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手間いらず【2477】 上場後に見事な業態転換。人手不足に悩むホテル業界の手間を削減。


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(手間いらずが入居するNRビル)

 

今回は、ホテルや旅館に向けて「宿泊予約サイトコントローラ」を提供している手間いらず【2477】のIR部門を訪問しました。

手間いらずの本社は、JR恵比寿駅東口から徒歩5分。東京都渋谷区恵比寿1-21-3 恵比寿NRビルの7階にあります。

恵比寿NRビルの「NR」は、「日本ルツボ」の略であり、日本ルツボ【5355】本社があります。また手間いらずの他にもシリコンスタジオ【3907】といった上場企業も入居しているビルです。

近隣はオフィスビルが多いのですが、1階部分におしゃれな感じの店舗が入居しているビルもあり、オフィスとショップが混在しているような、面白い雰囲気の街並みとなっています。

 

 

1.「比較.com」から「手間いらず」に

手間いらず株式会社は、比較.com株式会社から商号変更した会社であるのは、多くの方のご存じの通り。

それでは比較.comの起源は?というと、現代表取締役社長の渡邉哲男さんが、ベンチャーキャピタルで働いていた1999年に、航空会社のマイレージサービスを比較するサイトを非営利・個人で開設したのが始まりです。

このサイトは人気を博し、ページの充実を図る中で「hikaku.com」というドメインも取得することもできました。ただ、この時点ではまだ、比較サイトがビジネスになるとは思ってはいなかったそうです。

その後、ベンチャーキャピタル勤務も5年が経過し、独立して自分もチャレンジしたいと思うようになった渡邉さんは、会社を辞めて、2003年8月に比較.com株式会社を創業します。

この時には、所有している「hikaku.com」ドメインを活かしてマイレージのみならず、総合比較サイトとして立ち上げました。

この頃はブロードバンド時代に入っており、オンラインストアの増加で様々なものがネットで購入できるようになる一方、ジャンルごとの比較情報サイトは、モノやサービスの購入を検討する消費者にとって便利なツールとなりました。

比較.comも多くのインターネットユーザーのアクセスを獲得し、大きな広告収入を得るようになりました。

そして創業から2年半後の2006年3月に、東証マザーズに上場を果たします。

渡邉さんは上場で得た資金で、複数の会社を手に入れます。その中の一つに、2007年6月に取得した有限会社プラスアルファという会社がありました。

プラスアルファはホテルなどの宿泊施設に向けて、各種予約サイトへの情報提供管理をするソフト「手間いらず」(以下、システム、サービスとしての「手間いらず」を「TEMAIRAZU」と表記します)を提供していました。

買収前のプラスアルファは、売上1億5700万円(2006年12月期)の会社でした。

それまでの比較.com株式会社は、インターネットユーザーに情報を提供するB to Cの事業でしたが、プラスアルファがグループになったことで、ホテル業を顧客とするB to Bの事業も加わることになりました。

その後、プラスアルファは順調に業績を伸ばして、連結子会社として業績に貢献していましたが、2009年4月には親会社の比較.comに吸収合併され「手間いらず事業部」となりました。

(注:比較.comは、プラスアルファ吸収した後、2014年4月には他の連結子会社の吸収合併も行い、2015年6月期から単独決算に移行しています)

 

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上のグラフは、過去の有価証券報告書からセグメント売上を集計してグラフにしたものです。

水色の棒グラフが祖業である比較.comの広告収入を中心としたインターネットメデイア事業売上、ピンクの棒グラフはTEMAIRAZUを中心としたアプリケーション事業売上(オンライントラベル事業売上、その他売上を含む)です。

見てわかるように、TEMAIRAZUの事業であるアプリケーション事業売上は、買収翌年の2008年には早くも祖業に迫る2億8千万円が計上され、2012年度以降はアプリケーション事業が売上の過半を占めるようになりました。そしてその割合は年ごとに増えています。

こういった事業構造の変化もあり、比較.comは2017年10月に「手間いらず株式会社」に商号変更を行いました。

 

2.「手間いらず」とは

それでは、手間いらずの事業を見ていきましょう。

事業の中心は、旅行業界以外の人はあまり聞き慣れない「宿泊予約サイトコントローラ」の提供です。

ホテルの多くは、自らの公式サイトで予約を受け付けるだけでなく「楽天トラベル」や「じゃらんnet」、「るるぶトラベル」などの国内予約サイトや、「Booking.com」「Expedia」などの海外の予約サイトに在庫・料金情報を提供し、宿泊予約を獲得しています。

宿泊予約サイトコントローラを導入していないホテルでは、予約を獲得するたびにホテル公式サイトの空室情報を更新するのに加えて、各宿泊予約サイトにそれぞれログインして、それぞれ空室情報を更新しなければなりません。

これを怠るとダブルブッキング(重複予約)が起きるなど、ホテルの信用問題にもなりかねません。

また、ダブルブッキングを避けようとして、宿泊予約サイトごとに販売数を割り当てることもありますが、売れるサイトと売れないサイトの間で、売り損じが生じたりもします。

このように複数の宿泊予約サイトに宿泊情報を載せているホテルでは、在庫の更新を人手でタイムリーに行うことは、大変に手間がかかる作業なのです。

もちろん、在庫状況更新だけでなく、宿泊料金の変更についても同じことが言えます。

これらの手間がかかる作業を引き受けて、一元管理してくれるのが宿泊予約サイトコントローラ「TEMAIRAZU」というわけです。

 

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(「TEMAIRAZU」宿泊在庫管理画面)

 

ホテル、宿泊施設の多くは「PMS」と呼ばれるホテルシステムを導入しています。PMSは予約管理や精算機能、販売管理機能などを持つ宿泊施設の基幹システムです(システムによってはさらに多機能なものある)。

TEMAIRAZUは、このPMSと各宿泊予約サイトとの間で情報をやり取りして、ホテルマンによる情報更新作業の手間を削減したわけです。

いわゆる宿泊予約サイトコントローラには在庫・料金管理以外にも多くの機能がありますが、TEMAIRAZUの特長としては、国内、海外を問わず多くの予約サイトに対応していることです。

また、HANATOUR JAPAN【6561】など「ホールセラー」と呼ばれる法人向け(団体客需要対応)旅行業者や、トリップアドバイザーのような宿泊予約サイト同士を比較する「メタサーチ」、さらにはAirbnbをはじめ、中国、台湾の民泊仲介システムにも対応しており、多彩なサイトとの連携ができます。

この多彩なサイトとの連携は、独自システムを持つ世界的な高級ホテルチェーンでの利用にも繋がります。

海外高級ホテルチェーンは、自社予約サイト、PMS、サイトコントローラ機能その他を含めた「CRS」と呼ばれる統合システムを使っていることが多いのですが、日本の宿泊予約サイトには対応していない場合がほとんどです。

その場合、自社のシステムを改修するよりTEMAIRAZUを利用して日本の予約サイトと繋げた方が便利、となります。

 

3.市場規模や競合は?

宿泊予約サイトコントローラは、市場規模としてはどのくらいあるのでしょうか?

厚生労働省の資料によると、2015年3月末現在で旅館業営業許可を受けている施設は、全国で78,898施設。このうちホテルが9,879施設、旅館が41,899施設、簡易宿泊所(カプセルホテルやドミトリーを含む)が26,349施設となっています。

近年は旅館が減る一方、ホテル、簡易宿泊所は増える傾向にあり、市場規模はおおよそ80,000施設と推定されます。

手間いらずによれば、上記の約80,000施設のうち、日本最大の宿泊予約サイトに掲載されている施設は約33,000施設であり、そのうち約半分の施設で宿泊予約サイトコントローラが導入されていると推定されるとのことです。

予約サイトに情報を掲載しているのに宿泊予約サイトコントローラを導入しない施設がある理由は、部屋数が少ない施設や一つの予約サイトのみに情報を出している施設は、宿泊予約サイトコントローラ無しでも対応可能だからです。

つまり、現状は15,000~16,000施設でサイトコントローラが使われていると推定されるとのことでした。

では「TEMAIRAZU」の競合となるシステム(宿泊予約サイトコントローラ)にはどのようなものがあるのでしょうか?主な競合システムを見ていきましょう。


「ねっぱん!」(株式会社クリップス)

新潟市に本社を置くクリップスは楽天【4755】のグループ会社のため、楽天トラベルに情報を載せている施設は無料で使える、という大きな特長があります。小規模の施設に多く導入されているようです。


「TLリンカーン」(株式会社シーナッツ)

シーナッツの株式は、株式会社リクルートが 66%、株式会社JTBが 34%の所有割合となっていて、それぞれが運営する「じゃらんnet」「るるぶトラベル」との連携はもちろん、OTA(Online Travel Agent)と実店舗を構えるリアルエージェントを同一画面で管理できることを特長としています。


「らく通」(JR鉄道情報システム株式会社)

みどりの窓口の発券システムを開発しているJRシステムの宿泊予約サイトコントローラ。旅館施設での導入も多く、リアルエージェントとの連携に強みがあります。


このような競合の中で、導入施設数では「ねっぱん!」がトップで4割程度。「TEMAIRAZU」と「TLリンカーン」が同等のシェアと推定され、この3種で概ね9割を占めていると思われます。そして残り1割弱を「らく通」その他の宿泊予約サイトコントローラが占めていると推定されるそうです。

 

4.手間いらずの強みは? 今後については?

シェア上位の宿泊予約サイトコントローラ提供会社を見ると、手間いらず以外はどこも大企業のグループ会社となっています。それらの大企業は宿泊予約サイトも運営しているので、どうしても自グループの予約サイトを念頭に置いた宿泊予約サイトコントローラになります。

一方、手間いらずは、予約サイト運営会社、旅行会社などから独立しているので、しがらみがなくTEMAIRAZUの機能開発が出来ます。

またホテル側のシステムであるPMSも、大手企業やそのグループ会社が提供しているものが多いのですが、こちらも独立系の手間いらずは系列の問題なく対応できます。

システム開発を全て自社で行っているので、TEMAIRAZUを多くのCRSやPMS、予約サイトに対応させることで、ノウハウが蓄積できる点が大きな強みになっています。

今後の見込みとしては、宿泊予約サイトコントローラ未導入の既存施設より、新規施設への導入の方が営業的な期待が大きいとのことでした。

そのような新しい施設は、計画段階からサイトコントローラ導入前提でホテル管理のオペレーションが想定されており、どれを導入するか、という状況です。よってホテル新築の情報が貴重な営業情報になっています。

また、国が訪日外国人旅行者の拡大政策を採っていることも新規施設増加の後押しになっています。

2012年に836万人だった訪日外国人は2015年に1794万人となり、本年2018年は3000万人を突破することが確実となっています。

さらには2020年の政府目標4000万人が現実味を帯びてきています。次の目標である2030年の6000万人へとさらに大きな成長目標が設定されていることもあり、新しいホテル、宿泊施設の建設はまだまだ続くと見られています。

手間いらずの売上は、宿泊客数が増加して、宿泊予約サイトコントローラの利用が増えれば、それに伴って増加していきます。市場規模の拡大が期待できそうです。

こういった状況の中で手間いらずは、本業のTEMAIRAZU拡販に努めて行くそうです。

成長市場でシェアを取っていくことが最優先の戦略です。

2017年10月に「Cake.jp」(運営:株式会社FLASH PARK)と連携し、予約サイトに掲載している「誕生日・記念日プラン」に予約が入ると、TEMAIRAZUを通じて自動的にケーキや花が発注されるサービスを開始しました。

これは既存顧客に対するクロスセルとも言える展開ですが、それまで手動で行っていた確認やケーキ手配などのホテルの手間を減らせることが重要であり、単なるクロスセル、アップセルに向けた開発は考えていない、ということでした。

また、比較.comから手間いらずに変身するきっかけとなったM&Aの活用も、アプリケーション事業とのシナジーが見込める場合に検討するというスタンスで、闇雲に売上を増やそうとはしていません。もっとも、自己資本比率92%、現預金28.5億円(2018年6月決算)という財務状況ですので、良いM&A案件があれば機動的に対応できそうです。

いずれにしても当面は、TEMAIRAZUを主体とするアプリケーション事業に注力していくという戦略です。

 

インタビュー後記

激変するオンライン事業で、見事に業態転換して再び成長軌道に乗せた手間いらず。

売上に比してとてもキャッシュリッチですので、成長が見込まれるインバウンド関連事業で力を蓄え、次の安定成長に向けた事業展開も期待したいと思います。

以上

 

※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。
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