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モリタHD(6455) ユーザー本位で消防車両トップ!


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今回は、消防車両製造国内トップ、モリタホールディングス(6455)の東京本社を訪問して来ました。

東京本社所在地は、東京都港区西新橋3-25-31。住所表示に「新橋」の名称は入っていますが、最寄り駅は地下鉄御成門で、芝公園からほど近く、オフィス街でありながら公園の緑と、そして東京タワーが望めるところです。訪問当日も桜が街に彩りを添えていました。

1.創業111年目!

モリタホールディングスは、創業者森田正作(しょうさく)さんが1907年(明治40年)4月に大阪に火防協会を設立し、消防ポンプ機及び消火器の製作を開始したのが始まりです。

創業当時は人力で動かすポンプの製造だったようですが、早くも3年後の1910年には、日本で最初のガソリンエンジン付消防ポンプを開発し、消防業界の機械化の端緒を開きました。

この頃のポンプの動力は人力や蒸気が主流だったようですが、ガソリンエンジンポンプは蒸気ポンプに比べてコンパクトで、かつ水が吐出できるようになるまでの時間が短かったため、大いに注目されたようです。何と言っても消火は時間が勝負ですから。

1917年(大正6年)には第1号の消防ポンプ自動車の開発に成功します。その後、1932年(昭和7年)には「株式会社森田ガソリン喞筒製作所」(喞筒=そくとう。ポンプの和名)を設立します。これが現在の株式会社モリタホールディングスです。

戦中・戦後を経て、1961年に「森田ポンプ株式会社」へ社名変更。1973年に大証2部上場を果たし、1979年には東証2部に上場、1980年には東証・大証の1部指定銘柄になっています。

1997年には、社名から長らく親しまれてきた「ポンプ」の文字を外し「株式会社モリタ」に社名変更。2008年には「株式会社モリタホールディングス」(以下「モリタHD」と表記します)に社名変更し、モリタHDが持株会社となるグループ経営へと移行しました。

今年(2018年)で創業111年、法人設立から数えても86年という歴史ある企業ゆえ、企業史上のトピックは書き切れないのですが、1907年の創業当初から欧米の進んだ技術を積極的に取り入れ、東洋において先駆的な消防自動車開発を行ってきたのは間違いありません。

 

2.徹底したユーザー本位

モリタHDの事業は、消防車輌事業、防災事業、産業機械事業、環境車輌事業という4つのセグメントで構成されています。

この中では株式会社モリタを主な事業会社とする消防車輌事業の売上が約520億円(2017年3月期)と最も大きく、連結売上高の約6割を占めます。

アクションラーニングの会員の中にも、消防車両に詳しい方がおられるかと思いますが、消防車両は代表的なポンプ車(いわゆる消防車)と梯子車の他に、水槽車や救助工作車など様々な車両があり、さらにそれぞれの車両の仕様は、納入される自治体ごとに異なっているなど、大型製品で、かつ受注生産の事業となっています。

消防車両の仕様が全国統一でないことを意外に感じるかもしれません。仕様が全国統一でないのは、製品が使用される場面が火災や事故など、人命に関わる緊急性の高い場面なので、使い勝手が直接重大な結果に繋がって行くためです。

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(54m梯子車)

消防車両が配置されている各地の消防署では、いざというときにキチンと機能するようにメンテナンスを日頃から欠かすことはありません。また、取扱いの訓練も行っています。このように消防士と消防車両は一体になって災害救助にあたるので、メーカーの経営効率の視点のみで「仕様の統一」ということはできないわけです。

モリタは、ユーザーごとに異なる希望を徹底的に反映するものづくりで事業を行ってきました。

また、山間部や沿岸部のほか、高層ビル群を抱える都市など、その地域特性にあった消防車両の納入が求められることも、一品一様の受注生産になる要因です。

この徹底したユーザー本位で市町村の要望をかなえる対応は、大手の車両メーカーでは困難であると言えます。

納入先は電力会社等の民間向けも一部ありますが、多くが地方自治体であるため、年度末の第4四半期偏重の売上傾向となっています。

 

消防車両は、現在約24,000台が稼働していると推計されますが、製品のライフサイクルはメンテナンスが行き届いていることもあり、約20年とのことでした。ということは単純計算で年間平均約1,200台の新車への入替需要が発生することになります。

また、20年使い続けるためには、メーカーのメンテナンスサービス体制も重要です。モリタグループは、株式会社モリタテクノスというメンテナンス専門の事業会社がメンテナンス工場を関西・関東に1つずつ構え、各種車両のオーバーホールができるようになっているほか、各地の支店、代理店が連携しメンテナンス対応できる体制を整えています。

オーバーホールで分解整備する際、劣化部品の取り替えの他、電子機器についてはバージョンアップで機能向上を図れる場合もあるとのことです。

ちなみに梯子車は巨大な車両ですが、風対策の制振制御を行っているなど、中身は精密機械とも言えます。消防車車両は整備基準を定められていることもあり、オーバーホール整備をモリタテクノスで請けています。このようなメンテナンス需要も売上に貢献しています。

モリタでは、細かい要望に応える設計やものづくりの体制、様々な仕様にキチンと対応できるアフターサービス体制、そして研究開発に対する姿勢などが評価され、消防車の国内シェアは約6割、梯子車に限れば約9割という圧倒的トップシェアの位置にいます。シェア2位は日本機械工業株式会社(非上場。片倉工業(3001)の子会社)で15%程度。あとは各地のメーカーとのことでした。

 

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(スプリネックス)

次に、防災事業の売上は約182億円(2017年3月期)で連結売上高の約2割を占めています。主力は消火器です。

2008年に、当時東証2部上場の宮田工業株式会社を株式公開買い付けにより連結子会社としたのち、グループ内での企業再編を経て、現在では、モリタ宮田工業株式会社として消火器や建物内消火設備の提供をしています。

消火器のシェアは約35%と、トップを獲得しています。また、防災設備の分野では「スプリネックス」が、売上を伸ばしています。

スプリネックスは、水の代わりに高い消火能力がある中性の消火薬剤を使用します。このため、スプリンクラーと違って大きな水槽が不要で、既存建物への後付けが容易です。

このようなスプリネックスのメリットが評価され、平成27年4月消防法改正で、スプリンクラー設備の設置基準が強化された病院や有床診療所、福祉施設を中心に、導入が進みました。今後も多くの施設で安全性向上のために、スプリネックス設置の余地があろうかと思います。

 

 

3番目に売上が大きいのは環境車輌事業で、売上高は約105億円です。株式会社モリタエコノスが主要事業会社であり、主力は塵芥車と衛生車です。

塵芥車はいわゆるゴミ収集車で、塵芥車のシェアは、新明和工業(7224)がトップシェアを握っている他、極東開発工業(7226)が第2位、モリタエコノスが第3位、と続いているとのことで、塵芥車は強い競合がいる中で、もまれている状況です。

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(プレス式塵芥収集車)

一方、衛生車はいわゆるバキュームカーで、需要台数は塵芥車よりかなり少ないものの、シェアは約83%を占めています。

その他、モリタエコノスでは散水車等各種特装車、介護事業向けの訪問入浴車を製造販売しています。

 

4番目の産業機械事業は株式会社モリタ環境テックを事業会社として約44億円の売上があります。

私たちの目に触れる機会は少ない分野ですが、鉄などの金属スクラップを、圧縮や切断で減容する装置を製造販売しています。取り扱う金属は空き缶から自動車まで様々なサイズの物に対応できます。

この分野のモリタ環境テックのシェアは約73%です。

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(高機能ギロチンプレス)

単に機械装置の販売だけでなく、選別から減容まで一貫して行うリサイクルプラントの設計・施工も請け負っています。

このようにモリタグループでは、ポンプ技術、消火技術、車両への架装技術などをコアとして、近接領域に積極的に事業を拡大しています。

 

3.海外展開はこれから本格的に

モリタHDの消防車輌事業における2017年3月期の海外事業売上は約140億円で、地域別売上比率は日本73%、アジア14%、欧州9%、その他4%で、まだまだ国内中心です。

消防車両の海外市場に目を向けると、消防車輌事業の売上規模で比較すると、トップがローゼンバウアー社(オーストリア)、2位がオシュコシュ社(アメリカ)、3位がモリタHDで、4位はマギルス社(ドイツ)だそうです。その他消防ポンプ車のメーカーは世界各地にあるようです。

モリタHDでは2016年1月にフィンランドのBRONTO SKYLIFT OY AB社を買収し、完全子会社としたことで海外売上が大幅に増えましたが、今後は各国の状況に合った商品開発を進める他、BRONTO社が世界100カ国以上に持つ代理店網を活用し、まずは海外売上を200億円程度まで引き上げる方針です。

BRONTO社は、高さと広い作業範囲を持つCPLが得意で、先端のバスケットが到達できる高さは最高で地上112mにもなります。またブームは屈折式なので広い作業範囲を確保できます。

一方モリタが得意な梯子車は、高さ最高54mと及ばないものの、直進型でスピードが早く、梯子を上下するリフタを備えることから、人命の救助に優れています。

国内で圧倒的なシェアを誇る梯子車とは似て非なるBRONTO社のCPLが加わり、幅広いラインナップで海外ユーザーに提案できるようになりました。

 

4.これからのモリタグループ

すでに111年もの歴史をもつモリタHDですが、今後の長期的成長余地はどうでしょうか?

国内では概ね消防車両の配備は進んでおり、安定的な更新需要、メンテナンス需要はあるものの、消防車両市場そのものの拡大はあまり期待できません。

しかし、消火対象物は、かつて木造家屋が中心でしたが、最近では大型倉庫やデータセンターなどに広がり、火災原因も多様化しています。モリタでは多様な火災に適した消火技術の研究、技術開発に取り組んでおり、その提案の1つが、CAFS(Compressed Air Foam System、圧縮空気泡消火装置)です。CAFSは少量の消火薬剤に水を加えて圧縮空気で発泡させ、その泡で消火するシステムです。表面積が大きい泡は効率よく消火でき、水損被害もほとんどないというメリットがあります。

また、水での消火の場合、放水時にホースや先端のノズルには大きな反動があり、操作する消防隊員には腕力が必要ですが、このCAFSは泡の吐出のため、反動が少なく負担が軽くなります。このことは、消防士の高齢化や女性消防士の増加という点でも有効です。

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(Miracle CAFS Car)

CAFSの技術は以前より知られておりましたが、日本ではあまり普及していませんでした。モリタでは阪神大震災を契機に本格的にCAFSの研究・技術開発をすすめ、2007年に「Miracle CAFS Car」を発売し、現在では海水でも対応できる消火薬剤も開発され、累計で1,600台以上が国内配備されています。

このような研究と製品開発を続けることで国内はもとより、BRONTO社の販売網を生かした海外展開が期待されます。

また防災事業のスプリネックスも、既存建物だけでなく、新築でもスプリンクラーの代替として設置されることが増えそうです。

既存市場、既存製品に頼ることなく積極的な技術開発、製品開発を続ければ、まだまだモリタHDの活躍する市場はありそうです。

 

インタビュー後記

創業以来、積極的に開発を進める姿勢や、徹底したユーザー本位の姿勢が印象的でした。

開発に対する姿勢やユーザー本位の姿勢がモリタグループの強みの1つだと思います。さらに、現在のモリタグループには、詳しく見れば見るほど「こんなことも手がけているのか!」と思うようなことが沢山あります。

そして何より、モリタグループの製品でこれまでたくさんの人命が救われてきたことだと思います。

モリタグループにはこのチャレンジ精神で「人と地球のいのちを守る」というスローガンを実現し続けて欲しいと思います。

以上

 

※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。

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