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エスティック【6161】 ~ ネジを締めるナットランナで活躍 ~


会社訪問第5弾は、エスティック【6161】です。2017年9月19日、大阪府守口市にある本社を訪問し、常務取締役 管理部長の伊勢嶋 勇さんに話を伺いました。

最初はお互いに少し緊張した雰囲気でインタビューが始まりましたが、次第にリラックスしてきて、後半は話が盛り上がりました。自社製品を誇りに思われていることが話から伝わってきました。

1. 創業の経緯

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エスティックは1993年8月に設立されました。創業者であり現社長の鈴木弘さんは1938年(昭和13年)生まれですから、55歳のときの起業になります(現在、鈴木社長は79歳です)。

もともとは鈴木社長、そして専務取締役の池田 康廣さん、常務取締役の伊勢嶋勇さんは、太陽鉄工株式会社の社員でした。

当時、太陽鉄工は、油圧・空圧シリンダの製造・販売などを事業として行っていました。油圧・空圧シリンダは、大きな力を必要とする機械などに使われる部品ですね。

例えば皆さんは「油圧ショベル」という建設機械をご存じかと思いますが、大量の土砂などを大きなショベルで持ち上げるのは、油圧シリンダの働きによるものです。空圧シリンダも同様ですが、油圧より軽作業に向いており、コストも安くできます。

太陽鉄工では油圧・空圧シリンダをコア技術にして、いろいろな商品を販売していましたが、 その中に「ナットランナ」もありました。 しかし、この商品は外部から仕入れたものだったのです(ナットランナについては、4.で説明します)。

 

太陽鉄工では、このナットランナも自社生産(内製化)すべく、社内プロジェクトを立ち上げました。 その時の責任者が鈴木さんでした。

幸いこのナットランナ内製化プロジェクトは成功し、自動車メーカー等多くの顧客を獲得しました。 ところが、他部門の事業不振によって、太陽鉄工は1993年に会社更生手続きを申請することになりました。 いわゆる「倒産」です。

ナットランナを納品していた自動車メーカーには、 社内規定などにより「会社更生を申請した企業には発注しない」という決まりがあり、 ナットランナを購入できなくなってしまいました。 そこで、困った自動車メーカーの担当者からは 「ナットランナ事業だけでも更生会社から分離して、継続して製品を提供してもらえないか」と要望があったそうです。

そこでナットランナ事業の責任者であった鈴木弘さんが一念発起し、新会社を設立。 太陽鉄工からこの事業を譲り受ける形で、エスティックが設立され、事業が始まりました。ドラマチックですね!

池田さんは、鈴木さんと共に新会社エスティック立ち上げに尽力し、伊勢嶋さんは太陽鉄工の残務を終えてから合流しました。

2. 社名の由来

新しく立ち上げたこの会社の社名「エスティック」は、 

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Electric 電気の
Servo モーターの制御方法
Tool 道具
Intelligent 賢い
Corporation 会社
 

の頭文字をとったそうです(訳は日根野です)。

ナットランナの機能面でのイメージを言葉にしたら、このようになったのだと思います。 「Intelligent」が入っているところに、創業者の思いを感じます。

「実際のところは太陽鉄工の会社更生申請から新会社設立まで1か月ほどしか時間がなかったため、 社名を十分に考える余裕がなかった」とおっしゃってました。

3. なぜエスティックは上場を目指したのか?

鈴木弘さんらが勤めていた太陽鉄工の油圧・空圧機器の事業は、強い事業だったそうです。 そのことは、その後、アメリカのパーカー・ハネフィン・コーポレーションに 買収されていることからも伺い知ることができます。

 太陽鉄工のその後

 太陽鉄工は1993年の倒産後、会社更生に成功し、2002年にパーカー・ハネフィン社と提携します。 パーカー・ハネフィン社は、アメリカのオハイオ州に本社のある企業でニューヨーク証券取引所に上場しています。 銘柄名の略称(ティッカー)は「PH」です。売上高1兆円(120億ドル)を超える大企業です。

2007年に太陽鉄工は「株式会社TAIYO」に社名変更し、2008年には東証2部に上場するまでになりました。 その後PH社による公開買付(TOB)により子会社となり、2012年6月12日に上場廃止となりました。

 それなのに倒産してしまったのは、ワンマン経営で無理な投資などを進めてしまった結果だと、鈴木さんらは考えたそうです。

そこで、経営に外部の監視の目が入る(ガバナンスの利く)会社の在り方として、 株式公開企業を目指そうと、最初から上場を意識していたそうです。

 また、国内外の自動車メーカーなどの大企業が主要顧客になるため、会社の社会的な信頼度もとても大切だと考えたそうです。 上場企業であれば、決算書は公開されているし、監査も受けている。経営に対しても一定の外部の眼が入る。 ということで、取引先からの信頼感が高まると思ったそうです。 そしてその思いは、2006年のマザーズ上場で実現されました。

 

4. 「ナットランナ」って何?

それでは、いよいよ事業内容の話に入っていきましょう。

エスティックの主力商品は「ナットランナ」です。あまり聞きなれない言葉だと思います。 ナット(nut)は、右の写真の「ボルトとナット」のナットです。 このナット(あるいはボルト)を締める機械がナットランナです。

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「ナットランナ」は、一般的にはナット、ボルト、ネジ等を締め付ける工具の総称です。 住宅の建築現場などで見かける電動インパクトレンチもその一種ですが、 ナットランナの多くはトルク(締付力)を調整、または管理できるようになっています。 その中でも非常に高レベルなトルク管理が(トルクのみならず、角度や回転数まで管理) できるものをエスティックは生産・販売しています。

 

世の中の多くの機械は、ボルトナットやネジなどで部品が接合されています。 これが適正なトルクで締付けられていないと、接合部が緩んだり耐久力が落ちたりするなど、製品不良の原因となります。

多くの組立工場で締付工程は重要ですが、特に自動車や建設機械、航空機など、 常に振動にさらされるような機械を作っている工場などでは、製品の欠陥に直結しかねないだけに、 締付トルクや角度などの管理は、非常に重要な品質管理項目となっています。

エスティックが生産するような高級ナットランナは、このような高い精度が求められる場面で使用されています。

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強すぎず、弱すぎず、ちょうどよい力加減でボルトを締めるためには、 「回転角度」「トルク」「回転時間」の3つの要素が複雑に関係しますが、 エスティックのナットランナはこれら3つの要素を厳密に管理して、緩まないようにボルトを締めてくれます。 しかも、ボルトを締める都度、どのように締めたかの記録まで残るそうです。

 

かつて適切にボルトを締めることができていなかった時代には、 自動車の、特に基幹部分(エンジン等)のボルトが振動で緩んでしまい、大きな事故が起こったこともあるそうです。

エスティックのナットランナは、自動車の基幹部分のボルトを適切に締めることで、私たちの安全を守ってくれています。

自動車の車体そのものではなく、自動車を組み立てる過程の、しかもボルトを締めるという一場面だけでも、 そのように細心の注意が払われているというのは、とても興味深いです。 しかも1本1本、締めたボルトの記録が残っているというのが驚きです。

それでは、汎用品のナットランナは、というと、そこまで緻密な管理が求められない場面で使われます。 例えば、家具の組立とか、建設物の組立などです。管理するのも「トルク」だけです。

市場規模としては、おそらく汎用品の方が大きいでしょう。 だからこそ、高級なナットランナ市場は、大企業が参入してきにくいニッチな市場であるともいえます。

5. エスティックの競合会社は?

国内の主な競合は、第一電通(非上場)と技研工業(非上場)です。国内シェアは、エスティックがNo1だそうです。

海外の主な競合は、アトラスコプコ(スウェーデン)、ボッシュ(ドイツ)です。 アトラスコプコは、スウェーデンの会社で、ストックホルム証券取引所に上場しています。 売上高1兆円を超える、世界規模の産業機械企業グループです。スウェーデンのインデックスOMX30にも入っている巨大企業です。 (2017年8月の国シリーズで取り上げていました。今、見直して気付きました。)

伊勢嶋常務によれば、これらの大企業のナットランナとエスティックのナットランナを比較したときに、 品質は同等、価格はエスティックのほうが安い。ただし、サポート体制は、 世界的な企業であるアトラスコプコやボッシュの方が優れている、ということでした。

6. よく売れているハンドナットランナ

近年の業績の拡大は、特にハンドナットランナによるところが大きいです。

従来のナットランナは、生産機械に据え付けられたもので、あらかじめ定められた動作を行うものが大半でした。 ですから、ナットランナが使われる前提として、年間10万台は生産するようなラインの存在がありました。 そうでないと、自動車組立メーカーにしてみれば、高価なナットランナを設置するだけの投資に見合わないからです。

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そして、そのような投資に見合わないものについては、エアーのネジ締め機を人が手で持って作業していました。 空圧で回すネジ締め機です。ところがこれは、機械のコストは安いものの、エネルギー効率が悪いという難点がありました。 また、エアーのネジ締め機はどのようにネジを締めたかの記録を残すことができず、 トレーサビリティの点からも課題がありました。

そこに出てきたのが、エスティックのハンドナットランナです。 上記のような問題点をクリアできるもので、 今、エアーのネジ締め機をハンドナットランナに置き換えていく需要が継続的に発生しているそうです。

 

ハンドナットランナの従来の難点は、人が手で持って回すので、 反力(ネジを回し切ったときに、ネジではなく人の手が回ってしまう現象)がどうしても起こってしまうことでした。

しかし、エスティックのハンドナットランナは特別な技術により、その反力の発生を小さく抑えることに成功しました。

それにより、人の手で(据え付け型の)ナットランナ並みに正確なネジ締めができるようになり、顧客の支持を得ています。

今はさらに一歩進んで、コードレスのハンドナットランナを製品化しています。

7. サポートを充実させることで海外での売上が拡大

世界的な自動車の生産拠点といえば、やはり中国とアメリカです。

エスティックはこの2か国と、タイに子会社及び関連会社を設立し、販売体制とサポート体制を充実させました。

このことが功を奏して近年、これらの国での売上が拡大し、売上全体に占める海外売上割合は50%を超えるまでになっています。

これからも世界的には自動車の需要がますます増大していくはずであり、その点では成長性に期待できるといってよいでしょう。

8. 自動車のEV化という大きな変化が訪れる

世界的に自動車の需要がますます増えていく一方で、自動車業界には大きな変化が訪れつつあります。自動車のEV化です。

ナットランナやナットランナを組込んだネジ締付装置は、高級な機械であるため、 自動車の組立のすべての場面で使うのではなく、特に重要な部分、エンジンの組立ラインやトランスミッション、 その他重要な部品の生産に使われています。 エンジンのような基幹部分を締め付けているネジが路面からの振動により緩んでしまえば、 人命にかかわる事故につながりかねません。

自動車がEV化すると、今までエンジンで進んでいた車が、モーターで進むようになります。 ガソリンエンジンのような内燃機関に比べ、振動の少ないモーターでは、 ナットランナやネジ締付装置によるネジ締め箇所が減少する可能性があります。

他方で、エンジン組立以外のトランスミッションやその他の重要な部品について、 ナットランナやネジ締付装置の需要があることは変わりません。

また、ハンドナットランナは、シートレール取付、エアバック取付、ステアリング回り、サスペンション回り、 ブレーキ等に多用されるためEV化の影響はなさそうです。 むしろエアーのネジ締め機からの取り換え需要が期待できそうです。

さらに、EVではバッテリーを多く積載し電力も高いため、接点回りが振動による緩みからショートして発火するリスクがあり、 バッテリー積載時のネジ締付管理は逆に増加しており、ハンドナットランナに対する需要は高まっているそうです。

このように自動車のEV化により大きな環境の変化が起こりますが、 そのなかでもエスティックの製品が活躍する場は、たくさんありそうです。

9. 航空産業での需要増?

もちろんエスティックはそのような時代の到来を見据えて、 自動車産業以外の例えば航空産業などでのナットランナの需要を開拓しています。

航空業界では、今、機体の素材がカーボン素材へと移行していますが、 カーボン素材の機体は、従来のようなリベット(鋲により金属と金属を継ぎ合わせる手法)では、 うまくつなぎ合わせられないそうで、そこにエスティックのナットランナが活躍する余地があるそうです。

日根野の感想

主に自動車の基幹部品のネジ締めというニッチな領域に、このようなニーズが存在し、 それを満足させる素晴らしい製品をもった企業があったことに驚きました。

指標面では目立ってよい業績を示していましたが、その裏付けを確認でき、大変有意義な会社訪問でした。

ただ、順風満帆とはいえません。自動車のEV化という大きな環境変化を控えて、 それまでの間にどれだけ代替するマーケットを開拓できるか、時間との戦いでもあります。

初対面のヒアリングであるにも関わらず、伊勢嶋常務には、丁寧なご説明、真摯な対応をしていただきました。

これからも長期にわたってエスティックが業績を拡大し、世界でさらに活躍されることを応援したいと思います。

※本稿は、日根野がヒアリングした内容を、事前に調査した内容等も踏まえて総合的に記述しています。 企業が正式に発表した見解・事実等ではないので、ご留意ください。

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