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トレジャー・ファクトリー【3093】システムと人材育成で多店舗展開する価値の再生事業


今回は、多様なリサイクルショップをチェーン展開しているトレジャー・ファクトリー【3093】のIR部門を訪問してきました。
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トレジャー・ファクトリーの本社所在地は、東京都千代田区神田練塀町3大東ビル2Fです。

神田練塀町(かんだねりべいちょう)などと聞くと、どこの江戸の町かと思いますが、実は電気・電子機器とオタクの街、秋葉原駅のすぐ近くにあります。

トレジャー・ファクトリー本社の入居する大東ビルは、JR・地下鉄日比谷線・つくばエクスプレス各線の秋葉原駅から徒歩2~3分です。


ヨドバシカメラAKIBAビルの斜め向かいのビルであり、とてもわかりやすいところに位置しています。

 


1. 中学2年生で将来社長になることを決意。大学卒業後、即起業

トレジャー・ファクトリーの創業は、現 代表取締役社長の野坂英吾さんが、1995年5月に設立した有限会社トレジャー・ファクトリーがスタートです(1999年に株式会社に改組)。

創業からたった12年後の2007年12月にトレジャー・ファクトリーは東証マザーズに上場を果たします。

この時の野坂さんの年齢は35才。
この事業展開スピードの背景には、「父を超える」という思いを強く抱いて成長した野坂さんの青年期があります。

 

野坂さんのお父さんは総合エネルギー商社の幹部(のちに取締役)で、海外赴任に伴って野坂さんも2才から10才までをシンガポールで過ごします。

野坂さんは、父親の姿に憧れ、いつしかその父親を超えたいと思うようになりました。
そして中学2年生の頃には、大企業の取締役である父親を超えるために「社長になる」と決意します。

それ以来、野坂さんは社長になるにはどうしたらよいかを考え続けて学生時代を過ごしました。

大学でも「起業」の研究会に所属し、どのような事業で社長になるのかを模索します。

しかしながらなかなか具体的な起業のイメージが掴めず、その研究会のアドバイザーに相談したところ、

「起業ネタを50個考えてみなさい」

との助言を受けてそれを野坂さんは実行します。

その中の一つにリユース業も含まれていました。

野坂さんは家電量販店でアルバイトをした経験から、大型家電が買い換えられて、まだ使える冷蔵庫やテレビ、洗濯機などが捨てられていくことに疑問を感じていました。

一方で大学のバザーやフリーマーケットなどで、出品者にとっての「不要品」が、他の人にとっては「有益」なものとして売れていくところを見て、リユースにはビジネスチャンスがあるのでは、と考えました。

 

野坂さんが大学4年生の時には、リユース業での起業について実地調査を行っています。

その調査は各地にある、いわゆるリサイクルショップに赴いて、経営の実情をヒアリングすることでした。ヒアリングしたその数は48店舗。

ヒアリングの開始当初は、ショップの経営者から「儲からない仕事だ」とか「チェーン展開など無理」などと、ネガティブな答えが続きましたが、それに気落ちせずにヒアリングを続けたところ、上手くいっている店とそうでない店の差が、次第に明瞭になってきました。

ヒアリングの最後の方では、上手く運営する方法を仕組みにして店舗を増やせば、リユース業のチェーン展開も上手くいく、と確信するようになります。

そして、大学卒業直後の1995年5月に有限会社トレジャー・ファクトリーを設立しました。

しかも、ショップオープンに当たっては、若手起業家を応援する企業の支援を受けて、足立区の大きな倉庫を格安で借りることができました。

 

また、当時の時代背景も味方しました。

戦後の高度経済成長期からバブル期に至る中で、日本は大量生産、大量消費が当たり前のライフスタイルになっていました。

しかし「成長の限界」が議論され、日本でも1991年の廃棄物処理法改正で廃棄物の排出抑制、分別とともに、再生・再資源化が法の目的に追加されました。
これにより家電リサイクル法をはじめ、各種リサイクル法制が次々と整備されていきます。

1995年は東京都の粗大ゴミ処分が有料となった年でもあり、リユース業拡大の基盤が整った時でもありました。

 


2. 売上の中心はファッション系商材

トレジャー・ファクトリーの事業の中身を見ていきましょう。

トレジャー・ファクトリーの売上高は177億37百万円、営業利益は9億5百万円、当期純利益は5億64百万円です(いずれも2019年2月期連結決算。以下同じ)。

売上高は、創業以来の連続23期増収を記録しています。

 

取扱商品種類別に店舗ブランドも分かれています(店舗数は2020年2月現在)。

TreFac JIgyotenkai.jpg (266 KB)店舗数上位から見ていくと、旗艦ブランドであり、総合リユースの「トレジャー・ファクトリー」は65店舗を展開。

衣料や服飾雑貨(バッグやアクセサリー、靴など)扱う「トレファクスタイル」が53店舗、ブランド古着の「カインドオル」が41店舗と続きます。

ファッション系では低価格衣料中心の「ユーズレット」が7店舗、高級時計・アクセサリーなどハイブランドを扱う「ブランドコレクト」が3店舗あります。

ファッション系以外ではゴルフ用品専門の「ゴルフキッズ」が18店舗、スポーツアウトドアの「トレファクスポーツ」が5店舗、家電や家具・インテリアなど大型商材を扱う「トレファクマーケット」は1店舗展開しています。

主要ブランドではオンラインショップも開設しており、リアル店舗とECの両方で売上をあげています。

 

有価証券報告書には、取扱い商材ジャンルごとの販売構成比が記載されていましたので、その構成比を円グラフにしてみました。

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商品別売上構成比
(「その他」にはECドレスレンタル「Curiru」などの事業売上げを含む)

右図の通り、衣料が約5割。服飾雑貨と合わせるとファッション系商材は売上げの66.7%を占めています。

白物家電や家具、ホビー用品の取扱いが多いイメージがありましたが、それらの構成比は1/3にとどまり、トレジャー・ファクトリーの事業の中心はファッション系商材となっています。

 

ファッション系商材は、電化製品や家具などに比べて軽量ですので、お客さんは車がなくても店舗への持ち込みや購入品の持ち帰りが可能です。

そのため、駅近くでの店舗展開が中心になっています。

一方で、総合リユースの「トレジャーファクトリー」は、大型商品の取り扱いも多く、駐車スペースが必要であることから、ロードサイドでオープンすることが多いそうです。




3. 安定した仕入れを助ける独自POSシステム

リユース事業は、販売する商品をどれだけ仕入れられるかが、一つのキーとなります。

また、中古品として持ち込まれたものが不正品でなく、商品として売れる価値があるのか、それを見極める判断も重要です。

どれだけ仕入れられるか、という点では店頭買や出張買取に加え、宅配便での買取依頼に応じる宅配買取も実施して、仕入れの強化に努めています。

このような買取窓口の多様化は確かに必要ですが、仕入れで一番大切なことは「信用」だということでした。

お客さんが持ち込んだ買取依頼品について、お客さんが想定した価格より安い買取価格だったり、または買取できなかったりということがあります。そういった場合、トレジャー・ファクトリーでは、どうしてその値段なのか、どうして買取できないのかを要望に応じて説明するようにしています。

このような誠実な対応を続けることで、お客さんの納得感が高まり、信用が生まれ、買取依頼のリピーターが増えて行くそうです。

 

しかしながら中古品は一品一様であり、一つ一つ見極めて買取値段を決めなくてはいけない仕入れは、経験の浅い人には難しいはず。それなのにどうしてトレジャー・ファクトリーは次々と店舗を増やしていけるのでしょうか。

その秘密は、全店の買取・販売状況が瞬時に参照できる、トレジャー・ファクトリー独自のPOSシステムにあります。

店頭での買取の際、仕入担当者はPOSシステムで過去のデータを参照しながら買取値段を決めます。

このPOSシステムには値段のほかに、偽ブランド品を見分けるポイントなども参照できるようになっており、強力な仕入支援システムになっています。

このシステムの活用により、どの店舗でも買取価格、販売価格が一定の幅に納まり、結果お客さんからの信用につながっています。

野坂社長は創業前のヒアリング調査で、上手くいっているリサイクルショップは、販売価格が明確になっていることに気づき、1店舗目の時からリユース品1点ごとに仕入価格、販売価格をノートに記録していたそうです。
それをシステム化したのが、現在の独自POSシステムです。

このシステムは、リユース事業を多店舗展開で成功させるための基盤となっており、トレジャー・ファクトリーのコアコンピタンスといえるでしょう。

 


4. もう一つの基盤、人材育成システム

独自のPOSシステムが多店舗展開を可能にしたのは事実ですが、それに加えて人材育成システムがなければ、トレジャー・ファクトリーの成長はなかったと思います。

トレジャー・ファクトリーには、店舗で働く人たちが一定の商品品質・サービス水準を保てるよう、マニュアルが用意され、きちんと教育されます。

新入社員は販売担当をしながら上司の指導監督の下、OJT(On the Job Training)を通じて仕入も覚えていきます。

概ね6ヶ月でその店舗のバイヤー(仕入担当)の一人になります。店舗には3~4名の仕入担当がいます。
仕入では独自のPOSシステムを参考にしますが、値段を最終決定するのはバイヤーです。

バイヤーはその商品がいくらで売れるかを想定し、逆算して買取値段を決めます。

さて、バイヤーはさらに経験を積んで力を付けると、他店の副店長や店長へと昇格していきます。

店長は仕入の責任者であるとともに、店舗の運営を通じてその店の営業利益に責任を持ちます。

さらにその上にはエリアマネージャーがいて、数店舗を担当して、それぞれの店舗のマネジメントを行います。

このように正社員は仕入能力を身につけることから次第にマネジメント能力を身につけるよう、教育プログラムができており、同時にキャリアも積んでいけるような人材育成システムになっています。

多店舗展開を前提に創業したトレジャー・ファクトリーだけに、しっかりした人材育成システム、マネジメントシステムが考えられていたのですね。

 


5. 海外や今後の展開は

トレジャー・ファクトリーは、2016年7月にタイのバンコクに店舗を開店し、海外進出を既に果たしています。

2020年2月現在、海外はバンコクで3店舗の運営となっています。

海外の店舗展開でもわかるように、トレジャー・ファクトリーは「ドミナント戦略」に基づいてチェーン展開しています。

ドミナント戦略とは、一定の地域に集中的に出店することで、その地域でのシェアトップを奪取していくマーケティング戦略です。

スーパーマーケットや居酒屋チェーンなどでよく見られる戦略であり、顧客獲得とともに効率的な物流が行えることもメリットです。

 

トレジャー・ファクトリーの場合は、狭い地域で知名度と信用を得ることで、販売面だけでなく、仕入(買取)の促進にもつながっています。

実際に出店の足取りを見ると、足立区に1号店を開店した後、足立区と隣接する埼玉県に集中的に出店して事業基盤を固めました。

そして、1号店開店から8年後の2003年になってようやく神奈川県横浜市に進出しています。

その後、千葉・茨城と関東南部で店舗展開した後、2013年5月に兵庫県神戸市、2014年3月に大阪府岸和田市で店舗をオープンし、関西にも事業を広げました。

さらに2016年には愛知県名古屋市や福岡県春日市にも、総合リユース店の「トレジャーファクトリー」を開店しています。

 

海外展開においても、タイというよりバンコクをドミナント戦略の観点から選び、進出したということです。

買換を行う一定の所得水準以上の生活者の存在と、都市の成長見込みがポイントです。

バンコクの事業は順調ですが、トレジャー・ファクトリーとしては国内の店舗展開余地がまだ大きいため、当面は国内事業に注力し、海外事業への本格的な展開は今後の成長可能性として残されています。

 

国内事業においても、リユース市場の拡大に伴い専門性が求められるジャンルも増えています。

たとえばブランドバッグや貴金属などの買取業者は多く、またゴルフ用具やフィッシング用具の専門店も増えています。

そこでトレジャー・ファクトリーは、2016年にブランド衣料、バッグのリユース事業の株式会社カインドオルを、2018年にはゴルフ用品専門リユースショップ老舗の株式会社ゴルフキッズのそれぞれの株式を取得し、子会社としています。

これにより、カインドオルの41店舗、ゴルフキッズの19店舗がトレジャー・ファクトリーグループの店舗となり、多店舗化が進んでいます。

 


6. 拡大するリユース市場

リサイクル・リユース市場の専門誌である「リサイクル通信」によると、2017年のリユース市場規模は前年比12.3%増の1兆9932億円。ほぼ「2兆円市場」といえます。

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出典:『リサイクル通信』2019年05月11日

 

さらに同誌は、2022年には3兆円規模に拡大すると予測しています。

この背景には、国の政策としての「3R(リサイクル、リデュース、リユース)」の推進があり、なかでもリサイクルより資源消費が少なく、廃棄物発生が抑制されるリデュースやリユースが優先的に進められているという後押しがあります。

こういった中で、実店舗によるリユース品の買取・販売は、古くから骨董品やリサイクル品などを中心に小規模な古物商が主体でしたが、1990年以降は、トレジャー・ファクトリーを始め、ブックオフグループホールディングス【9278】ハードオフコーポレーション【2674】コメ兵【2780】買取王国【3181】、セカンドストリート(現在はゲオホールディングス【2681】の子会社ゲオに吸収合併)など、リユース事業での上場会社が多数誕生し、リユース市場の認知や取引の透明性、安全性などが向上したことから利用者も増えています。

また、近年のネット社会の進展等により、ネットオークションやネットフリーマーケットが大きく進展し、リユースのC to C市場が拡大しています。

 

なかでも、スマートフォンの浸透とメルカリ【4385】に代表されるフリマアプリの登場は、中古品の写真を手軽に撮影、掲載して購入希望者を見つけられることから、瞬く間に浸透し、C to C市場がリユース市場の重要なジャンルのひとつになりました。

特にフリマアプリの利用は急激に拡大したため、トレジャー・ファクトリーなどの実店舗の業績に悪影響を与えるのではないか、という声が多くありました。

実際には、フリマアプリを経験した上で、リユースの実店舗に戻ってくる人も多く、影響はあまり見られませんでした。

フリマアプリの場合、自宅で出品できるという手軽さがある反面、値引き交渉があったり、中古品の梱包・発送という手間があったりすることから、実店舗への持込、売却を選択する人も多いようです。

リユース市場とは少し異なりますが、最近は洋服のレンタルやサブスクリプションでの利用も増えており、服やモノを「新品で所有したい」という意識は低下して、「必要な時に必要なものを利用する」というライフスタイルが浸透しつつあります。

フリマアプリやレンタルの広がりは、リユース市場に対する逆風となるよりも、むしろリユース品に対する心理的な抵抗を下げる効果を発揮し、リユース市場に追い風となっているようです。

そうしたなかで、トレジャー・ファクトリーが行っているリユース事業は、まだまだ発展すると期待できそうです。

 


インタビュー後記
大量生産大量消費型社会から循環型社会へという流れの中で、リユース市場の拡大は必定、と思う方もあろうかと思います。しかし、その流れを受けて、ビジネスとしてきちんと業績を上げていくのは大変なことです。

リユース市場も古本屋やリサイクルショップは以前からありましたが、従来の個人経営的なやり方では、マーケットはここまで拡大できなかったでしょう。

古本ではブックオフが、その他のリユースではトレジャー・ファクトリーが革命的な経営方法でチェーン展開を可能にし、市場を牽引しました。

学生時代から構想を立て、社会人になるとともに実行し、結果を出した野坂社長の足跡を見ると、とかく経験が重視される日本において、若者の可能性を社会に示している、と思います。

上場企業経営者としては、まだまだ若手の野坂社長ですので、これからも大胆なチャレンジをし続けて欲しいと思います。

以上


※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。
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