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日本色材工業研究所【4920】開発製造受託で「Made in Japan」ブランド化粧品を支える


今回は、国内外の多くの化粧品メーカーから製造の受託をしている日本色材工業研究所【4920】のIR部門を訪問してきました。Nihonshikizai Honsya_Angle Densen cut.jpg (126 KB)

 

日本色材工業研究所の本社所在地は、東京都港区三田5-3―13です。

本社への最寄り駅は、地下鉄三田線の白金高輪駅か三田駅から徒歩10分、大江戸線麻布十番駅やJR山手線田町駅からも徒歩12分です。

三田駅からは慶応大学三田キャンパス方面に向かい、国道1号線の大学正門前を通り過ぎて、少し坂を下った古川橋寄りの住宅地の中にあります。

近隣の大きな高級マンションに取り囲まれた、とても静かなところに本社はあります。

 

 

1. 1930年に白粉顔料製造で創業

日本色材工業研究所のルーツは、1930年(昭和5年)に、現 代表取締役会長、奧村浩士さんのお父様が、中野区で始めた白粉(おしろい)用の顔料を製造する事業です。

この事業は伸びたようですが、太平洋戦争による事業中断を余儀なくされました。

そして戦後間もなく、取引先メーカーの大阪工場近くの倉庫を借り受け、顔料の生産を再開しました。

顔料を納品しているうちに、複数の化粧品メーカーから「顔料だけでなく白粉や口紅なども作ってくれ」という要望が日増しに増加し、祖業の顔料製造から、化粧品OEM(Original Equipment Manufacturer 製造受託)事業が拡大していきました。

 

そして事業再開から約10年後の1957年には法人化を果たし、株式会社日本色材工業研究所となりました。

この頃になると化粧品OEM専業会社となり、生産能力増強のために1971年には大阪府吹田市に吹田工場を設置したほか、生産効率化機械の開発・導入を積極的に進めて行きます。

1979年には、関東の基幹工場として神奈川県座間市に座間工場を竣工させます。

座間工場は、その後の10年間で6段階の拡張工事を重ね、ファンデーションの粉体や口紅成形前のペーストなど、製品主体を作る「バルク」製造から、成形・容器への充填、パッケージング・箱詰めといった「組み立て加工(以下、アセンブリ)」まで、化粧品製品製造を一貫して行える工場となりました。

研究開発については、1992年には三田の東京工場廃止によって、その場所に研究開発部門を統合し、研究設備の拡充を図りました。

1996年には株式の店頭登録を果たします(現在はJASDAQスタンダード)。化粧品OEM会社としては、現在も唯一の上場企業です。

さらに2000年にはフランスの医薬品・化粧品のOEM会社であるテプニエ社を買収し、海外での生産拠点を傘下に収めます。

また2014年には茨城県つくば市のつくば工場が竣工しています。

現在国内では、吹田、座間、つくばの3工場が稼働していますが、このうち吹田がアセンブリ専門工場で、座間とつくばの両工場はバルク製造からアセンブリまでを一貫して行っています。

 

 

2.日本色材工業研究所の事業 メイクアップ化粧品のOEM

日本色材工業研究所の売上高は114億94百万円、経常利益は8億88百万円、当期純利益は6億15百万円です(いずれも2019年2月決算。以下同じ)。

セグメントは日本とフランスの事業会社の所在地別セグメントとなっていて、日本の売上高が93億68百万円、セグメント利益が6億76百万円、フランスの売上高が22億11百万円、セグメント利益が2億55百万円となっています。

事業の中身は両セグメントとも化粧品の受託製造で、医薬部外品、フランスでは一般医薬品の受託製造も一部含んでいます。

 

売上の8割を占める日本国内の化粧品OEM事業のマーケットから見ていきましょう。

矢野経済研究所の調査によると、2018年度の国内化粧品受託製造市場規模は、前年比112.1%の3250億円です(『2019年版 化粧品受託製造・容器・原料市場の展望と戦略』)。

この3250億円の市場をジャンル別に見ると、スキンケア市場が42.5%、メイクアップ市場29%、ヘアケア市場18.6%、その他が9.8%の構成比となっています。

日本色材工業研究所が主戦場としている国内メイクアップの市場規模は944億円程度と考えられます。そこから推定すると日本色材工業研究所のシェアは約10%で、第4位の売上規模だそうです。

日本色材工業研究所以外の化粧品OEM会社は上場していないため、詳細な数字は不明ですが、独占的な企業は存在しておらず、多くの同業者が競争している市場のようです。

 

化粧品の各ジャンルの代表的な製品を挙げれば、「スキンケア」は化粧水や乳液、クレンジングオイルなどで、主にボトルやチューブに入っています。
「メイクアップ」はファンデーションや口紅、アイシャドウなど。固体や粉体であるものが主体です。
「ヘアケア」はシャンプー、リンス、カラーリング、養毛剤などで、こちらもボトルやチューブ、詰替パウチパックなどの容器に入った液体やジェル状のものが主です。

こうしてみると、日本色材工業研究所が主として製造受託している「メイクアップ」製品は、スキンケアやヘアケア製品に比べて小容量で、多彩な商品がきれいな容器に入っているものが多く思い浮かびます。

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株主優待用オリジナル化粧品セット

 

これはすなわち多品種少量で製造に手間がかかる、ということを意味しています。

具体的な例でいえば、口紅などのメイクアップ製品の場合は、1ブランドで多彩な色の口紅(16色~36色など)が商品化されます。

多色を用意するためには、1色あたりのバルク(ペースト状態)の製造量は少なく、また1色作るごとに製造装置をきれいに洗浄しなければなりません。

成型後の口紅も小さな容器に確実にパッケージングし、小さな化粧箱に入れて、かつ美麗を保つなど、アセンブリ時点でも作業に手間がかかります。

一方スキンケアやヘアケアでは、容器に充填する前の「バルク」の状態から、自動化されたラインでどんどんボトルに充填し、できあがったボトルも自動で箱に詰めて行けます。バルク自体も一度に大量に製造することができます。

日本色材工業研究所は、こういった手間のかかるメイクアップ製品の製造受託を得意としています。

 

 

3.化粧品市場の変化とタイムリーな大規模設備投資

化粧品市場規模の最近の推移を見ると、いくつかのエポックが見えます。その一つに2005年の改正薬事法(現在は「薬機法」)があります。

医薬品や医薬部外品とともに法律の規制を受ける化粧品ですが、この時の改正で製造そのものの規制から、製品出荷を規制する方向へ法律の考えが大きく変わり、製造過程の全面委託が可能となるなど、参入障壁が大きく下がりました。

これにより製造設備を持たないファブレスの研究開発型企業や企画型企業も、化粧品メーカーになるべく参入が増え、製造を請負うOEMも活性化しました。

 

また2009年以降、中国やタイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジアの国々に次々と観光ビザが発給されるようになって訪日観光客が増加し、さらに2014年に訪日観光客への免税品に化粧品も含まれることになりました。
このことで、訪日観光客による日本製化粧品の売上が拡大しました。

このような背景から、先述の矢野経済研究所の調査によると、2018年度の化粧品OEM市場は、2014年度比で約40%も拡大しています。

 

こうした市場の流れをまるで見越していたかのように日本色材工業研究所は、2012年につくば工場を取得しています。

この工場は、約1万坪の広大な土地を持ち、建物拡張の余地がありました。もともとヘアケア関連企業の工場でした。

東日本大震災からそれほど時を経ておらず、日本色材工業研究所にとって大きな決断でした。
しかし、この決断がのちのち効いてきます。

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つくば工場(第3期工事竣工)

 

建物や生産ラインを整え、つくば工場が竣工したのは2014年。
まさにインバウンドの波が化粧品業界にやってこようとしていた時期でした。

すぐに生産能力の増強に取り組み、2017年には第2期拡張工事が完了し、さらに第3期拡張工事も進めることになりました。

現在ではインバウンドによる売上は一服したものの、日本製化粧品を持ち帰った中国・東南アジアの人達が自国で購入するようになり(越境ECを含む)、日本メーカーの輸出、いわゆる「アウトバウンド」の売上が増え続けています。

2019年11月現在つくば工場の第3期拡張工事はほぼ終えて、2020年の全面稼働に向けて準備が着々と進んでいます。

 

 

4.研究開発と製品提案でメイクアップ受託の効率化と高付加価値化を果たす

日本色材工業研究所は、1957年の法人化以降、メイクアップ製品の製造受託を中心に事業を行ってきた歴史があり、様々な生産効率化機械も開発し、ノウハウを蓄積しています。

たとえばメイクアップ製品の容器への充填工程では、戦後以来約70年以上の長きに亘り、様々な顧客から様々な形状の容器への内容物の充填委託を受ける中で、広範囲なフィールドで様々な容器形状にも確実に対応できる充填ノウハウが結集されており、その長年の蓄積から来る知見・ノウハウは一朝一夕ではは容易にマネできないだろう、ということでした。

これがOEMとしての強みの一つです。

日本色材工業研究所では、生産効率向上に日々努めていますが、やはり大量のメイクアップ製品アセンブリには、どうしても人手がかかってしまいます。

そこで、日本色材工業研究所は、自らの研究成果を元に、化粧品メーカーに新製品を提案することで、バルク製造からアセンブリまで一貫して受注することで効率を上げるとともに製品の付加価値を高めています。

 

この企画提案による製造受託は、売上の大勢を占めているということで、日本色材工業研究所の事業はOEMというよりODM(Original Design Manufacturing 開発製造受託)と表現した方が、実態に近いかと思います。

 

 

5業績に貢献するフランスの連結子会社

日本色材工業研究所の海外進出は、すでに20年近くの歴史があります。

2000年に買収したフランスのテプニエ社は、もともと一般医薬品等のOEM会社でした。

この会社のノウハウと日本色材工業研究所のメイクアップ化粧品製造のノウハウを合体させて、シナジー発揮を期待しました。
また、海外化粧品メーカーから受託も多い日本色材工業研究所には、フランスで製造することでプレゼンスの向上も狙っていました。

しかしながら計画の実行は茨の道でした。

メイクアップ製品の製造立ち上げはゼロからのスタートでもあり、計画より時間がかかる一方、医薬品の製造受託では品質問題からやがて訴訟に。
さらにはリーマンショックに続いて2009年のギリシャ危機よるヨーロッパの景気悪化などで減収が続き、赤字からなかなか抜け出せませんでした。

この間、老朽設備の営繕、更新はもちろん、グループ一体で財務体質強化に努めたところ、メイクアップ製品のOEMも伸び、また医薬品OEMでの安定受注案件の獲得などもあり、2016年2月決算でようやく黒字に転換しました。

その後、訴訟も終わり、売上・利益とも伸ばしているテプニエ社。

為替の影響はあるものの、2019年2月決算では2億55百万円のセグメント利益を計上するまでになりました。
今後、フランスでのOEMが、さらに利益貢献することが期待されます。

 

 

インタビュー後記

海外、特に東南アジア各国の消費者に絶大な信頼を得ている化粧品の「Made in Japan」。

それに加え、元々ブランド力のある「Made in France」。

日本色材工業研究所は、日本・フランスの両国に生産工場を持っているため、それぞれの生産地表示が可能なのです。

この化粧品の売上に大きく影響する生産地表示でプレゼンスを得ていることに加え、高付加価値製品を生み出す研究開発能力と多品種少量で手間のかかるメイクアップ製品の製造ノウハウに強みがあります。
他社が嫌がる部分に集中して強みにしている日本色材工業研究所の今後の活躍に期待したいと思います。

以上

 

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