沢井製薬【4555】安心で安く、飲みやすい薬の開発と安定供給で社会貢献する
今回は、ジェネリック医薬品トップの沢井製薬【4555】のIR部門を訪問してきました。
沢井製薬の本社は、大阪市淀川区宮原5丁目2-30にあります(右の写真の上層階前面がガラスになっているビル)。
地下鉄御堂筋線東三国駅から徒歩3分、新幹線停車駅である新大阪駅からも徒歩圏(約10分)と交通至便です。
2006年に竣工したこの大きな自社ビルは、高架道路の国道423号新御堂筋線に面して建っており、高架道路の中央には大阪メトロ御堂筋線も走っているので、クルマや電車の窓から俳優高橋英樹さんの大きな写真が目立つ、この沢井製薬の本社ビルを見かける方も多いと思います。
なお、ビルには本社だけでなく研究所も併設されています。
1. 90年前に大阪で始めた薬局がルーツ
沢井製薬の創業は1929年(昭和4年)に遡ります。大阪市旭区で澤井範平さん・乃よさん夫婦が「澤井薬局」を始めたことがスタートです。
医療保険制度も不十分で医者や病院の数も少なかった当時、澤井薬局は急病人のために夜中でも店を開けたことや、当時珍しかった女性薬剤師である乃よさんの評判もあり、とても繁盛しました。
その後、戦中・戦後の混乱を経て、1948年に澤井範平さんは澤井製薬株式会社を設立し、医薬品の製造に進出します。
様々な一般医薬品の研究開発を積極的に行い、1962年にはニンニクエキスによるビタミンB1製剤(製法特許取得)の発売もしています。
一般医薬品事業をしてきた澤井製薬ですが、1965年には大きな戦略転換をして医療用医薬品製造にシフトします。
この戦略の背景には、国の「国民皆保険制度」の定着があります。
1959年の改正国民健康保険法施行により、1961年には全国の市町村でも健康保険事業が始められるようになりました。
これにより誰でも、いつでも保険を使って医者や病院等医療機関の診察を受けられるようになったのです。
医療保険制度が不十分な時代は高額な医療費を払えない家庭もあり、一般薬に頼ることも多かったのですが、国民皆保険で個人負担が減るので医療機関を受診する人が増え、医療用医薬品の需要が高まると見込んでの戦略でした。
この戦略は当たり、1968年には大阪第2工場を完成させて生産能力を増強し、1972年には発送センターを新設して効率的に製品を届ける体制を整えました。
1979年に商号を現在の「沢井製薬株式会社」に変更した後も、積極的な設備投資を行い、1981年に九州工場(福岡県飯塚市)、1992年に三田工場(兵庫県三田市)を稼働させています。
さらに、2005年に他社から譲り受けた関東工場(千葉県茂原市)、2015年に譲り受けた鹿島工場(茨城県神栖市)と併せて、大阪・九州・三田の生産拠点の増強も継続しており、生産品目と生産数量の拡大を続けています。
この間、1995年に日本証券業協会に店頭登録してIPOを果たし、2000年には東証2部上場、2003年には東証1部に指定替えとなって、現在に至っています。
2. ジェネリック医薬品とは?
沢井製薬の事業はジェネリック医薬品の製造販売です(会計上のセグメントは国際会計基準にそって日本セグメントと米国セグメントとなっています)。
2019年3月決算の連結売上高は1843億41百万円、当期純利益は193億76百万円です。
それではまず「ジェネリック医薬品」について確認しておきましよう。
医薬品は、医師の診察を受けて処方箋により処方される「医療用医薬品」と、ドラッグストア等で処方箋無しで購入できる「一般用医薬品(OTC医薬品)」に大別されます。
医療用医薬品は、さらに「新薬」と呼ばれる特許期間中の医薬品と、特許が切れた医薬品に分けられます。
特許が切れた医薬品のうち、新薬メーカーが製造販売を続けている医薬品を「長期収載品」と呼び、他社メーカーが製造販売する医薬品を「ジェネリック医薬品」と呼びます。
新薬は開発から販売に至るまでに、長期間と莫大な費用を要するため、開発したメーカー(新薬メーカー)は特許権を取得し独占的に販売します。
特許期間(出願から20年)が経過した医薬品については、他社メーカーが、同じ成分・用量・用法・効能で、生物学的同等試験を経て国の承認を得て、ジェネリック医薬品(後発医薬品)として製造販売することができます。
ジェネリック医薬品は、特許によって成分が公開されている上に、新薬によって効能・効果や副作用などがすでに確認できており、また市場規模もわかることから、新薬に比べて開発コストは小さく、国の定める薬価も抑えられ、患者さんにも安く提供できます。
コストの有位性以外にも、ジェネリック医薬品の普及を後押しする国の政策があります。
日本国内では年金や医療などの社会保障費用(国が負担する費用)が増加し続けています。
そこで様々な対策が取られる中で、2015年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」(骨太の方針)の中で、後発医薬品に関する数量シェアを、2013年9月時点で40%台だったものを2020年9月に80%以上に引き上げる、という目標値も定められました。
その目標に向けてジェネリック医薬品の使用割合は順調に伸びており、目標達成できそうな状況です。
3.ジェネリック医薬品の市場規模、競合は
ジェネリック医薬品の国内市場規模は、現在1兆円程度と推計され、今後老年人口増加に伴いさらに拡大するとみられています。
沢井製薬の日本セグメント売上高は1440億98百万円(2019年3月決算)で国内ジェネリック医薬品トップです。
これに続く日医工【4541】は1310億円(連結売上高から海外売上高を差し引いた額。2019年3月決算)、東和薬品【4553】が1051億円(連結売上高。海外売上高記載ないが、国内売上は9割超と推察。2019年3月決算)が、ジェネリック医薬品の大手3社といえます。
この他にも、中枢神経系医薬に強いMeiji Seika ファルマ(明治ホールディングス【2269】連結子会社)や共和薬品工業【非上場】、抗がん剤に強い日本化薬【4272】、ヤクルト本社【2267】などの他、200社余りの医薬品メーカーがジェネリック医薬品を市場に供給しています。
海外に目を向けると、米国のジェネリック医薬品市場は約10兆円(世界最大)と、日本の約10倍の市場規模と推計されており、さらに伸びると予想されています。
沢井製薬は、海外事業を重要な成長戦略と位置づけ、2017年5月にUpsher-Smith Laboratories, Inc.(以下「USL」)を10億50百万ドル(約1155億円)で買収しました。
USLは100年以上の歴史を持つアメリカのジェネリック医薬品メーカーで、その製品は約40成分になります。
2019年3月期の米国セグメントの売上高は402億42百万円でした。
今後シナジーがさらに発揮され、米国を中心とした海外での成長が期待されます。
4. 製剤開発について
先にも述べたように新薬の特許期間経過後に発売されるジェネリック医薬品ですが、特許が切れる前に各ジェネリックメーカーは開発を始めます。
通常のメーカーでは特許が切れる3~4年前から始めるようですが、沢井製薬では早いものは7年前から開発を始めることもあるといいます。
多種多様な新薬のうち、どれをジェネリック医薬品として開発するかというと、使用量が多い新薬はもちろん対象ですが、それだけではないそうです。
沢井製薬の製剤開発の進め方としては、ジェネリック医薬品開発候補の新薬の特許を徹底的に調べて、現在の技術で特許を回避して製造できそうであれば、特許期間中にも発売できるようにすることもあるそうです。
また「ブロックバスター」と呼ばれる大ヒット新薬のジェネリック医薬品開発はもちろん行いますが、そういった医薬品は他社の参入も多く、競争が厳しくなります。
そこで、市場は中小規模であってもいち早くジェネリック医薬品を開発して、優位性を確保できる医薬品を選んで開発することも多いということでした。
5.ジェネリック医薬品に対する沢井製薬の考え方
ジェネリック医薬品は、有効成分の種類と量、用法・用量、効能・効果が新薬と同じである必要があります。
一方、新薬から変更してよいのは、薬の形状、色、味、香り、添加物です。
大きくて飲みにくいカプセルを小さい錠剤にしたり、水なしで飲めるOD錠(口腔内崩壊錠)したり、苦い薬にコーティングを施して苦味を抑えるなど製剤の工夫をして、服用が容易になる薬を開発しています。
患者さんが飲みやすく、かつ低価格な薬を提供することで社会保障費の抑制に貢献するという社会貢献の側面がありますが、沢井製薬では「製品の安定供給」という面も非常に重視しています。
せっかく患者さんがジェネリック医薬品を希望しても、メーカーが欠品していては上記の社会貢献ができなくなりますし、なによりも患者さんと対面している保険薬局(処方箋を扱う薬局)の信頼を損なってしまいます。
海外メーカー等では少し採算が悪くなる製品があると、その製品の生産を打ち切ることも多いようですが、沢井製薬は、代替品がなく需要のある医薬品は可能な限り生産を続けるようにしています。
また沢井製薬では常に余裕を持った生産能力を得るため、先行して設備投資をしています。
2018年度における沢井製薬の販売数量は約119億錠ですが、生産能力は155億錠分あり、余裕をもった生産体制を取っています。
実はこの「119億錠」という販売数量は日本一だそうです。新薬メーカーも含めて売上高が沢井製薬より大きいところはあるのですが、実際患者さんに服用されている薬としては沢井製薬の薬が最も多いのです。
日本の人口を1億人とみれば、年間1人平均100錠も沢井製薬の作った薬を飲んでいるのですね。
安定供給という点では、急な需要にも対応できるよう常に4か月分の在庫をキープしています。
沢井製薬が製造する738品目の医薬品を、欠品させずに安定供給していることについて、薬剤師からの評価も高いようです。
沢井製薬では、約430名のMR(医薬情報担当者)によって薬局や医療機関への情報提供活動を進めています。
それだけでなく、24時間365日お問い合わせに対応できる医薬品情報センターを設置して、医者や薬剤師の緊急事態に備えています。
医療の現場には休みがないことから、いつでも問い合わせに対応し、少しでもサポートできたらとの想いがあります。
情報の提供という点では、一般社会に向けても1997年から新聞広告を、2004年からはテレビCMも全国に発信しています。
これは自社の知名度向上とともに、かつて「後発医薬品=安いくすり=大丈夫だろうか?」といったイメージをもたれがちだったジェネリック医薬品のイメージ向上を目的としたもので、業界でもいち早く手がけており、現在も積極的な広報活動を行っています。
インタビュー後記
今回、沢井製薬についてお話を伺う中で、ジェネリック医薬品についての認識を新たにしました。
医療機関で処方される8割近くの医薬品がジェネリックという時代。安定供給が健康、そして社会を支えるといっても過言ではないでしょう。
澤井社長も「国民の健康を守るためにもジェネリックはMade in Japanにこだわるべき」と主張されており、その通りだと思います。
「目先の採算で供給を止められたら、その薬に頼っていた人はどうなるの?」そんなことが起きないように、安心で安く、飲みやすい薬の開発と安定供給が大切です。
沢井製薬には「なによりも患者さんのために」という企業理念のもとに行っているこの事業を継続し、社会を支えていただきたいと思います。
(沢井製薬本社ロビーに飾られた高橋英樹氏揮毫の「健」の書と、その横に立つアクションラーニング代表日根野健)
以上
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