ジェイエスエス(6074) ハード・ソフト一体のノウハウで、子どもの健康を育む水泳教室を展開
今回は、スイミングスクールを直営や受託で運営しているジェイエスエス(6074)の本社を訪問して来ました。
ジェイエスエスの本社は、大阪市西区土佐堀1丁目4-11金鳥土佐堀ビルにあります。地下鉄四つ橋線の肥後橋駅から徒歩4分ほどの場所にあります。ビル名に「金鳥」とある通り、殺虫剤の金鳥(大日本除虫菊株式会社)のビルです。
9階の会議室に通していただきましたが、その窓からは土佐堀川を見下ろすことができ、少し遠くに目をやると中之島越しに大阪駅も見渡せました。
1.日本全国の子どもたちに水泳指導
ジェイエスエスは、日本全国の子どもたちに水泳指導をしています。
北は北海道から南は沖縄まで、JSSスイミングスクールという名称で施設を展開しており、2017年3月期末時点では84施設あります。このうち直営は62か所、運営を受託している施設が22か所です。
水泳指導と言えば、昔から学校教育の場で行われることが主でした。戦後は多くの学校にプールが設置されるようになり、学校プールで泳ぎをおぼえた方も多いと思います。
一方スイミングスクールは、現在では学校外教育の代表的なものですが、スイミングスクールの黎明期は、水泳の英才教育とも言うべき、ハイレベルの選手育成も目的だったようです。
きっかけは、1964年の東京オリンピックでの日本競泳陣の惨敗です。戦前は世界最強と言われていた競泳でしたが、東京オリンピックでは銅メダル1個のみに終わりました。その現実を見た競泳に縁のある名士たちが、私財を投じてスイミングスクール始めたということが始まりです。代表的なスクールとしては「山田スイミングクラブ」(後のイトマンスイミングスクール。ロート製薬社長山田輝郎が1965年に開設。1972年ミュンヘンオリンピックで青木まゆみが金メダル獲得)や、「フジタドルフィンクラブ」(フジタ工業社長藤田一暁が1969年に開設。同じくミュンヘンオリンピックで田口信教が金メダル)などがあり、その他の東京オリンピック後に開設されたクラブとともに多くのオリンピック選手を輩出するようになりました。
このようなトップスイマー養成目的だけに限らず、地域の子どもたちの健康のために自己資金でプールを建設したい、という篤志家の方も多く存在し、プールの建設後にジェイエスエスが運営受託する、ということがあったそうです。
このような歴史的背景から、スイミングスクールは次第に「子どもの習い事」の地位を獲得していきました。
スイミングは、子どもたちの体力をはぐくむとともに、ケガがとても少ないスポーツです。ジェイエスエスの経営理念に「水を通じて健康づくりに貢献する」とある通り、まさに子どもを中心とした健康づくりに貢献しています。
2017年3月期末時点では、総会員数100,178人のうち、子ども会員が87,201人(87%)を占めています。子ども会員、大人会員、いずれも月謝制です。地域にもよりますが、週1回の水泳指導で毎月6,000円~7,000円となっています。
あくまで水泳指導が中心ですから、フィットネスクラブのようにサウナやジャグジーなどはありません。
後述するジェイエスエスの持つ強みとともに、少子化傾向の中で幼児・低学年児童の子ども会員をメインにしたマーケティング戦略も優れています。
2.少子化なのに子ども会員数が増加するのはなぜ?
子ども会員数は、直近5年間を見ると、増加傾向にあります。日本全体では少子化が進んでいるはずなのに、ジェイエスエスの子ども会員数が増加しているのは、なぜでしょう?
2つの要因があります。
1つは、スイミングを習う年齢が早期化していることです。
以前は小学1年生くらいからスイミングを習い始め、小学6年生で卒業、というパターンが一般的でした。スイミングを習う期間は6年間です。ところが、近年は少子化を背景に保護者の方が教育熱心になり、小学1年生よりも早い時期からスイミングに通わせることが多くなっています。年少(3歳)、年中(4歳)、年長(5歳)だけでなく、早ければ2歳からスイミングに通わせる保護者も少なくないようです。
このような保護者のニーズを反映して、私立幼稚園のなかには、夏場に限らず通年で午前中の時間を使って、近隣のジェイエスエスに水泳指導を受ける時間を設けているところもあります。特色ある幼稚園として保護者の注目を集めることができます。
他方で、中学校受験や学校の補習のために学習塾に通う子どもが増えました。5年生くらいから塾に通う子どもが増えます。それに合わせて、スイミングを卒業する年齢は早期化しています。
年少よりも前の2歳から習い始め、小学4年生で卒業すれば、スイミングを習う期間は8年間になります。
このように、スイミングを習う期間が6年から8年へと長期化していることが、子ども会員数が増加する要因の1つと考えられます。
子ども会員数が増加するもう1つの理由は、参加率(水泳教室がある地域において、水泳教室に通う子どもの割合)が高まっていることです。世帯当たりの子どもの人数は減少している分、子どもの教育にはお金をかけるという保護者が増えています。
3.ジェイエスエスの強みはどこに? 創業の経緯から設計が強み
ジェイエスエスの事業は、竜奧興業(りゅうおうこうぎょう)株式会社の子会社として設立された事に始まります。
1971年6月に設立された竜奧興業は、設備工事業を行っていた会社で、特にプールの建設工事が得意でした。プールを手がける会社だけに、従業員には学生時代に水泳部だった方がたくさんいました。
あるとき、プールの施主から「建設だけでなく建設した後に水泳教室を運営してくれないか」と頼まれたそうです。水泳部のOBがたくさんいる会社でしたから、やってみよう、ということになり、奥村隆亮さん(現会長奥村征照さんの兄)が、1976年7月にジャパンスイミングサービス株式会社を大阪市北区に設立しました(1991年に株式会社ジェイエスエスに社名変更)。
最初は受託運営で始まりましたが、創業から3年後の1979年には、直営スクール『JSS宝塚スイミングスクール』(兵庫県宝塚市)を開始しました。その後は直営を中心にスクールを増やしてきました。
このような創業の経緯からか、ジェイエスエスは他のスイミングスクールにない特徴を備える事になりました。
それは、プールの設計施工というハードと、スイミングスクール運営というソフトの両方のノウハウを保有している、ということです。
そこから生まれたのが「コンパクトプール」です。
コンパクトプールはジェイエスエスが独自に開発したプールで、幼児を持つ母親の視点を大切にし、小さな商圏でもスクール経営が成り立つようにした低コストプールです。
従来型プールは6~7コースあるのに対し、コンパクトプールは5コース。設備の広さも従来型プールは990~1200平米あるのに対し、コンパクトプールは660~750平米です。
このようなコンパクトプールでは、従来型に比して建設費を低く抑えられるため、初期投資の回収に要する期間が短くなります。そのことで資金調達しやすくなるとともに、投資回収が早いため経営環境の変化するリスクを減らすことができます。
また、設備が小さければ、それだけ水道光熱費などのランニングコストを下げることができます。プールは、水温の調節、室温の調節に多額の水道光熱費がかかりますが、プールをコンパクトにすることでかなりの節約できます。
初期投資やランニングコストが少ない分、損益分岐点は下がり、小商圏でも採算が合います。結果として、施設を展開する地域が拡大します。ジェイエスエスによれば「コンパクトプールであるが故に事業所の展開余地が多く、将来のマーケットも十分な規模がある」ということでした。
また幼児や小学校低学年児童の水泳指導を主目的とした施設として設計されるので、トレーニング設備が不要で低稼働のスペースが少なく、スポーツクラブ内のスイミングスクールと比べてコーチや運営人員も少なくて済みます。
このようにプールの設計・建設段階から独自のノウハウで行っている点が、ジェイエスエスの歴史に由来する強みであると思います。
なお、竜奧興業、ジェイエスエスの創業者である奥村隆亮さんは、1985年8月に、日航ジャンボ機に乗っており、事故に遭われました。その後、竜奧興業は1997年に清算されましたが、ジェイエスエスは征照さんが、隆亮さんの意志を継いで社長に就任し、会社を発展させ、2013年にはJASDAQ(スタンダード)上場を果たしています。
4.競合の状況、生徒募集方法、景気の影響を受けやすいか?
ジェイエスエスの競合は、各地域にあるスイミングスクールです。有名なスクールとしては、前述の「イトマンスイミングスクール」があります。イトマンスイミングスクールは2008年に「東進ハイスクール」で有名なナガセ(9733)に買収され、ナガセグループ傘下の会社となっています。
イトマンスイミングスクールは、ジェイエスエスの競合ですが、面白いことにジェイエスエスとイトマンスイミングスクールとで商圏が重なっている地域は、ほとんどないとのことです。スイミングスクールの商圏は都市部で数キロ、郊外で10キロくらいです。スイミングスクール同士で、うまく棲み分けができているのかもしれません。
生徒募集は、チラシのポスティングや折込広告、スクールバスの車体広告などで行っています。春休み、夏休み、冬休みなどの短期教室でまずは体験してもらい、その後、会員になってもらうというのが集客のモデルです。
また2014年に業務資本提携したニチイ学館(9792)が運営する英会話教室会員との相互コラボレーションも行われており、今後に期待したいところです。
個人投資家としては、ジェイエスエスの業績が景気循環の影響を受けやすいかどうかが、気になるポイントのひとつです。
ジェイエスエスのサービスは、顧客の大半が子ども会員であり、保護者の立場からは「習いごと」(教育費)という位置づけです。ですから、景気のよしあしの影響を比較的受けにくくなっています。リーマンショックのときにも、あまり影響をうけませんでした。
フィットネスクラブのような、大人を対象としたものとは顧客の目的が異なる点も注目したいポイントです。
インタビュー後記
ジェイエスエスの始まりが、実はプール建設の得意な竜奧興業だったというのが印象的でした。竜奧興業という建設会社の屈強で不器用な従業員たちが、ひょんなことから、子どもたちに水泳指導を行うことになった、という映画になりそうなストーリーが思い浮かんできます。
創業者を含め、多くの水泳部出身者たちが事業に情熱を傾けたことで、今や日本全国の子どもたちが水泳を通して、健全な身体と心を育んでいます。また、リオ・オリンピックで銅メダルを取った瀬戸大也さんほか、多くのメダリストを生み出しており、私たちに勇気を与えてくれています。
水泳を通して日本中の健康づくりに貢献するジェイエスエスを応援したいと思います!
以上
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