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トーカロ(3433) 溶射加工というニッチ分野でトップ!


今回は神戸市中央区港島南町に本社を移転したばかりのトーカロ(3433)を訪問してきました。

移転の前は創業の地である神戸市東灘区深江北町に本社がありましたが、利便性向上や研究開発機能の強化をめざし、2017年8月に国内外へのアクセスが良いポートアイランドへ移転しました。

1.未来を感じる新本社とトーカロの歴史

まずは、トーカロの新本社をご紹介しましょう。新本社のあるポートアイランドは日本でも最大級の人工島です。公共交通は神戸新交通ポートアイランド線(ポートライナー)が三宮駅~神戸空港駅間を結んでいます。ポートライナー「神戸空港駅」のひとつ手前の「京コンピュータ前」駅から歩いて数分のところにトーカロ新本社があります。「京」といえば、日本が誇るスーパーコンピュータであり、ポートアイランドは港湾、ビジネスとともに研究機関の立地としても注目されています。

また、隣接する神戸空港からは札幌、仙台、羽田、茨城、長崎、鹿児島、那覇への便があり、神戸空港から関西国際空港までは「神戸・関空ベイシャトル」が海上を約30分で結んでおり、国内・海外ともアクセスは非常に便利な立地でもあります。

新本社ビルは、ガラスと外壁パネルで大きな曲面を構成していて、その外観はポートアイランドという立地と相まって未来を感じる意匠となっています。ちなみに設計・施工は奥村組(1833)です。

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未来から一転、歴史を振り返ると、トーカロは1951年に神戸市東灘区で「東洋カロライジング工業株式会社」として設立されました。「カロライジング」とは、表面改質の一種ですが、現在のコア技術の溶射ではなく、熱処理でアルミニウムを拡散浸透させる表面加工のことです。製鉄所での酸素吹込み用の鉄製パイプなどの表面加工を行ったのが始まりだそうです。創業後しばらくしてから研究を開始した溶射ですが、1970年頃にはカロライジングより溶射の売上が上回るようになり、1981年に社名をトーカロ株式会社に変更しています。

創業メンバーの一人に、後に社長となる中平宏(なかひら ひろし)さんがいました。中平家からは宏さんをはじめとして、中平晃(あきら)さん、中平怜(さとし)さんの3人の兄弟が経営に関わり、順次社長を務めましたが、現会長の町垣和夫さん、現社長の三船法行さんは、中平家や創業メンバーとは関係なく、生え抜きの経営者です。

2. 日本初!上場企業によるMBO(マネジメント・バイ・アウト)

トーカロは、1996年に店頭登録銘柄として日本証券業協会に登録しました。

当時から溶射加工の業界では優れた企業だったのでしょう、1999年にスイスの企業から買収されそうになります。スイスの溶射装置メーカーのスルザー社(当時の社名。現在のエリコン社)がトーカロに買収を申し入れ、親会社を紹介するよう要求してきました。トーカロは当時スルザーから溶射装置を購入しており、取引関係がありました。そこで目に留まったのでしょう。

当時のトーカロの大株主は日鐵商事(現在の日鉄住金物産(9810))で、6割強の株式を保有していました。日鐵商事は、連結経営戦略見直しの中で、トーカロ株を手放す方針を取ったため、当時社長であった中平晃さんは、日本の公開企業として初のMBO(マネジメント・バイ・アウト)を行うことを決断しました。

そして21世紀になったばかりの2001年1月から3月に、ジャフコ・エス・アイ・ジー株式会社をトーカロ株の買取り会社として公開買い付けを行い、97.9%の株式を取得しました。これにより2001年8月にジャフコ・エス・アイ・ジーを存続会社、トーカロを消滅会社とする合併を行い、旧トーカロを非公開化するとともに、存続会社の社名を「トーカロ株式会社」に変更しました。

その後、ジャフコからトーカロの経営者や従業員が株式を買い取り、まさに自分たちで会社を取り戻しました。また、株式非公開にあたっては、5年以内に再公開を目指していたそうですが、実際は2年半後の2003年12月に東証二部に再上場し、2005年には東証一部指定となりました。このスピードは経営者・従業員一体となった士気の高さで実現したのでしょう。まるで「半沢直樹」や「陸王」で有名な池井戸潤の小説のような、ドラマチックな社歴ですね。MBOを決断した当時の社長の重圧は、相当なものであったろうと思います。

3. 溶射技術をコアとした「表面改質加工」というニッチ分野で国内ダントツトップ!

さて、トーカロの事業内容を見ていきましょう。トーカロは「表面改質加工事業」という、普段あまり聞き慣れない事業が中心になっています。この事業は大きな意味で「表面処理」加工だと思いますが、トーカロの表面改質はとても高度な表面処理と考えると分かりやすいと思います。

表面改質加工は、ある基材(改質対象となる部品などのこと)を、表面処理によって電気の通りを良くしたり(導電性を高める)、電気を通さなくしたり(絶縁性を高める)と、目的に応じてその部品の性質を変える(改質)ことです。このような電気特性の改質以外にも、耐摩耗性・耐腐食性・耐熱性・親水性・撥水性など、トーカロでは様々な表面改質加工を受託しています。

その表面改質加工の中でも「溶射加工技術」がトーカロのコアコンピタンスとなっています。

溶射加工とは、金属等の表面に溶射材料を吹き付けることで皮膜を形成・固着させる技術です。

溶射は英語では「Thermal Spraying」であり、スプレーすることには違いありませんが、一般的にイメージする塗料のスプレー吹き付けとは、全く違う世界です。吹き付けるのは、本来はとても硬い金属やセラミックなどの高融点材料をプラズマなどの熱エネルギーによる高熱(高融点)で溶かし、粒子状にしたものを基材に吹き付けて(なので「溶射」)、皮膜を形成していきます。溶射後の金属やセラミックは、冷却されることで本来の硬さになるとともに基材に固着します。

分かりやすい実例を挙げると、例えば新幹線の主電動機(モーター)の軸受部分にトーカロの溶射加工が使われています。新幹線のモーターでは漏えい電流による電食防止のため、軸受けに溶射加工を施すことによって電気絶縁性を付与し、結果としてその高速運転を支えています。

この溶射加工の分野でトーカロは国内ダントツトップです。

トーカロ 売上約220億円(溶射加工(単体)2017年3月期)

国内合計500億~600億円程度の市場規模と推定されますので、トーカロシェアは約40%程度と考えられます。(同社調べ、データ非開示企業を除く)

国内の競合企業は、日鉄住金ハードなどですが、海外には巨大な競合企業が存在します。

その1つが前述の買収を仕掛けてきたエリコン(Oerlikon Corporation AG)社です。スイス証券取引所に上場しており、売上高は約23億スイスフラン(2016年12月期。1スイスフラン110円として、約2530億円)にもなります。世界各国で薄膜コーティングを行っており、日本にもエリコンメテコジャパン(株)や日本エリコンバルザースという法人があります。ちなみにトーカロは、エリコンメテコから溶射装置を購入しています。

4. 顧客業種は半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置メーカーがトップ

トーカロは、顧客企業からその部品を預かり、それに溶射加工を施して顧客企業に戻します。あるいは顧客の工場等に出向いて、製造装置の一部などに溶射加工をします。顧客企業は多岐にわたりますが、分野別にみるとおおむね次のようになっています。(割合は2017年3月期実績)

(1) 半導体・フラットパネルディスプレイ分野(売上の35%)

半導体製造装置のウエハを固定するチャックなどの部品に溶射加工を施す(耐プラズマ損傷性、耐摩耗性、電気特性)

(2) 産業機械分野(売上の14%)

火力発電所・水力発電所のタービン部分などに溶射加工を施す(耐熱性・耐摩耗性)

新幹線のモーター用軸受けに溶射加工を施す(電気絶縁性)

(3) 鉄鋼分野(売上の12%)

自動車用鋼板の生産工程で使われるロール表面に溶射加工を施す(耐焼付性・耐摩耗性)

(4) その他分野(売上の16%)

石油化学コンビナートの内壁(耐食性、耐摩耗性)

医療用の鉗子、内視鏡など(非粘着性)

このようにさまざまな分野でトーカロの溶射加工が活躍しています。

溶射加工には大きく2つの目的があります。顧客企業の製品の「高品質化」と顧客生産設備における「生産効率の改善」をもたらすことです。例えば、

・半導体製造装置の部品であれば、プラズマエッチング工程における部材損傷を防止すること(高品質化)によって生産歩留まりを向上させることに役立ちます。(生産効率の改善)

・発電所における発電機のタービン部材であれば、タービンの耐久性が向上し、寿命が長くなります(生産効率の改善)。また、耐熱性を高めることで、これまで以上に高い温度で発電し、発電効率を改善できます(高品質化)。

・新幹線の主電動機の軸受けであれば、絶縁性を持たせることでスパークによるベアリングの損傷を防ぐことができます。これによって、新幹線の高速運転を支えています。(高品質化)

・鉄鋼の生産工程で使われるロールについて、耐焼付性を高めることで、ロールの交換頻度を下げることができるとともに、焼付き部が鋼板製品に傷をつけることを防止でき(高品質化)、また、溶射ロールは長期間安定して稼働できるので大幅に生産効率が高まります。(生産効率の改善)

5.顧客企業が内製を選ぶか、外注を選ぶか、その分かれ目は?

トーカロにとって最大の敵は、競合企業ではなく、意外なことに顧客企業による内製化かもしれません。溶射加工は、そのための機械装置さえあれば、顧客企業が自ら行うこともできます。

顧客企業が溶射加工を内製化することのメリットは、自社内のラインに組み込むことで短納期およびコストダウンが図れることです。しかし、内製化するには、自社で設備投資をしてラインに組み込む必要があるため、溶射加工方法が確立されるなど、溶射加工の仕様が固まり、長期にわたって変更の見込みがない場合に、内製化するのが合理的と考えられます。
航空機部材のように確立した溶射仕様の部品が大量に生産される場合は、内製化のメリットは大きいと思います。

一方、半導体製造装置の部材のように溶射仕様が次々に新しくなるものや、製鉄所のローラーなどは、それら部品の生産量は多くなく、またメンテナンスでの溶射(リコート)は1年~数年に一度程度ですので、自社で装置や技術を維持するのは得策ではありません。

溶射加工には独特のノウハウが必要です。溶射する材料を何度で溶かせばよいのか? どんな速さで溶射すればよいのか? どんな角度で吹き付けるのがよいか? などは、独自の経験と試行錯誤から最適なものを見つけ出さなければなりません。

顧客企業単独では、なかなかそれを見つけ出すのが困難です。そこでトーカロが顧客企業と二人三脚で、最適な方法を研究開発し、溶射加工方法を確立していく、というのが最も合理的です。

また、溶射加工方法にまだ改善の余地がある場合には、トーカロのような専門企業に外注して、溶射加工方法を改善していく方が長い目で見れば効率的です。

そのほか、溶射加工を内製化している企業でも、処理能力を超えた受注があるときには、臨時的に外注することがあります。

6.リコート需要がある

トーカロの営業は、直接販売のみで、専門知識のある者が営業を行っており、現在70~80人体制です。また、技術展などに展示することによる営業活動も行っています。

営業活動の結果、溶射加工を一旦受注すると、内容によっては継続的に受注できるようになります。

溶射加工した表面は、摩擦や熱などの耐性が強化されたとは言え、その機能は少しずつ劣化していきます。そこで、それをリコート(コーティングした部分が劣化してきたときに、いったん表面加工をはがしてきれいにし、再度コーティングすること)する需要があるのです。このリコートは、新品部品の溶射と同様の収益性が期待できます。

7.顧客企業の要請で海外展開を始める

トーカロの海外展開の戦略は、基本的にはライセンスビジネスとしての展開です。世界各国の同業他社に技術供与することで対価を得るというものです。

しかし、例外もあります。顧客企業が海外展開するときに、トーカロも共に展開する、というものです。というのも、例えば鉄鋼分野では、生産工程に設置されている巨大なロールをリコートする需要が発生します。これは国内工場でも海外工場でも同じです。もし海外工場の近隣にリコートを頼める現地企業が無ければ、どうでしょうか。巨大なロールを日本まで海上輸送してリコートしていては、大変なコストがかかってしまいます。そこで、リコート需要のある顧客企業には、自社工場の近隣にトーカロに進出してもらいたい、というニーズが生まれるのです。

このようなことから、まだ数は少ないですが、トーカロにも海外子会社がいくつかあります。そこでは、リコートが中心ですが、営業活動も行っています。

インタビュー後記

トーカロは、私が株式投資を始めて、最初に購入した企業です。それ以来ずっとトーカロ株を保有しています。その企業を訪問することができ、詳しい話を伺えて、とてもうれしかったです。

事業自体は、顧客企業の製品に対する溶射加工であるため、顧客企業の業績に連動して、トーカロの業績も連動します。そういう意味で、売上の変動はトーカロにとって不可抗力ともいえます。特に半導体製造装置の業界に対する依存度が高いため、半導体業界の好不況の影響を受けやすい、景気循環型の企業といえます。

しかしトーカロとしては、それに甘んじていてもいけません。そこで「全天候型経営」と称して、多様な分野に顧客を分散し、業績の安定化を図る取組みを行っています。

現在の海外展開は主にライセンスビジネスによる展開ですが、技術、人材ともに世界の舞台で十分に戦える企業なのだと思います。また、表面加工事業だけなく、顧客メーカーに部品を供給できるよう研究を進めているようなので、ぜひこれからも事業を発展させ、世界一の溶射企業になってほしい、と思いました。

これからも末永く、応援していきたいと思います。

 

※ 当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。
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