ポールトゥウィン・ピットクルーホールディングス【3657】 ゲームデバッグ、ローカライズとネットモニタリングのBPO事業
今回は、ゲームのデバッグやネットサポートの受託事業を行っているポールトゥウィン・ピットクルーホールディングス【3657】(以下「ポールトゥウィン・ピットクルー」と表記します)のIR部門を訪問しました。
ポールトゥウィン・ピットクルーの本社は、東京都新宿区西新宿2-4-1。新宿駅西口から徒歩7分。新宿新都心の超高層ビル群の一つ「新宿NSビル」(地上30階建て)の11階にあります。
ポールトゥウィン・ピットクルーの会議室の窓の外には、東京都庁の大きな建物がそびえており、東京マラソンのスタート地点が臨める場所でした。
そんな都心感満載の場所でお話を伺いました。
1.ファミコンショップからデバッグの受託会社へ
ポールトゥウィン・ピットクルーは2009年に設立された会社ですが、既に事業活動をしていたポールトゥウィン株式会社とピットクルー株式会社の株式移転により純粋持株会社として誕生しました。
よって会社の起源は、現会長の橘民義さんと取締役の本重光孝さん、松本公三さんの3人が出資して1994年に名古屋で設立した有限会社ポールトゥウィンに遡ります。
実は、有限会社設立前にはファミコンショップを経営していました。
ファミコンショップは最盛期には4店舗も営業していたそうですが、時代の変化でショップ経営は凋落傾向。最後の4店舗目は開店からわずか38日で閉店したそうです。
そのような中で、同じゲーム関連ビジネスとして「ゲームのデバッグ作業は、アウトソース(外注)化しそうだ」と直感しました。
こうして日本初のデバッグ受託会社、有限会社ポールトゥウィンが誕生しました。
この当時、松本さんが社長となって、自らトップ営業でゲーム会社を回って受注していたそうです。
このデバッグ受託の目論見は見事に当たり、TVゲームからパチンコ用コンテンツ、iモードコンテンツなどのデバッグへと、どんどん業務の幅が広がってゆき、3年後の1997年には有限会社から株式会社に組織変更するまでになりました。
「ポールトゥウィン」というこの特徴的な社名は、元来カーレースなどで予選1位(ポールポジション)で、決勝も1位でフィニッシュ(優勝)する、という意味ですが、これは松本さんがカートレースに出場するほどカーレース好きであることと、この事業で「最初から一番になる」という思いから命名したそうです。
一方のピットクルー株式会社ですが、こちらも最初は同じ3名の出資で有限会社ピットクルーを2000年に設立したのが始まりです(翌2001年に株式会社化)。
設立経緯はポールトゥウィンのお客さんから「ネット監視やサーバー監視もやってくれないか?」と言われたのがきっかけだったそうです。
ポールトゥウィン同様、ピットクルーの業務範囲も拡大していきました。
こちらの社名は「裏方としてお客さんのビジネスを支える」という気持ちを明示する、という考えで、レース場でクルマの整備などを行う人を意味する「ピットクルー」を社名に採用したそうです。
この結果、冒頭に述べたように純粋持株会社として2009年2月にペイサー株式会社が設立され、2011年には商号変更を行って現在の「ポールトゥウィン・ピットクルーホールディングス株式会社」という社名になりました。
そして2011年10月には東証マザーズに上場し、翌年の2012年11月には東証1部に市場変更となって現在に至っています。
2.ゲーム好きなテスターの力を活用。テスト計画に基づくデバッグ・検証
ポールトゥウィン・ピットクルーの連結売上高は222.6億円(2018年1月決算)です。事業別の売上比率は、デバッグ・検証事業が82.5%、ネットサポート事業が16.5%、その他1%という構成になっています。
それでは、デバッグ・検証事業から見ていきましょう。
デバッグ・検証事業は、ゲームデバッグやIT家電等の検証、ローカライズなどのサービスで構成されています。
デバッグサービスは、家庭用ゲーム、ソーシャルゲーム、スマホアプリ、PCソフト、パチンコ・パチスロ機器などにおける、プログラムの不具合箇所の検出や、プログラムをより面白くするためのチューニングなどを請け負います。
「デバッグ」の一般的な意味は「プログラムの不具合を見つけ、修正する」ことですが、
ポールトゥウィン・ピットクルーでは修正は行わず、予め顧客と合意したテスト計画書に従ってテスト・検証を行い、顧客に検証結果のレポートを提出することが業務になります。
具体的には、テスト計画書の範囲内においてゲームを進めて行くと、あるところでは次の画面にうまく切り替わらない、操作できなくなる、というようなところがあったり、モバイルコンテンツではスマホの一部機種だけ動かなくなる(機種依存)というようなことがあったりした場合、それをレポートに記載して報告することになります。
ゲームメーカーにとってこのようなデバッグ・検証は、プログラム発売間近の最終工程近くの作業であり、多くの人手が必要になります。
家庭用ゲームはクリスマス・正月商戦に合わせてリリースされることが多く(子どもの頃お年玉でゲームを買った経験のある人も多いと思います。)、そのため夏から秋に多くのテスター(検証要員)が必要になります。
ゲームメーカーにとっては、テスターを常時抱えるよりも外注した方が合理的で、かつ第三者視点で客観的にデバッグが可能となることからアウトソーシングの流れはできていったそうです。
それでは、ポールトゥウィン・ピットクルーはどのように要員を確保しているのでしょうか?
実際にテスト・検証するのは、ゲームなどを得意とするフリーランスの人達(全国で数千人)にお願いしているということです。
フリーランスの人に、全国11都市に構えるポールトゥウィン・ピットクルーのスタジオか、もしくはゲームメーカーの拠点に来てもらって、テスト計画書の内容に従いテストしてもらいます。
テスト機材の問題や機密保持(発売前の商品なので)の観点からも、テスターの人が自宅でテスト作業することはありません。
近年は、首都圏では求人倍率が高くテスターが不足気味であることから、たとえ東京で受託しても、顧客の了解をもらって地方のスタジオ(たとえば札幌スタジオとか福岡スタジオとか)に振り分けて対処することもあるそうです。
ポールトゥウィン・ピットクルーでは、テスターの熟練度合いに応じたテスト内容の割り当てや、テスト方法の確立と教育等を通じて業務品質の向上を図っています。全国どこでも同じテスト作業をできるということが、ポールトゥウィン・ピットクルーのコアコンピタンスと言えるかもしれませんね。
検証サービスは、ハードウエア組込プログラムなどで、IT家電やスマホ、カーナビ、車載ソフト、IoT機器などの不具合検出や動作チェックなどを行っています。またゲームではない各種アプリケーションのデバッグもあります。これらを「ノンゲーム」と呼んでいます。
ノンゲームは受注内容の多様化を目指す上で、今後の伸びが期待されている分野です。
ローカライズサービスはゲーム、ノンゲームに関わらず受注しています。家庭用ゲームはグローバルコンテンツなので、販売地域に合った翻訳が行われます。
かつては、ゲームデバックはポールトゥウィン・ピットクルーで行い、ローカライズは現地の会社に、と分けて発注する顧客が多かったのですが、ポールトゥウィン・ピットクルーは、早くから海外展開を行い、多言語に対応しているので、ワンストップで受注することも増えているそうです。
この他、デバッグ・検証事業では、ゲームの取扱説明書や攻略本の製作、カスタマーサポート(海外)、音声収録等のゲーム開発に附随するサービスを提供しています。大型ゲームタイトルによっては、デバッグからローカライズ、音声収録、カスタマーサポートまで一括受注した場合、億単位の売上規模になる場合もあるそうです。
3.便利で豊かなネット社会を実現するネットサポート事業
売上高36.8億円(2018年1月決算)のネットサポート事業は、各種投稿監視、カスタマーサポート(国内)、ネット広告審査等を行っています。
投稿監視は、オークションやフリマサイトの出品物チェックなどを請け負っています。
これは各サイトで出品禁止とされているもの、たとえば医薬品や偽ブランド品、象牙、その他公序良俗に反するものなどです。
これらのうち明らかに規約違反とわかるものは、代理削除の権限を付与されていて、直ちに削除するところまで行うということでした。
最近では、AIの精度向上をサポートするデータ認識評価、データクレンジングやアノテーション業務、さらにはフィンテックに関連する不正モニタリング業務が増加しているそうです。
また、一般企業などの依頼主のネットコンテンツがキチンと稼働しているか、信用を毀損する掲示板の書き込みや動画はないか、などのモニタリングや、「スクールネットパトロール」として、自治体教育委員会や私立学校の依頼を受け「学校裏サイト」等のモニタリングなどを行っています。
スクールネットパトロールでは、特定個人への誹謗中傷・デマなどの発見と依頼主への連絡の他、生徒自身がSNS上で自分の氏名や校名などを公開していることに対する注意・啓発や、生徒が匿名で相談できる窓口にもなっています。
広告審査では、企業の広告表現が景品表示法や薬機法に抵触しないか、メディアの掲載基準に準拠しているか等を審査します。またECモールにおいては出店者の広告原稿やサイトの表現に誇大広告がないか、二重価格表示がないか等の審査を、運営企業を代行して行っています。
この広告審査は、ネットサポートではありますが、広告の事前チェックという点では、デバッグ事業と似ていますね。
カスタマーサポートは、やはりデバッグ事業のところでも出てきましたが、国内におけるゲームメーカーやE-コマースのサポートサイトでの問い合わせ受付やキャンペーン事務局代行、データセンターの運用サポートなど、事業の裏方部分を支援します。
これらネットサポートにおいても、サイトに表出する危険な表現や基準違反・法律違反の表現、悪質アカウントなどについて、過去の実績からプロファイルが作成されていて、素早い対処ができるようになっているところが強みです。
4.競合、海外
ポールトゥウィン・ピットクルーの競合会社は、ゲームデバッグの分野ではデジタルハーツホールディングス【3676】(2018年3月決算 売上高 173.5億円)で、国内はポールトゥウィン・ピットクルーとデジタルハーツの寡占状態です。
ゲームメーカーはリスク回避の観点から、どちらか1社だけと付き合うということはなく、両社に発注している会社が多いそうです。
ノンゲームの分野では、携帯や家電、カーエレクトロニクス等のテストを主軸とするベリサーブ【3724】(2018年3月決算 売上高 113.6億円)や、PCソフトのテストを主とするSHIFT【3697】(2018年8月決算 売上高 127.9億円)が競合になります。
ご覧のように売上規模ではポールトゥウィン・ピットクルーがトップ企業と言えます。
国内はもとより、近年は海外企業との競争も激しさを増しているようです。
最大のライバルは、アイルランドのダブリンに本社を置くキーワーズスタジオ(Keywords Studios PLC 【KWS.L】)です。2017年決算の売上は1.5億ユーロ(約192億円)であり、ポールトゥウィン・ピットクルーに迫っています。
キーワーズスタジオは、もともとソフトのローカライズの会社でしたが、2013年のロンドン市場上場を契機に積極的なM&Aを繰り返して、デバッグ、音声制作、カスタマーサポートなどの事業も行うようになるとともに、主要国に拠点を置き、グローバル展開をしています。
一方ポールトゥウィン・ピットクルーは早くから海外展開しており、2002年上海に現地法人を設立して以来、2009年アメリカ現地法人設立や上場後の積極的な海外企業の買収などを経て、海外拠点は10ヵ国18拠点(2018年9月現在)になっています。
このため、グローバル展開するゲームソフトは、国内メーカーであれ、海外メーカーであれポールトゥウィン・ピットクルーかキーワーズスタジオにデバックからカスタマーサポートまで、一括で依頼することが多くなっているようです。
5.景気の影響、将来は?
ゲームソフトの販売は、もともと景気の影響を受けにくいとされており、ゲームメーカーにとっては景気よりもヒットタイトルの有無が収益に大きな影響を与えます。
一方ポールトゥウィン・ピットクルーが受託しているデバッグ・検証のプロセスは、ちょうど本を出版する前の「校正」作業と同じで、リリース後、そのタイトルがヒットするか否かに関わらず、一定の売上があります。
また受注先に偏りがない上に、スマホなどをプラットフォームとするソーシャルゲームも増加しており、かつそのローカライズの業務も増えているようです。
さらにはノンゲーム分野を広げるなど、特定の企業に依存しない戦略も採っています。
このため、ポールトゥウィン・ピットクルーのサービスに対しては、安定した需要が存在すると考えられます。
また、デバッグ・ローカライズとグローバルなカスタマーサポートをまとめて受託することも増えて、ポールトゥウィンとピットクルーの境界も無くなりつつあるようです。
テスト検証・多言語・ネットサポートの各ノウハウを融合できるのがポールトゥウィン・ピットクルーの強みであり、マーケットは今後も広がる可能性があるのではないでしょうか。
インタビュー後記
グローバルコンテンツであるゲームデバッグを中心に世界展開するポールトゥウィン・ピットクルー。
得意先企業が広範であるため、安定した需要に支えられて、業績は好調です。
将来性については、AIの登場、進展でテスト・検証などは自動化するのでは?という意見もあるようですが、ポールトゥウィン・ピットクルーでは「機械に任せられるところと、人間にしか出来ないところがある。その両方を融合する」と考えています。
ゲームに限らず操作に関わる部分では、両方の検証が欠かせないと思います。
各種バリアフリーに向けた活動支援にも積極的なポールトゥウィン・ピットクルー。今後も「人間にしか出来ないこと」と「人間に出来ること」の追求を続けていただきたいと思います。
以上
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