プレステージ・インターナショナル【4290】顧客企業のユーザーの困りごとを、現場で解決するBPO
今回は、コールセンター(コンタクトセンター)業務を窓口として、クレジット会社や保険会社などのユーザーの困りごとを、それらの会社に代わって対応するBPO事業を行うプレステージ・インターナショナル【4290】のIR部門を訪問してきました。
プレステージ・インターナショナルの本社は、東京都千代田区麹町2-4-1 麹町大通りビルの最上階である14階にあります。
地下鉄半蔵門線半蔵門駅から徒歩3分、有楽町線麹町駅から徒歩4分の距離です。
「麹町大通りビル」という名前ですが正面の大通りは、通称「新宿通り」(国道20号線)で、すぐ近くの皇居半蔵門が、この国道の起点になっています。
2012年竣工のこの大型オフィスビルは、3階以上は周囲がガラス張りで室内はとても明るく、まさにプレステージ感あふれるビルです。
1.プレステージ・インターナショナルの事業
社名のプレステージ・インターナショナルは、顧客の期待を超えるプレミアムなレベルのサービスを、海外に展開していくという思いが込められているそうです。
今回は創業の経緯や沿革は後で述べることにして、まず事業の中身について見ていきましょう。
プレステージ・インターナショナルの2018年3月決算は、売上高は331億19百万円、営業利益は42億30百万円、営業利益率は12.8%です(決算短信より)。
主な事業として、インシュアランスBPO事業*、カスタマーサポート事業、ロードアシスト事業、プロパティアシスト事業、ワランティ事業があります。
※BPO(Business Process Outsourcing)とは、経営手法の一つ。
企業が事業(Business)を行う上で必要な遂行業務(Process)の一部を、その業務に精通した専門会社に外部委託(Outsourcing)することで、自社人材などの資源はコア業務に集中させることができます。
プレステージ・インターナショナルは、専門会社として顧客企業のプロセスの一部を受託し、顧客に代わってその業務を遂行しています。
2.海外での困り事を解決するインシュアランスBPO事業
インシュアランスBPO事業は、会社創業時の1986年からサービスを開始しました。「インシュアランス」の名のとおり損害保険会社を顧客として、損保会社の業務の一部を受託しています。具体的には海外における日本語対応サービスの受託です。
インシュアランスBPO事業の2018年3月決算は、売上高36億75百万円、営業利益は5億11百万円、営業利益率は13.9%です(決算説明資料より)。
インシュアランスBPO事業は、海外旅行保険に加入している方が旅行中に病気や事故に遭われた時に、24時間体制で、日本語でサポートをするサービスです。
海外で困りごとに直面する日本人は、旅行者だけではありません。海外展開している日本企業の駐在員(家族帯同の場合はその家族も)も同様のトラブルに遭遇するリスクがあります。
土地勘が無く、言葉も文化も医療制度も日本とは異なる外国では、そのトラブルは日本に居るときより格段に大きなものになって駐在員やその家族を襲ってきます。
そんなピンチに陥った駐在員や家族をサポートするのが、インシュアランスBPO事業の「ヘルスケア・プログラム」です。
病気・事故の状態から電話で連絡をしてきた駐在員やその家族に対して、日本語で近隣の適した病院への誘導、保険適用、精算(場合によっては治療費の立替も)などをサポートします。
また、このようなトラブル発生時は保険請求などの業務が発生しますが、その代行はもちろんのこと、海外赴任者からの国内健康保険申請方法の問い合わせや、海外旅行保険対象外で本人が立替えた歯科・既往症の精算対応・管理を24時間体制で代行するなど、管理部門業務のサポートも行います。
プレステージ・インターナショナルでは、顧客企業の状況(加入健康保険の種類や補償範囲等)を熟知したオペレーターが、専用ラインで企業の管理部門に代わって対応するので、海外での傷病であっても国内の健康保険を適用できるものについては、もれなく健康保険を適用します。そのため、企業は無駄な出費を抑えることもできます。
インシュアランスBPO事業はアメリカ、イギリス、シンガポール、中国、オーストラリア、タイ、フィリピン、ブラジル、インドなどに日本人駐在員を100名規模で置くようなグローバル企業が主な顧客です。
顧客企業からは固定売上と利用に応じた売上が得られる、ストック型のビジネスモデルとなっています。
また、日本企業の海外展開が活発になるにつれ、駐在員も増えていくでしょうから、成長性に期待できそうです。
3.入口サービスとしてのカスタマーサポート事業
カスタマーサポート事業は、クレジットカード会社を顧客として1990年に始めました。
外国での困りごとの一つに通貨の問題があります。生活する上でCash(現地通貨の現金)も使いますが、キャッシュレス決済ができるクレジットカードがあるととても便利です。
しかしながら日本から持って行ったクレジットカードを利用すると、為替手数料が発生してしまいます。
多くの駐在員は現地通貨の銀行口座を持っていますので、その口座を決済口座とするカードを作ろうとすると、たとえばアメリカなどでは社会保険番号がない、などの理由で与信が通らず、カードをなかなか作ることはできませんでした。
そこで、大手航空会社のクレジットカードと提携し、プレステージ・インターナショナルが債務保証をして、現地決済ができるカードを発行するようにしました。
もちろん問い合わせなどのカスタマーサポートを受託したのは言うまでもありません。
現在は、海外で「クレジットカードを作りたい」などの問い合わせを日本語で受け付けるカスタマーサポート事業を、カード会社各社から受託しています。
同様に海外の住居、特に賃貸物件入居者の通信・ネット環境などに関するカスタマーサポート業務を日本の大手通信会社から受託しています。
これらは基本的に秋田や山形、富山のコンタクトセンターで対応しています。
その他、通販会社などのコンタクトセンター(カスタマーサポート)業務も受託しています。
こちらは競合の多いビジネスであり、例えば、ベルシステム24ホールディングス【6183】、りらいあコミュニケーションズ【4708】などが挙げられます。
ただしプレステージ・インターナショナルでは、コンタクトセンター業務のみで競おうとは思っておらず、独自ノウハウのある他の事業への入口サービスとして考えています。
カスタマーサポート事業の2018年3月決算は、売上高60億56百万円、営業利益は9億14百万円、営業利益率は15.1%でした(決算説明資料より)。
4.カスタマーサポート事業の付加価値が成長したロードアシスト事業
コンタクトセンター業務を入り口として、より付加価値の高い事業に発展させたのが、1991年に開始したロードアシスト事業です。顧客は、自動車メーカーや自動車ディーラー、損害保険会社、などです。
顧客企業のユーザー(自動車オーナーや自動車保険の加入者など)からの緊急要請に対応する、24時間年中無休のカスタマーコンタクト業務及びロードサービスを受託しています。
保険加入者が自動車事故に遭うと、損害保険会社に電話連絡が入ります。
事故の状況についてヒアリングし、安全確認をするのはもちろんのこと、事故相手とのやりとりやレッカー搬送、代替交通手段の手配、修理工場の手配、そしてヒアリング内容から保険適用対象になるかどうか判断するなど、多岐に渡る対応をしなければなりません。
単なるコンタクトセンターとしての業務レベルを超えた、付加価値の高い業務といえます。
損害保険会社は、全国に自動車修理工場や板金工場などによる保険代理店網を持つ損害保険会社と、代理店網を持たないダイレクト自動車保険会社があります。
代理店網を持たないダイレクト保険会社は、上記のレッカーや修理手配などの対応をプレステージ・インターナショナルにBPOして、業務の効率化を図っています。
それでは、ダイレクト保険会社ですら代理店網を持たないのに、なぜプレステージ・インターナショナルはレッカーや修理手配などができるのでしょうか?
それは、高級輸入自動車ブランドのカスタマーサポート事業を受託していたためです。
コンタクトセンター業務を受託しているエルメスやダンヒルと同じように、当初は問い合わせに対する対応や資料請求への対応業務でしたが、そのうちにクライアントのロードアシスト需要を積極的に取り込んで、代行するようになりました。
そしてそこでノウハウを蓄積し、さらに体制を整えてロードアシスト事業に昇華させたのです。
プレステージ・インターナショナルでは、質の高いロードアシストを実現するために、全国主要都市に配置している現場部隊スタッフは全て正社員であり、質の高い教育訓練を行っています。
それにより、故障や事故に遭って不安な状態にある方々に対し、きめ細かく、かつ安心してもらえるホスピタリティの提供を可能にしています。
この高品質の専門性が、ダイレクト自動車保険のBPOとして受け入れられ、ロードアシスト事業も成長を続けています。
ロードアシスト事業の2018年3月決算は、売上高132億3百万円、営業利益は14億73百万円、営業利益率は11.2%です(決算説明資料より)。
5.上場子会社イントラスト【7191】が営むワランティ事業
2006年にはワランティ事業を始めました。ワランティ(warranty)とは、保証のことです。
プレステージ・インターナショナルが提供する保証サービスには、自動車延長保証、家賃保証、住宅設備延長保証、介護費用保証などがあります。
自動車延長保証とは、新車のメーカー保証終了後の一定期間を有料で保証するサービスで、故障した場合の修理費用やレッカー代、故障地から自宅までの交通費などを保証します。ロードアシスト事業で築いた自動車メーカー、自動車ディーラーとの関係をさらに深めるサービスとなっています。
住宅設備延長保証は、自動車延長保証と同様、メーカー保証後の住宅設備保証サービスです。競合企業として、日本リビング保証【7320】などが挙げられます。
家賃保証は、賃貸不動産の賃借人が負う家賃債務を保証するサービスです。
賃貸不動産の商慣習が従来の連帯保証人を取る方法から、保証会社の保証を受ける形へと変化してきており、時流に合ったサービスです。
この家賃保証や介護費用保証を主として行うのが、プレステージ・インターナショナルの連結子会社であるイントラスト【7191】で、2016年12月に東証マザーズ上場しています(2017年12月、東証1部に指定替え)。
ワランティ事業の2018年3月決算は、売上高43億9百万円、営業利益は9億61百万円、営業利益率は22.3%です(決算説明資料より)。
6.プロパティアシスト事業
2007年にはプロパティアシスト事業を始めました。プロパティアシスト事業では、住宅や駐車場(コインパーキング、カーシェアリング)で起こるトラブルに対するサポートを提供しています。
住宅向け(ホームアシスト)では、主にマンション管理会社または分譲マンション管理組合のBPOとして、水漏れや鍵のトラブルなどの受付、修理手配などを、24時間365日年中無休で対応しています。急なトラブルについては現地に駆け付け、かんたんな修繕を行う場合もあります。
トラブルに対応するのは、プレステージ・インターナショナルの正社員で、専門的な教育と経験を積んだスタッフです。
競合には、ジャパンベストレスキューシステム【2453】があります。
アクトコール【6064】も「緊急かけつけサポート」を行っていますが、主に賃貸住宅入居者向けであるので、今のところ直接の競合ではなさそうです。
ホームアシストは、ワランティ事業の家賃保証や住宅設備保証にと関連する事業といえます。
駐車場向け(パークアシスト)では、コインパーキングの機械故障への対応、集金、清掃などを行います。パークアシストは、ロードアシスト事業から派生した事業とみることができます。
プロパティアシスト事業の2018年3月決算は、売上高43億86百万円、営業利益は3億58百万円、営業利益率は8.2%でした(決算説明資料より)。
7.「夢と苦労のアメリカ生活」と「資本がないのに会社だけがあった」事業スタート
事業の中身がわかったところで、どうしてこのような会社が作られたのか、創業の経緯を見ていきましよう。
プレステージ・インターナショナルの実質の創業者は、現代表取締役の玉上進一さんです。
玉上さんは、1955年の大阪生まれで、大阪府立工業高等専門学校で機械工学を学んだ後、大阪のメーカーに就職しましたが、わずか1年半でその会社を辞めて、24才で渡米します。
日本での仕事に限界を感じる一方、アメリカに可能性を感じ、ビジネスチャンスを探しに行った、というのが動機のようです。
アメリカでの暮らしは、レストランの皿洗いに始まり、ウエイターなどで食いつなぐ一方、なかなかビジネスチャンスは見つかりません。
その日暮らしをするうちに、ある日「アメリカの永住権を取ろう」と思い立ちます。
結局永住権を取れたのは、それから2年後でした。
その過程で、言葉や文化の壁など大変な苦労や様々な不便を経験しましたが、一方で「それでも永住権が取得できた!」とポジティブな気持ちになったそうです。
そのような経験を経て、旅行会社に所属し、アメリカでトラブルに遭遇した日本人に日本語でサポートする仕事をするようになりました。
その仕事をしている時に出会った一人が、テンポラリーセンター社長(当時)の南部靖之さん(現パソナグループ【2168】代表)でした。
アメリカ生活も7年が経過した頃、アメリカでの日本人サポート事業を、自らアメリカで会社を設立して行おう、と玉上さんは決断します。そのため、今まで世話になった方々に退職・独立の挨拶をするために、日本に一時帰国しました。
ところが日本で、テンポラリーセンターの南部さんにも挨拶に行ったところ、南部さんから「その事業をやるなら、新しい会社があるからそこでやれ!」と言われ、営業マンとともに「ヘルスケア・プログラム」の原型となる日本語海外アシスタントサービスを、日本の大企業に提案・説明するようになりました。これが1986年のことです。
南部さんは当時まだ珍しかったベンチャー経営者の一人で、次世代ベンチャー育成にも意欲的でした。そこでまだ事業の中身もあまり固まらないうちに、資本金5000万円で会社を設立し、社員の身分の玉上さんに実質的な経営を任せたのです。
アメリカで会社経営をし、永住しようと思っていた玉上さんでしたが、思いもよらぬ形でやりたいと思っていた事業を、少し変わった形の出資を得て日本法人で始めることになりました。
こうしてプレステージ・インターナショナルは動き出したのでした。
事業は成長し、スタートから3年後の1989年に玉上さんは代表取締役副社長に就任。さらに1995年には代表取締役社長に就任し、名実ともにプレステージ・インターナショナルのトップになりました。
その後、2001年にナスダックジャパン(現JASDAQ)に上場し、その後2012年に東証2部上場、2013年には東証1部指定となりました。
8.インシュアランスBPO事業から関連事業への多角化をうまく進めてきた
プレステージ・インターナショナルのサービスは、海外旅行保険のサポートから始まりました。
海外にいる日本人のサポートというノウハウを活かして、日本人駐在員へのサポートを開始し、海外展開する大企業という優良顧客を獲得しました。こうしてインシュアランスBPO事業が育ちました。
また、コンタクトセンターのノウハウを活用してクレジットカード会社を顧客とし、カスタマーサポート事業が生まれました。
海外旅行保険のサポートは、損害保険会社が顧客でした。この損害保険会社との関係を活かして、ロードアシスト事業を開発し、ロードアシスト事業で得たノウハウを使ってワランティ事業へ、ワランティ事業で得たノウハウを使ってプロパティアシスト事業へと、次々に事業を拡大してきました。
それぞれの事業が、「ノウハウ」や「顧客層」などの共通点を有しており、その共通点をうまく活用してリスクをコントロールしながら、企業が順調に成長していることがよくわかります。
またそれぞれの事業は、景気の良し悪しに影響を受けにくく安定した需要が期待できるものであるうえ、一度、契約を獲得したら毎年契約を更新してもらえる可能性が高い性格です。
プレステージ・インターナショナルのこれらの事業が競争優位にある原点は、多くの企業がやりたがらない「泥臭い部分を自分たちで引き受けよう」という強い信念です。
クルマのトラブルの現場、支払トラブルの現場、・・・現場の泥臭い部分を、自社の社員が対応することに徹して、決して下請け業者に出したりしない。
あえて人手が必要な部分に特化し、その対応力の高さで勝負する。
そのためには、優秀な社員を雇い、教育し、働きやすい環境を整備して高いモチベーション維持に努める事を怠らない。
多くの社員が能力を発揮する場として、秋田県秋田市に秋田BPOキャンパス(従業員席1,500席)、山形県酒田市に山形BPOガーデン(同500席)、富山県射水市に富山BPOタウン(同1,000席)を自前で建設しています。
これら各BPO施設では、研修施設や社員寮、託児所が設けられており、また多くの自動車通勤者のために自動車整備工場もあります。
また、カスタマーサポートは、世界中から困りごとのコンタクトがあることから、すべてのBPO施設は万が一の場合に備えて自家発電設備もあります。
経営者と従業員が、深く戦略を練り、「自社の強みを活かしながら」「競争がそれほど激しくないニッチな領域で」「安定した需要があり」「ストック型のビジネスモデル」になる市場を慎重に選び、堅実に事業拡大していることが見えてきます。
合理的な事業展開で成長してきたプレステージ・インターナショナル。これまでに築いた顧客とノウハウをベースに、さらなる飛躍が期待できそうです。
インタビュー後記
インタビューで最も印象に残った言葉は、「コールセンターの中でもニッチな領域に特化している」というものでした。
なるほど、話をお聞きしてみるとコールセンターと言っても、単純な言葉のやり取りをするだけのコールセンターもあれば、自動車事故のときの対応のように間違いが許されず、多岐に渡る対応をしなければならないコールセンターもあります。
プレステージ・インターナショナルは、コールセンターのなかでもノウハウが必要とされる高付加価値の領域を狙い、優良な顧客と良好な関係を構築し、優良顧客にクロスセルすることで成長を続けています。
そのことが業績(長期にわたり安定しながら売上、利益が増加しており、なおかつ利益率が高い)に表れています。
これからも周りを唸らせる周到な戦略で、ますます活発な事業展開を進めていくことを期待し、応援したいと思いました。
以上
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