アサンテ【6073】人材育成こそがコアコンピタンス。コンプライアンス重視経営を継続
今回は、シロアリ防除のトップ企業、アサンテ【6073】のIR部門を訪問してきました。
アサンテの本社は、東京都新宿区新宿1-33-15。ビル名は「アサンテビル」。
片側3車線の大通りである靖国通りに面した地下1階、地上9階建のこのビルは、近隣のビルと比べても豪奢な印象で目立っています。
アサンテは1996年4月に本社をこのビルに移しています。
1.日本列島改造で事業の将来性を確信
アサンテの創業は、現代表取締役社長の宗政誠(むねまさ まこと)さんが、1970年に東京都府中市で個人事業「三洋消毒社」を開始したことに始まります。
1943年生まれの宗政さんは、シロアリ防除の仕事に携わった経験があり、その時にこの仕事の重要性を強く感じており、26歳の時にこの三洋消毒社を始めました。
シロアリは全国に生息していますが、多くは倒れたり折れた樹木を食べて分解し、土に還したり、土の中に広げる巣で土壌に空気や水分が行き渡り、土壌改良を果たす益虫でもあります。
ただその中の一部は、餌を求めて木造住宅の湿気の多い柱などに取り付いて、家屋の大切な柱を食べてしまうのです。
宗政さんの頭の中では、このシロアリの生態と、当時の日本の政策の影響が結びつき、個人事業開始の3年後の1973年に法人化し、三洋消毒株式会社を設立します。
設立前年の1972年には、自由民主党の田中角栄が発表した政策綱領である「日本列島改造論」が、書籍としてもベストセラーになり、日本国内に「列島改造ブーム」が巻き起こりました。
シロアリをよく知る宗政さんは、列島改造ブームで森が整地され、木造住宅がどんどん増える状況を目の当たりにして、「シロアリ被害が拡大する。将来大きな問題になる」と直感し、法人化に打って出たのでした。
その後、神奈川に営業所を開設したのを皮切りに、順次営業所を増やしていきました。
しかし1976年に、一部の悪徳業者の行為によって業界全体のイメージが大幅に低下し、三洋消毒も売上が大幅に落ちる、という事態に見舞われました。
一方でシロアリ被害に困っている人たちもいて、農協に相談を持ちかける農家の方も多くいました。
そこで農協が信頼できるシロアリ駆除業者を探す動きがあった中で、1979年9月に静岡県藤枝市農協と三洋消毒は業務提携契約の締結にいたります。
農協の紹介によって農家各戸に営業して農家と直接契約、シロアリ防除工事を行い、代金は農協が回収するというスタイルでした。
この藤枝市農協との提携をきっかけに、各地の農協との提携をすすめ、アサンテの重要な顧客基盤となります。
その後、事業の拡大に伴って、1987年に本社を府中市から東京都新宿区に移転し、さらには1994年にCI*を導入し、商号を「株式会社アサンテ」に変更しました。
事業もシロアリ駆除にとどまらず、住宅リフォーム・メンテナンスや家屋補強施工、住宅基礎補修施工、耐震補強施工など、順次拡大させていきました。
また、顧客満足度向上の取り組みの一環として、2002年には「お客様相談室」を開設し、信頼向上に努めていました。
ところが、2003年頃から高齢者に対する悪質リフォーム訪問販売事件が社会問題化し、2006年に大手の同業者が経済産業省から「訪問販売業務停止命令」(特定商取引法違反)を受ける事態が発生し、業界の信用が再び失墜してしまいました。
多くの同業者が事業縮小や撤退に追い込まれる中で、アサンテも売上が低迷しましたが、以前からのコンプライアンスの取り組みと全国の農協との提携で培った信頼で、この危機を一度も赤字を出すことなく乗り切ることができました。
このような試練を経てアサンテは2013年に東証2部に上場し、さらに翌年の2014年には東証1部指定替えとなって、今日に至っています。
*注)「CI」・・・コーポレートアイデンティティ(Corporate Identity)。理念や企業の独自性、方針などを、シンボライズされたビジュアルアイテムとともに統制の取れたメッセージを発信することで企業イメージを統一し、企業価値を高めようとする活動。
2.アサンテの事業
アサンテの2018年3月期決算の売上高は139億90百万円、営業利益は21億31百万円、営業利益率は15.2%です。
事業は単一セグメントですが、木造住宅を対象としてシロアリ・湿気・地震対策とリフォームなどを行うHA(ハウスアメニティ)事業と、ホテルや飲食店、オフィスビルなどを対象にトコジラミやゴキブリ、ネズミなどの害虫、害獣防除を行うTS(トータルサニテーション)事業という2つの事業があります。
売上高はHA事業が圧倒的で、シロアリ対策(57億円)、湿気対策(32億円)、地震対策(44億円)の主要3対策だけで合計133億円、売上高全体の95%超を占めます。
HA事業の中心は、何といっても祖業であるシロアリ対策です。
シロアリは、木材のセルロースを食し、暗くて湿気のある暖かい場所を好むので、床下、屋根裏、浴室、畳の裏などで多く存在します。
日本に生息するシロアリのうち加害種は4種で、そのうち北海道の一部を除いてほぼ全国に分布する「ヤマトシロアリ」と、主に中国・四国・九州の沿岸部など、西日本中心に分布する「イエシロアリ」が主たる駆除ターゲットです。
ヤマトシロアリは、木材の中に巣をつくり、数万匹のシロアリがその木材を食べ続けます。
食べ物が少なくなった場合には、集団で飛び立って移動し、別の木を見つけて営巣します。
ヤマトシロアリが群がって飛翔する季節は4月~6月頃が多く、5月にピークを迎えるため、このころアサンテへの調査依頼が大変多くなります。
一方のイエシロアリは、土中に巣を作り、そこから「蟻道(ぎどう)」と呼ばれる道を作って食料である木材を食べに行きます。
巣の中には数十万匹から、場合によっては100万匹ものイエシロアリが棲むため、木を食べるスピードは速く、木造住宅の被害は甚大です。
また、床下のみならず、風呂場や屋根裏、長く動かさないタンスの裏など、木造家屋の至る所を加害していきます。
このほかに、最近では外来種の「アメリカカンザイシロアリ」も各地で発見されています。
アメリカカンザイシロアリはその名が示すとおり、水分の少ない木材(乾材)でも食べてしまうという性質があり、アメリカの州によっては予防処置のしていない木材では、家の建築が禁止されているなどの措置が取られているそうです。
イエシロアリの飛び立つ時期はヤマトシロアリよりやや遅く、6月~7月初旬ごろ、アメリカカンザイシロアリは7月~8月頃です。
このような特長からアサンテの売上は上期偏重という季節要因があります。また、長雨などによる天候の影響も受けやすい事業です。
具体的な防除工事としては、土台や柱などにドリルなどで小さな穴を空け、専用の機械で木の中に薬剤を注入して浸透させ、穴は木栓で塞ぎます。
その他の土台や土壌にも、それぞれ薬剤をスプレーし、また必要に応じて室内の壁や床などからも薬剤を注入して防除処理をします。
かなり以前には強力な防蟻剤(ぼうぎざい)や防腐剤が使われていたこともありましたが、現在は環境汚染防止と、何より住む人と施工者の安全・健康確保の観点から、環境影響の少ない薬剤(業界団体認定)を使用しており、有効期間は5年で、その間の施工保証をしています。そのため5年ごとの更新工事が発生します。
湿気対策は、文字通り木造家屋床下の湿度対策工事です。
一般に木材は、高温多湿の条件の下では腐りやすくなります。
これは詳しくいえば高温多湿の環境では「木材腐朽菌」という菌が繁殖して、セルロースなどを分解して木を腐朽(腐ること)させるからです。
しかも悪いことに腐朽菌が好む条件はシロアリにも適しているので、腐朽とシロアリの両面から、家の土台は攻撃を受けるのです。
現在では工場であらかじめ防腐処理された木材が使用されるなど、対策は進んではいますが、日本の既存木造家屋は床下の湿気対策が不十分なものも多く、そのような家屋には床下換気扇や調湿剤の設置による湿気対策を行います。
これにより腐朽菌の繁殖防止とともに、シロアリ発生予防にも繋がります。
床下土台の腐朽やシロアリの被害を受けていなくても、古くからの木造軸組工法による「ほぞ」や「釘」による土台の接合では、十分な耐震性能を確保できていなかったり、基礎の経年劣化などにより耐震性能が低下したりしている家屋もあります。
こうした場合は耐震接合金具による土台の追加接合や、基礎補修工事などにより耐震性能を向上させる地震対策を行います。
近年はこの地震対策の受注が伸びて、シロアリ防除に次ぐ売上を上げるようになっています。
TS事業の顧客は主に法人であり、ここがHA事業との大きな違いです。
特徴的なのは、ホテルや旅館などのトコジラミ駆除です。
トコジラミは別名「南京虫」で、1970年代に日本では絶滅したといわれていましたが、近年はアメリカを中心に繁殖し、特に最近は日本に持ち込まれて被害が増えているということです。
トコジラミは英語で「Bed Bug」と言い、寝具に潜んで寝ている人間の血を吸って栄養にする虫です。
噛まれると赤く腫れたり痒みを伴ったりという被害があります。
体調は5~8mm程度で目につきにくく、発見しにくい害虫です。
しかしながらトコジラミは特有の微臭があることから、アサンテでは特別に訓練した「トコジラミ探知犬」を活用しています。
トコジラミ探知犬は欧米では300頭も活躍していると言われ、人間では一部屋当たり30分の時間をかけて発見率30%程度のところ、このトコジラミ探知犬は3分~7分程度で発見率95%を誇っています。
その他にシロアリ探知の訓練も受けた「シロアリ探知犬」も養成されており、現在は8頭の探知犬が「探知犬チーム くんくんズ」として活躍しています。
3.競合、市場
シロアリ防除関係市場でアサンテのシェアはトップです。2位は福岡が本社のサニックス【4651】です。
シロアリ防除上位10社の売上合計は220億円を超える規模です(アサンテの推定による)が、業界団体加盟の業者は730社に対し、非加盟業者はその3倍以上存在すると思われ、業界全体では3,000社もの業者がいると推定されています。
これは、シロアリ駆除業者の多くが小規模事業者であることを示しています。
なお、業界2位のサニックスの創業者は、アサンテ宗政誠社長の実弟の宗政伸一氏(2017年没)ですが、会社として業務の付き合いはなく、営業面でも競い合っているということでした。
シロアリ防除関連事業の潜在需要としては、国の住宅政策も新築中心から「既存住宅流通・リフォームの活性化」(住生活基本計画)になっていることを背景に、2600万戸もある既存木造戸建住宅の新規シロアリ駆除・予防市場は4兆円以上と推計されています。
また先に述べたように、薬剤の有効期間は5年なので、新規開拓すればするほどストック需要も増加していきます。
アサンテとしては現在のところ、今まで手薄だった関西以西へ積極的に営業展開しており、国内の需要に応えていく方針です。
4.人材育成とコンプライアンス体制
お客様の信頼が大切な事業基盤であると考えるアサンテでは、その信頼を得る基本は「人」であると考え、「人と技術を育て、人と家と森を守る」という企業理念を掲げ、社員教育に力を入れています。
1990年に静岡県の三ヶ日町に総合研修センターをオープン(2015年建替え)し、さらに2002年には福島県の猪苗代町にも総合研修センターをオープンさせており、ここで新卒採用・中途採用にかかわらず、専用のモデルハウスを使った調査・施工研修はもちろんのこと、マナー、接客などを含めて基礎研修が行われます。
各地の営業所配属後も、先輩社員のマンツーマン指導の下でスキルアップを重ねる体制を取っています。
また、アサンテは経営方針のトップに「コンプライアンス優先の経営」を掲げており、コンプライアンス担当取締役を置くとともにコンプライアンス本部を設置しています。
様々な業者が存在する「訪問販売」の業界では、社員一人一人のお客様への対応が信頼を呼び、ひいては他社との差別化に繋がって行きます。
さらに5年ごとの更新需要を受注していくには、お客さんと対面する社員のレベルの高さが不可欠です。
この社員教育制度とコンプライアンス体制について、たゆまない努力を継続することで、人材が育ち、それがアサンテのコアコンピタンスを形成しています。
インタビュー後記
アサンテでは「神社仏閣プロジェクト」として敦賀気比神社を始め、各地の文化遺産をシロアリから守る活動をしています。
またシロアリプレスセミナーの実施やサッカーJ1の川崎フロンターレの公式スポンサーになるなど、広報活動を積極的に行っています。
とは言え、アサンテのさらなる知名度向上、信頼感向上の活動はまだまだ必要です。
お客様の家の床下に潜って調査し、あるいは施工する仕事は、決して楽ではありません。
また農協との提携があるとは言え、訪問販売という営業スタイルは厳しい場面も多くあります。
それを乗り越えて施工を実施し、家の安全を守っていくアサンテ社員の方々。一人ひとりの丁寧な仕事こそが会社の「信頼」を厚くする源泉です。
それを支えるアサンテのコンプライアンス重視経営を、これからも応援していきたいと思います。
以上
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