セントラルスポーツ(4801) 熱い思いで一生涯の健康づくりに貢献
今回は、セントラルスポーツ(4801)を訪問して来ました。
セントラルスポーツは、日本全国で215店舗(直営154、受託61。2018年3月現在)を展開するスポーツクラブです。アクションラーニングの会員の方で、セントラルスポーツの看板を見たことがある方は多いのではないでしょうか。中には「フィットネス会員になっているよ」という方もおられるかもしれません。
本社は東京都中央区新川1-21-2 茅場町タワーの2階にあります。
茅場町タワーは隅田川にかかる永代橋西詰のリバーフロントにある、1996年竣工の地下2階地上21階の高層ビルです。16階までがオフィス、17階以上は住宅になっています。
茅場町タワーにはセントラルスポーツの他にも、メルコホールディングス(6676)の東京本社やインテリジェントウェイブ(4847)もオフィスを構えています。
1.東京オリンピックでの惨敗をきっかけに、1969年創業。
セントラルスポーツは、後藤忠治さん(現 代表取締役会長)が中心となって1969年12月に、体操及び競泳選手の育成を目的として「セントラルスポーツクラブ」を創業したのが始まりです。
東京オリンピック(1964年)の競泳代表選手だった後藤さんがスポーツクラブ創業を決意したのも、やはり東京オリンピックとそれに続くメキシコオリンピック(1968年)での競泳競技の惨敗があったようです。
当時日本のお家芸と言われていた競泳と体操。体操競技では東京オリンピックで金メダル5個、メキシコオリンピックで金メダル6個をはじめ、この2大会で多くのメダル獲得を成し遂げたのに対し、競泳競技では東京オリンピックで銅メダル1個、メキシコオリンピックではついにメダル無しに終わりました。
この2大会の結果が競泳関係者に与えた衝撃は大きく、以前ジェイエスエスの会社訪問記事でも述べたように、世界に通用する選手育成を目指したスイミングスクールが各地で発足しました。
自らオリンピック選手であった後藤さんは、1969年に所属していた会社を辞め、東京オリンピック体操競技のメダリストである小野喬さん、小野清子さん、遠藤幸雄さんとともにセントラルスポーツクラブを始めます。水泳だけでなく体操もクラブの柱として始めたところが、セントラルスポーツのユニークなところですね。
創業当時は当然ながら設備も持っていなかったため、学校施設を空き時間に借りて、水泳や体操の指導をするところから始まったそうです。
その半年後の1970年5月には東京都新宿区に株式会社セントラルスポーツクラブを設立してクラブを法人化するとともに、杉並区内にスイミングスクールを開校しました。
このような歴史的経緯から、水泳と体操はセントラルスポーツ創業以来スクール事業の中心となっており、両競技のアスリートの育成にも積極的です。過去には競泳の鈴木大地さん(1988年ソウルオリンピック金メダル、現スポーツ庁長官)、体操の冨田洋之さん(2004年アテネオリンピック団体金メダル、現順天堂大学准教授)、鹿島丈博さん(同、現大東文化大学講師)といった金メダリストをはじめ、多くのオリンピック選手を輩出しています。
セントラルスポーツは会社設立後、高度経済成長という時代背景の中で各地にクラブをオープンして事業を拡大していきます。1979年には現商号の「セントラルスポーツ株式会社」に社名変更し、また1982年には民間で初めてのスポーツ研究所「セントラルスポーツ研究所」を千葉県市川市に開設します。
セントラルスポーツ研究所では、これも民間企業では国内初の「スイムミル」(水槽の中で水流に逆らって泳ぐ装置)を導入し、選手のスイミングフォームや心肺持久力を把握し、科学的に、より適切なトレーニング方法を選手に提示できるようにしました。
また、1983年には東京・新橋に「セントラルフィットネスクラブ」をオープンします。実はこれが日本で初めて「フィットネス」を名前に入れたスポーツクラブです。
「フィットネス」とは、もともと肉体的にも健康的にも理想に適っている(fitness)状態およびそういう状態にする活動・運動を意味し、競技ではなく「健康のための運動」を指しています。
当時フィットネスに適した有酸素運動が提唱され、具体的な有酸素運動プログラムとして「エアロビクス」が一大ブームとなりました。
こうして、競技スポーツのトレーニングというマーケットに加え、健康づくりのための運動というマーケットも、セントラルスポーツは取り込んで行きました。
さらに1999年には、シャワー設備だけだったフィットネスクラブに、日本人の嗜好に合わせて温浴施設やマッサージも加えた「セントラルウェルネスクラブ」を埼玉・志木に開設しました。
このように徐々に事業を拡大し、2000年には日本証券業協会の店頭登録銘柄となり、2002年に東証2部、2004年に東証1部上場を果たしました。
2. セントラルスポーツの事業部門
それでは事業内容を見ていきましょう。
セントラルスポーツの事業は『0歳から一生涯の健康づくりに貢献する』という企業理念のもとに展開されています。
実際にスイミングスクールでは、生まれて6ヶ月から入れる「ベビースイミング」のクラスがありますし、お母さんに向けては産前・産後の「マタニティビクス」というプログラムもあるそうです。一方で、フィットネス会員の中には、満100歳の会員の方もいらっしゃるそうです。これを聞くと企業理念を体現されていることがわかりますね。
セントラルスポーツの事業を数字で見ていきましょう。2018年3月期の売上は53,576百万円、6期連続の増収です。経常利益は3,985百万円、純利益は2,922百万円で、4期連続増益です。
セントラルスポーツは、スポーツクラブ経営事業の単独セグメントですが、部門別の明細が公表されていますのでこれを見ていきましょう。
セントラルスポーツでは、1)フィットネス部門、2)スクール部門、3)業務受託部門、4)その他の部門の4つに分けています。
1)フィットネス部門
直営店舗(全国154店舗)におけるフィットネス会員の会費を主な売上とした部門です。フィットネス会員はマシンジム・スタジオ・プール・温浴施設などの利用者です。2018年3月期(以下に続く部門も同じ)の売上は30,575百万円(前年比100.6%)です。
2)スクール部門
直営店舗におけるスクール会員の会費を主な売上とした部門です。スクール会員はスイミングスクール・体育スクール・ダンススクールといった子供向けと、大人向け各種スクール(テニスやゴルフ、ダンス、空手など多種)の利用者です。売上は12,121百万円(前年比105.7%)です。
3)業務受託部門
業務受託店舗(全国61店舗)でのフィットネス収入・スクール収入他の売上を主とした部門です。売上は5,940百万円(前年比104.7%)です。
4)その他の部門
直営店舗内のプロショップでのスポーツ用品販売や、マラソンツアー主催などによる旅行業収入、自社施設の賃貸収入等を主な売上とした部門です。売上は4,938百万円(前年比95.5%)です。
事業の柱であるフィットネス会員、スクール会員は順調に増えているようです。
一方、店舗形態で見ると、一つの施設にプール・マシンジム・スタジオ(+温浴施設)がそろった「総合型施設」が主流ですが、最近はマシンジムだけの小型店を中心に展開している競合もあり、セントラルスポーツでもマシンジムだけで24時間営業の「セントラルスポーツジム24h」の出店も増やしている、ということでした。
3.競合やシェアは?
フィットネス業界は、国内約450,000百万円規模と言われています。シェアトップはコナミスポーツ(コナミホールディングス(9766)の連結子会社)で売上66,000百万円、2位がセントラルスポーツで、先述のとおり売上53,576百万円。3位がルネサンス(2378)で、売上46,229百万円。4位がティップネス(日本テレビホールディングス(9404)の連結子会社)で売上37,881百万円となっています(いずれも2018年3月期)。その他にもカーブス(コシダカホールディングス(2157)が運営)、スポーツクラブNAS、RIZAP(RIZAPグループ(2928)が運営)、ホリデイスポーツクラブ(東祥(8920)が運営)、エニタイムフィットネス、LAVAというように、枚挙に暇がないほど、フィットネス業界は群雄割拠の様相を呈しています。
業界シェアは概算ではありますが、トップのコナミスポーツが約15%、2位のセントラルスポーツで約12%、3位のルネサンスが約10%程度であり、その差は大きくありません。
上位3社以外のクラブでも、総合型施設で売上を伸ばすところもあれば、マシンジム特化、パーソナルトレーニング特化、短時間トレーニング特化などで急激な売上増を達成する特徴あるクラブも出てきていて、マーケットは拡大傾向です。今後、それぞれの企業戦略の善し悪しによって、業界内の順位変動は大いにあり得ると思われます。
なお、セントラルスポーツとルネサンスは提携していて、個人会員の場合、一部の施設を除きどちらの施設も相互に使えるようになっているそうです。また、法人会員においては、自社店舗以外の提携店舗も利用できるため、使える店舗は全国で472店舗にもなるそうです。全国に事業所があるような企業にとっては、どの地域の社員であっても使える可能性が高くなり、福利厚生に役立ちますね。
4.業界規模の見通しや市場としての性格は?
日本国内のフィットネス市場が、この先、劇的に拡大することは無さそうですが、いくつかの追い風が吹いています。
ひとつは、日本の高齢化を背景にした健康志向の高まりです。人口は減少していくとしても、60歳以上で時間とお金に余裕のある人口は増加していきます。フィットネス市場にとっては見込み客が増加していくといえます。
また、働き方改革が注目されていますが、出勤前や仕事後にフィットネスで健康維持を図る人も増加しそうです。
このようなことからフィットネス市場は、この先も市場規模を維持するか、多少の拡大傾向となりそうです。
それでは景気変動の影響は受けやすいのでしょうか?
フィットネスは生活必需品ではないですから、景気が悪くなれば、やはり利用が減少しそうです。リーマンショック時を振り返ると、景気悪化によって、新規入会は確かに減少するようですが、退会が急増するわけではないようです。そういう意味で、景気の影響はある程度受けるものの、重大な影響を受けるわけでもなさそうです。
5.海外事業、そして今後について
海外については、アメリカでゴルフ場を経営している他、アメリカのフィットネスクラブに出資していますが、事業としては小さいそうです。海外事業としては欧米より東南アジア(中国を除く)には注目しているそうですが、健康に対する考えの違いや保険制度の違いもあり、当面は日本国内中心で事業を行っていく考えだそうです。
日本を当面重視する理由の一つとしては、何と言っても2020年の東京オリンピックがあります。競泳では1964年と1968年の悔しい思いを元に創業したセントラルスポーツですから、半世紀経過後に開催される東京オリンピックに賭ける思いは相当だと思います。
2020年は1970年の会社設立から数えて50周年に当たりますし、セントラルスポーツ所属の選手が東京オリンピックに出場すれば、10大会連続での所属選手出場となり、まさに企業史にとってもメモリアルな大会になるとのことでした。
先に述べたセントラルスポーツ研究所では「競技力向上」「運動プログラム」「健康増進」のそれぞれのテーマに関する研究を行っており、その成果はトップアスリート育成にとどまらず、一般のフィットネス会員への指導法などにもフィードバックされています。
2019年夏には、千葉県習志野市内に直営店舗初の50mプールを備えた「セントラルスポーツ・ラボ・トレーニングセンター」をオープン予定だそうです。
ここでは会員の利用だけなく、所属競泳選手の強化拠点としても活用する他、研究所の機能を一部移設し「セントラルスポーツ研究所谷津支部(仮称)」とするそうです。
是非、2020年の東京オリンピックでは、選手が表彰台の「セントラル」に立つ姿を見せていただきたいと思います。
インタビュー後記
オリンピックへの熱い思いをベースに、スポーツ・フィットネスによる健康づくり事業で業績を伸ばしているセントラルスポーツ。とても真っ直ぐな社風だなあ、と感じました。
業界のライバルと比べてセントラルスポーツが特徴的なのは、フィットネス・スポーツクラブ専業の独立資本の会社であるということです。このことからクラブ経営やアスリート支援に、親会社の業績が影響して方針が変わらないという長所がある、とのことでした。オリンピック選手が創業しているセントラルスポーツだけに、本業で安定した収益を上げて、アスリートの支援を是非続けて欲しいと思います。
以上
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