理由で止めたそうです。そういったことから競合メーカーは国内だけ、と見ているとのことでした。

4.海外展開について

幸和製作所は、製品の生産を目的として2002年に香港に法人を設立し、翌2003年には広東省東莞市に工場を設立し、中国国内での生産を開始します。この中国東莞工場は、2005年にはシルバーカーのSG登録工場となり、日本に輸入して販売するシルバーカーにも「SGマーク」を貼付することが出来るようになりました。

これ以降、中国東莞工場(現:東莞幸和家庭日用品有限公司、連結子会社)は、幸和製作所の主力工場として操業しています。このように幸和製作所の海外展開は、生産拠点としての進出から行われました。

一方、市場としての海外展開については、現在の売上は3億円程度ですが、3年後には10億円まで伸ばす計画です。

狙いは現地メーカーが存在する欧米ではなく、東アジアを中心とした展開です。すでに現地代理店の開拓などで海外販売強化策を打っていますが、国情は日本と大きく異なり、簡単にはいかないようです。

例えば中国では、65才以上の高齢者人口は1億3000万人にも達し(「世界人口推計2015」より)、日本の約4倍の高齢者を抱えていますが、それがすぐ購買対象の数字と見ることはできません。

というのも中国では、全国規模の介護保険の構築はこれからという状況です。また要介護の高齢者は家に置いておくという意識が強いため、「自立支援の介護」という概念の浸透も含めてマーケットを作っていく必要があります。

韓国では最近介護保険が確立され、また台湾でも近いうちにまとまりそうな状況で、追い風もありますが、それぞれの国々の法律や慣習、道路状況など、様々な要因があり簡単ではありません。

このようにいろいろな困難はありますが、東アジアで進む少子高齢化を背景に、幸和製作所には日本のトップメーカーとして、同じ東洋人の体格に合った品質の良い歩行車・シルバーカーを是非普及させて欲しいものです。

5.将来に向けて、シニアの未来を創る

今後の事業を展望すると、前述のように海外では東アジアを中心に大きな潜在市場が存在します。すでに市場のある欧米でも、競争力のある製品投入次第ではシェアを取っていける可能性があると思います。

一方、国内市場において、ユーザーの主流は女性であり、男性の利用はこれからという状況です。というのもシルバーカーは、買い物カートの機能を併せ持つものが多く、女性に受け入れられてきたという歴史があります。それゆえ「シルバーカーは女性の物」というイメージを持ち、抵抗感のある男性もいるようです。

幸和製作所では、このようなマーケット状況を打破すべく、「ジェンティルマローネ」という男性向け福祉用具ブランドを立ち上げ、男性用製品の市場形成に力を入れています。

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ロボット歩行車

また、幸和製作所では将来を見据えて、日本で初めて「介護ロボット」として介護保険のレンタル商品認定を取得した電動アシスト機能付き歩行車、いわゆるロボット歩行車を発売しています。

今回、幸和製作所のショールームでこのロボット歩行車を体験する機会を得ました。

「ロボット」と聞くと「自分で勝手に動く」ようなものを想像しますが、決してそうではなく、歩行補助に徹しています。一度体験すると「介護ロボット」という意味が実感を持って理解できます。

このロボット歩行車は、ジャイロセンサーとモーターの働きで、登り坂では軽く引っ張ってくれるように進み、逆に下り坂では少し押さないと進まないようになっています。特にこの下り坂での使用感に感心しました。普通の歩行車は坂道ではブレーキを微妙に操作しながら進まなくてはいけませんが、ロボット歩行車はブレーキ操作に気を使わなくても、坂道で歩行車だけが先に進んでしまうような恐怖感がありません。

現状ではこのロボット歩行車はレンタル料金も高く、介護保険が使えるとはいえ、まだまだこれからの商品ですが、体験者の増加によって普及が進むと思います。これからが楽しみな製品です。

インタビュー後記

幸和製作所は、大きな潜在市場が伺える事業を行っていることに加え、日本で初めてシルバーカーを開発したことに始まり、現在も男性用ブランドの創造やロボット歩行車の開発など、チャレンジ精神にあふれ、自ら市場創造を行える会社です。

すでに持つこのような強みに加え、将来にわたって本当に強い会社になるには、自社のリソースをどこに配分していくのか、という事業戦略にかかっていると思います。そのためには、より良い製品の提供と並んで、組織力強化や長期的視点に立った教育・人材育成などの内部体制の充実が、より重要になってくると思います。

これまで、2代にわたって若く、エネルギーあふれる経営者が引っ張って成長してきた側面があると思いますが、今後は経営者のリーダーシップと共に、組織力を強力に発揮できるようになれば、長期投資の対象としてより魅力的になると思いました。

 

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