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OATアグリオ【4979】農薬・施肥灌水・バイオスティミュラントで食糧増産に貢献する


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今回は、OATアグリオ【4979】のIR部門を訪問してきました。(「オーエーティーアグリオ」と読みます。)

OATアグリオの本社は、東京都千代田区神田小川町1-3-1 NBF小川町ビルディングの8階です。

地下鉄新宿線小川町駅、千代田線新御茶ノ水駅、丸ノ内線淡路町駅の各駅から徒歩1~2分、JR山手線神田駅からも8分程度という、交通至便な場所にあります。

周辺は古くからのビジネス街であり、またビジネスマン狙いの飲食店も沢山ある場所です。

 

 

1.会社設立は2010年、ルーツは1950年
OATアグリオは、2010年9月に設立された若い会社です。しかしそのルーツを辿ると長い歴史があり、多くの新興企業とは少し趣を異にしています。

OATアグリオは、もともと大塚化学株式会社のアグリテクノ事業部が分離・独立してできた会社です。そこで大塚化学の起源を見ると、1950年に大塚製薬工場(現:株式会社大塚製薬工場)の有機化学部門を分離して設立した大塚化学薬品株式会社に始まります。

大塚化学薬品は後に大塚化学に社名を変え、大塚グループの中で様々な化学品の開発・製造を担う中核会社として発展していきます。
みなさん良くご存じの「オロナミンC」や「ボンカレー」を世に出した会社でもありますが、実は農薬や肥料の開発、製造も早くから行われていました。

様々な化学品の開発、製造で大きく発展し大企業となった大塚化学から、2010年に当時大塚化学の副社長だった森明平さん(現OATアグリオ代表取締役社長)を中心に、アグリテクノ事業部のMBOが行われ、独立会社としての道を歩くことになります。

この頃の大塚グループでは、持ち合いにより複雑になっていたグループ間の資本関係の整理が行われている時期でもありました。
グループ連結売上高が1兆円を超える巨大な大塚グループの中で、農薬・肥料事業は売上額が100億円内外であり、メイン事業ではありませんでした。それならば、独立してグループ戦略に縛られない俊敏な経営体制として新たなチャレンジをしよう、ということでMBOによって独立しました。

MBOにあたっては、まず2010年9月28日に大塚化学から大塚アグリテクノ株式会社を新設分割し、その2日後の9月30日にみずほキャピタルパートナーズが運営するファンドが株式を買い上げるという方式で行われました。
その後、新しい会社は事業運営をする傍ら、社員持ち株会を中心にファンドからの株式取得を進めました。

そして2014年4月に、社内公募によって社名を現在の「OATアグリオ株式会社」に変更するとともに、同年6月には東証2部に上場。翌2015年12月は東証1部への指定替えを果たしました。

この株式公開によってファンドは徐々に株式を手放し、2016年には完全にイグジットを果たします。これによって筆頭株主は社員持株会となりました(2017年12月期の大株主は信託口が1,2位を占め、持株会は3位となっている)。

新しい会社ながらコーポレートガバナンスなどの会社基盤は引き継がれ、その上で社員が株式を所有し、新社名を社員自らが決めたOATアグリオ。社員の高いモチベーションが想像できますね。


2.事業を取り巻く状況。
OATアグリオは「食糧増産技術(アグリテクノロジー)と真心で世界の人々に貢献します」という企業理念のもと、連結売上高は、約152億円(2018年12月決算。以下同じ)を上げています。
「食糧増産技術で貢献する」というだけあって、マーケットはグローバルです。まずはOATアグリオの事業を取り巻く事業環境を概観してみましょう。

アクションラーニングのオンラインセミナーをご覧になっている方はご存じの通り、世界人口は増え続けています。現在約76億人の世界人口が、30年後の2050年には98億人まで増加する見通しです。
一方で過去30年、農作物の耕地面積はほとんど変わっておらず、人口増により一人当たりの耕地面積は減少を続けています。

つまりこの食糧問題を解決するには、少ない耕地面積でより多くの農作物を収穫する農薬や肥料の開発、食糧増産技術の開発が不可欠なわけです。
このように発展の期待が大きい「農薬」「肥料」マーケットですが、それぞれの現状を見ておきましよう。

「農薬」の世界市場規模は6兆円~7兆円程度と推計され、そのうち日本国内の農薬市場は3000億円~4000億円規模です。

農薬の用途としては穀物向けの市場規模が最も大きく、次いで野菜向け、果樹向け、その他と続きます。日本では穀物向け農薬の中でも特に水稲用農薬が大きな規模を占めているのが特長です。

水稲用農薬は市場規模が大きいだけあって、全農系メーカーを中心に大手メーカーがシェアを競っています。一方、OATアグリオは野菜や果樹用の殺虫・殺菌・除草剤に強みを持っています。

農薬メーカーは、自ら農薬の有効成分である「原体」を開発・製造し、販売するメーカーと、原体を購入して添加物を配合し、粉体や粒状、液状の製品に仕上げる「製剤」メーカーに分かれます。

世界に約千社あるといわれる農薬メーカーですが、そのほとんどは製剤メーカーであり、原体を開発・製造するメーカーは世界で20社ほど。そのうち日本のメーカーが半分を占めています。OATアグリオは、この原体メーカーの1社です。

原体メーカーは、新たな農薬(原体)の研究・開発にコストをかけるだけでなく、販売するまでに各国での法律に(日本では「農薬取締法」)基づいた申請・登録についてのコスト負担もあります。よって新農薬の開発には、概ね10年以上の時間と数十億円~数百億円規模の費用がかかるといわれています。

こうして国内・国外で登録できた農薬原体について、原体メーカーは自ら製品販売する他、各国の製剤メーカーに原体を販売し、製剤メーカーが製品にして販売します。こうして開発コストを回収し、収益化していきます。
医薬品業界と同様「ブロックバスター」と呼ばれる画期的なヒット製品が生まれた時は、原体メーカーに莫大な利益をもたらします。

「肥料」については、世界市場規模は12兆円~15兆円程度と推計され、国内市場は4000億円~4500億円程度です(出荷額ベース)。
肥料メーカーは国内だけで約3000社(肥料取締法に基づく登録・届出事業所数)もあります。

肥料も肥料取締法の規制を受け、農薬と似た状況にありますが「肥料の三要素」と呼ばれる窒素、リン酸、カリが主原料であり、この三要素を中心に用途に合わせてその他の要素を配合した化学肥料を各社が製造し、肥料としての登録の上、販売しています。

メーカーが多い理由は、原料の調合が農薬より比較的容易であることに加え、肥料製品の質量の割に販売価格は安いため、保管・輸送コストの面からも、地産地消が多いことが挙げられます。


3.OATアグリオの3つの事業ドメイン
こういった状況を踏まえてOATアグリオの有価証券報告書を見ると、収益は単独セグメントですが事業ドメインとしては防除技術、施肥灌水技術、バイオスティミュラント3つであることが報告されています。

「防除技術」はいわゆる農薬で、害虫や病害から農作物を守る技術で、主に殺虫剤や殺菌剤、除草剤などです。売上額は約103億円。全体の約7割を占めています。

「施肥灌水技術」は、肥料および栽培システム技術です。栽培システムは主にビニールハウス内での水耕栽培等で必要十分な水と肥料を最適なタイミングで自動供給するシステムとその資材の販売です。

「バイオスティミュラント」は、植物が本来持つ免疫機構に働きかけて、耐寒性や耐暑性、病害虫耐性などの免疫力を高めるもので、いわば植物の健康促進剤です。
「施肥灌水技術」「バイオスティミュラント」両事業併せた売上高は約49億円です。

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殺ダニ剤「ダニサラバ」


「防除技術」の農薬では主に野菜・果樹向けの殺ダニ剤や殺菌剤が主力となっています。

農薬、特に殺虫剤で特徴的なところは、新開発された農薬が当初は大きな効果を上げたとしても、しばらく経過すると抵抗性(農薬耐性)を持つ害虫(特にダニ)が出現してくることが多く、新規の農薬が必要になる、ということです。

ただ、耐性を持つ害虫が出てきた場合、新薬開発で対処するだけでなく、他社の農薬(抵抗性害虫が出現していても可)と提携し、両殺虫剤原体を調合して効果を発揮する製品をつくることができるそうです。

つまり競合の原体メーカーは、ライバルでもありアライアンスの相手でもある、という関係になります。

 


「施肥灌水技術」の肥料は、農薬同様野菜や果物などの園芸用に強みを持つほか、水耕栽培分野では、トップシェアの製品を持っています。

また肥料だけではありませんが「養液土耕栽培システム」でも大きな実績を持っています。
養液土耕栽培というのは、もともと乾燥地帯であるイスラエルで開発された方法で、土に植えた作物に合わせて穴を空けた点滴チューブを這わせ、チューブに肥料を混ぜた水をタイミング良く流すことで、作物に必要なだけ水と栄養が供給できるしくみです。

この方法では、作物以外のところに水と栄養が行かないので雑草が少なく、施肥灌水が自動なので、農家の労力を軽減するだけでなく、肥料のやり過ぎによる環境汚染の発生も防げます。


「バイオスティミュラント」は、植物成長調整剤「アトニック」が、東南アジアや欧米など、約20カ国で販売されています。

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農薬は、種類によっては作物にネガティブな影響を与えるものもあります。
たとえば除草剤は雑草を防除しますが、作物の生育にも悪影響があります。そこで除草剤と同時にアトニックを使うことで除草剤の負の影響を減らし、植物が本来持つ成長力を発揮させます。

バイオスティミュラントは、単なる成長促進だけでなく、日照不足や日照りによる干ばつ、寒冷・炎暑などの悪環境において効果を発揮するところです。

環境意識の高いヨーロッパでは農薬に対する規制の進展で、従来使っていた化学合成農薬が使用禁止なる例もあり、その農薬に代わるものとしてバイオスティミュラントが注目されています。

市場規模は2005年には500億円程度でしたが、2014年には1500億円になり、さらに2021年には3000億円規模になると予想されています。

OATアグリオでは、このバイオスティミュラントを農薬、肥料に続く第三の柱として育てるべく注力しており、日本バイオスティミュラント協議会設立(2018年1月)にあたっては、中心的な役割を果たしました。


4.海外展開は?
農薬の状況で述べたとおり、農薬の販売には国ごとの登録が必要ということもあり、外国企業との提携や合弁会社の設立、買収には積極的です。

OATアグリオではパキスタン、インドネシア、中国に、子会社の旭化学工業がチェコに販売の現地法人を持っています。また、インドには農薬の新規原体開発会社もあります。
これらの関連会社と現地代理店などを通じて、世界63カ国でOATアグリオ製品や農薬原体は販売されています。

これらに加えて2018年には2つの大きな動きがありました。
まず、2018年6月にスペインのLIDA社を買収しました。LIDA社はバイオスティミュラントや天然の防除資材・肥料の開発、製造・販売会社です。

また2018年12月にはオランダのクリザールグループ20社の全株式を約79億円で取得しました。

クリザール社は、花と植物の鮮度保持剤で世界シェアトップです。
欧米では切り花やブーケのマーケットは非常に大きく、そこで収穫から卸、小売に至るポストハーベストの鮮度保持剤マーケットを押さえています。
一方OATアグリオは収穫前のプレハーベストでの製品が主ですが、そこで培われた技術がポストハーベストの雑菌抑制や栄養補給に応用できると考えています。

また、欧米の市場中心のクリザールと東南アジアに強いOATアグリオは、マーケットでも補完関係にあります。
今後アジアでの切り花市場の成長が見込まれる中、クリザール買収の効果が期待されます。


5.今後について
2010年の創業以来、売上高にして年平均8%の成長を続けてきたOATアグリオですが、今後もこの成長率を維持して行く方針です。

戦略としては防除、施肥灌水、バイオスティミュラントそれぞれの売上を伸ばしながら、防除50%、施肥灌水+バイオスティミュラント50%に持って行きたいと考えています。

この戦略を支えるのが海外での売上です。2018年に買収した欧州の2社の連結もあり、2019年度は売上高200億円を突破する見込みですが、早く300億円規模まで持って行きたいと考えています。

農薬について大手原体メーカーは、新薬開発のコスト回収の観点からも、市場規模の大きい穀物向けに注力しがちです。OATアグリオは、それ以外のニッチな市場であっても、農家に必要なものは農薬原体の開発を進めます。

肥料についても農薬同様に野菜・果樹で、特にハウス栽培においては、自動灌水と液肥にとどまらず、ハウス内でカメラやセンサーなどのIoTでデータを自動取得し、AIで施肥灌水や農薬の予防散布が行われるシステムを開発、提供していきます。

この中で、OATアグリオは徳島県にある栽培研究センターのいちご栽培において、2019年1月にGLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)の認証を取得しました。
GLOBALG.A.P.とは「食の安全」「環境保全」「労働の安全」を国際基準の生産工程管理で実施するというものです。

バイオスティミュラントは、「アトニック」とスペインのLIDA社の製品を中心に進めていきます。

これらの成長を支える研究開発は、売上比10%を維持し、食糧増産に寄与する商品の開発をしていきます。

 

※文中の市場規模、出荷額等の数字は下記の資料を参照しました。
「生産資材(農機・肥料)の現状について」経済産業省(2016)
「肥料をめぐる事情」農林水産省(2017)
「2018農薬年度出荷実績」農薬工業会(2018)
「農薬業界の動向と我が国メーカーに求められる戦略」三菱東京UFJ銀行(2017)
「国内農薬市場の動向」三井住友銀行(2017)
「肥料市場に関する調査結果2015」矢野経済研究所(2015)

 


インタビュー後記
世界的な巨大企業がしのぎを削る農薬マーケット。その体力がものを言う新薬開発に、小さい規模ながら敢然と立ち向かうOATアグリオ。この企業姿勢は、独立独歩の道を選んだ創業時のエネルギーが、今なお旺盛であることの証ではないでしょうか。

将来の食糧不足という社会問題解決に寄与することを、大いに期待したいと思います。

以上

 

※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。
当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。
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