ヒューマンホールディングス【2415】学ぶ場から働く場までをグローバルで考える
今回は、教育事業をベースに人材事業、介護事業、美容事業、スポーツ事業など幅広く事業を手がけるヒューマンホールディングス【2415】のIR部門を訪問してきました。
ヒューマンホールディングスの本社は、東京都新宿区西新宿7-5-25 西新宿プライムスクエアにあります。
このビルは、1988年竣工の16階建て大型オフィスビルです。
右の写真ではわかりにくいのですが、上から見ると菱形で、ユニークな形のビルです。
新宿駅から山手線の外側に沿って北に徒歩9分の場所にあり、また西武新宿線新宿駅、JR大久保駅、都営大江戸線新宿西口駅のそれぞれから徒歩5~6分でこのビルに到着します。
1.多くの職業を経験し、48才で会社創業
ヒューマンホールディングスの創業者は、現代表取締役会長の佐藤耕一さんです。
佐藤さんは1936年(昭和11年)生まれ。オニツカタイガー(現アシックス【7936】)で社会人の第一歩を踏み出した後、証券会社やマンションデベロッパーなどを経てリゾートトラスト【4681】へと転職しました。
佐藤さんが会社員だった昭和30年代~50年代は、定期昇給や終身雇用が進み、同じ会社で勤め続けるのが一般的で、雇用の流動性は低い時代でした。
しかし佐藤さんは「転職によって力を付ける時代が来る」と考え、そのためには社会人教育が必要になると考えていました。
また、事業を興すという強い意志も持っていた佐藤さんは、リゾートトラストで働く中でホテル業関連人材の不足を実感しており、ホテル人材の育成ニーズが高まると考えました。
そこで佐藤さんは会社を退職し、1985年4月に大阪で、ホテル業務に関する職業訓練を行う株式会社教育未来社を設立します。
その後、社会人教育のプログラムを増やしていく中で、1986年3月にはザ・ヒューマン株式会社に社名を変更しています。
さらに、1988年には人材派遣事業を目的としてヒューマン・タッチ株式会社(現ヒューマンリソシア株式会社)を設立します。
教育事業と人材派遣事業。現在の中心事業であるこの2事業は、創業3年にして既に行われていました。
これは、佐藤さんが教育は学んで終わりではなく「働く場に繋げてこそ教育事業である」という考え方から来ており、これは現在でも一貫したヒューマンホールディングスのビジネスモデルとなっています。
その後1999年には、介護事業を開始します。これは教育事業、人材派遣事業に続く第3の事業として、訪問介護からスタートしました。
このように教育や人材派遣事業以外で自らビジネス主体として行っている事業は、介護の他にも美容事業やスポーツ事業、保育事業があり、成長を続けています。
2002年にザ・ヒューマンとヒューマン・タッチの共同株式移転によって、ヒューマンホールディングス株式会社(当社)が設立され、さらには2004年にジャスダック上場しました。
順調に成長し、売上を伸ばしていたヒューマンホールディングスですが、大きな試練がやって来ます。
2009年、政権交代によって派遣法の専門26業務*の解釈が厳格化され、業務改善命令の対象となってしまったのです。
注* 当時、政令で派遣期間の制限(3年間)を受けないとされた26業務。厳格化で期限に抵触している派遣業務が多く存在するとされた。2015年の派遣法改正でこの区分は廃止となった。
指導を受けヒューマンホールディングスでは、自らも厳格な法令解釈でのぞみ、多くの契約を取りやめました。
この結果、2009年3月決算で727億円あった売上が、2011年3月には487億円まで落ち込んでしまいました。
しかしながらこのような大幅な減収であっても、赤字にはならずに2億56百万円の当期純利益が確保でき、事業ポートフォリオの良さが現れた形となりました。
このような厳しい時期を乗り越え、また景気回復を背景とした雇用情勢の改善が進み、人材事業は改善されていきました。
この時期に教育事業については領域を拡大するとともに、その他の事業でも広告代理事業やIT事業を本格化させるなど、時代に合った事業を積極的に取り込み、2013年3月期からは増収基調に乗せることができました。
その結果2019年3月決算では、売上高843億13百万円、経常利益21億72百万円、当期純利益12億17百万円を計上するに至っています。
2.売上の中心、人材事業のセグメント
ヒューマンホールディングスの事業は、大きく分けて人材セグメント、教育セグメント、介護セグメント、その他事業の4セグメントです。
その中で最も大きい構成比を占めているのが人材セグメントです。
人材セグメントは人材派遣事業が中心で、それに紹介事業、業務受託(BPO)などが加わります。
人材派遣事業では、各種事務などの一般派遣やエンジニアなどの技術者派遣を行っており、特徴的なのは建設業界に強いという点です。
建設業界へは、CADオペレーターや事務員をゼネコンや大手ハウスメーカーの支店や現場事務所などに多く派遣しています。
そもそもCADオペレーターの建設業界への派遣は、業界の中でもいち早く行われていました。
これは教育事業でCADオペレーターを養成し、そのオペレーターが派遣事業で実務に携わるようにする、というまさにヒューマンホールディングスの考えを実現した人材事業だからです。
教育事業で育成したCADオペレーターなどの専門職人材は、紹介予定派遣などを経て企業へ採用されることもあり、建設業界には人材紹介事業にも強みを持っています。
人材派遣事業は人手不足、採用難といった追い風の状況にあり、売上が伸びています。
最近 注力しているのがRPA事業です。
RPAとはRobotic Process Automationの略で、ロボットによる業務プロセスの自動化を意味します。
これは、たとえば経費精算や見積などの事務業務(の一部)をソフトウエアロボットに任せてしまう、という取り組みです。
このRPA導入には、プログラミング言語の知識は必要ないものの、ソフトウエアの特長と業務手順を把握して、ソフトウエアロボットがキチンと処理できるようにする人材が必要です。
「プログラクム知識は必要ないが教育訓練が必要」という点は、少しわかりにくいかと思います。
読者の方々の中で表計算のエクセルが導入された頃を知っている方は、その様子を思い出してみてください。それまで、電卓と罫線ノートで計算書類を作っていたのを、エクセルに置き換えた時のことを。
エクセルのマス目に数字と次のマス目に式の記号を入れて計算結果を表示する、というこのソフトは、今では多くの人が(程度の差こそあれ)当たり前に使えますが、紙から置き換わった時には、その高度な機能を使いこなすのに訓練が必要でした。式を表す記号も関数もマクロも知らなかったのですから。
その訓練を経てエクセル操作を身につけてからは、計算書類を電卓と罫線ノートで作成する人はいなくなりました。
RPAでは業務フローの中で、たとえば必要情報を集めたり、内容の正誤や過不足などを判定して、次に進めたり差し戻したりするソフトウエアロボットを作り上げていきます。そのロボット開発担当者を育成、訓練する必要があるのです。
実はこの訓練の研修教材を、ソフトウエアメーカーと共同開発しています。
そしてRPAソフト導入企業から教育研修を受託するのはもちろんのこと、RPA人材の派遣やRPA業務の請負、さらにはRPAソフトのライセンス販売などまで手がけています。
これは、ヒューマンリソシアから見ればクロスセルですが、取引先から見ればヒューマンリソシアはソフトを購入した会社というだけでなく、効果を上げるところまで面倒を見てくれる会社となります。
その他、医療事務や行政の事務業務などのBPO受託もあります。
これらの人材セグメントの売上高は485億63百万円(2019年3月決算。以下同じ)、セグメント利益は6億15百万円で、連結売上に対する構成比は約57%と過半を占めています。
3.広く展開し、経営の基盤をなす教育セグメント
祖業である教育事業は、当初は就職に直結する職業訓練や必要資格等の取得といった講座が主でしたが、現在では幼児教育からシニア世代教育、また外国人に対する日本語教育と、その範囲を大きく広げています。
そしてそれぞれの教育の中身としては、株式会社の機敏性を活かし、時代のニーズにあった講座開発をしていることが特長です。
教育事業は売上高234億35百万円、セグメント利益9億90百万円をあげています。
教育受講者別に見ると、社会人教育の売上は約103億44百万円と、教育セグメントの半分近くを占めています。
社会人教育では、日本語教師養成講座、ネイリスト養成講座、Web・ITスクールなど実務に直結した教育を行っています。
社会人教育は、340以上の通学講座、200以上の通信講座を開講しており、2,800名以上もの講師を抱える大きな事業です。
社会人教育の次に売上が大きいのが全日制教育で、教育セグメントの売上の約25%を占めます。
全日制教育は、総合学園ヒューマンアカデミーというブランドで、全国に19の校舎を持ち、約3,000名の学生が学んでいます。
声優・俳優を目指すパフォーミングアーツやゲームクリエイター、マンガ、イラストレーターなどの専攻が人気です。
国際人教育は、中心は外国人のための日本語学校事業で、創業3年目の1987年にスタートした歴史を持ちます。既に10,000人以上の修了者を輩出しており、国内トップクラスです。
この分野は労働人口減少から、外国人材の国内就業は増加傾向にあり、伸びが期待されています。
一方、日本人の海外語学留学支援事業も1990年から行っています。
現在では世界で90を超える提携校のネットワークがあり、さらには現地校経営も行っています。2017年にはアメリカ・カナダの3校をM&Aで獲得し、これにより欧米東南アジアなどの海外子会社・関連会社は17社となりました。
保育事業と児童教育事業の売上高合算は44億円に及びます。
保育事業では、「スターチャイルド」のブランド名で神奈川県を中心に22施設を運営しているほか、病院内保育、企業内保育の受託もしています。
また、保育士についてはヒューマンアカデミーの東京・横浜・大阪の3校が厚労大臣指定保育士認定施設の指定を受けており、保育士の育成・採用に繋げています。
児童教育で代表的なものは、キットを使って実際に動くロボットを作る「ロボット教室」です。
未就学児から小学校高学年まで、発達段階に応じたコースが用意され、知的好奇心が高まるプログラムになっています。
最上位のアドバンスコースでは、ロボットに各種センサーを組込、プログラムによって複雑な動きを意図通りに動かせるようにします。
事業としてロボット教室の面白い点は、各地の学習塾とフランチャイズ展開している点です。
教材と教育プログラムをヒューマンアカデミーが提供し、塾の先生が教えています。
この方式だと、ヒューマンアカデミーは固定費を少なく抑えることができ、塾経営者も小学校低学年を対象としたロボット教室では、空いている午後の早い時間が稼働できるようになるというメリットがあります。
現在では1,400以上のFC加盟教室で、2万人以上の児童が学んでいます。
ロボット教室や理科実験教室などは、国の「理工系人材育成戦略」にも合致しており、期待したいところです。
4.介護セグメント、その他の事業セグメント
介護事業のセグメントは、デイサービス等の通所系サービスを中心に、グループホームや小規模多機能、老人ホームの運営などの居住系サービスと合わせ、売上高約99億円、セグメント利益4億10百万円となっています。
こちらも介護士の養成・採用には、ヒューマンアカデミーとのシナジーがあることはもちろんです。
その他の事業は、ネイル事業、スポーツ事業、IT事業などで、売上高24億58百万円です。
ネイル事業は、業界最大手のネイリスト養成スクールを背景に、直営26店舗を含む全国約40店舗のネイルサロンを展開しています。
ネイルのお手入れは特別なときだけでなく、もはや美容院に通うように定期的にネイルサロンに通う女性も増え、店も増えたことでサロン間の競争は激しくなってきています
スポーツ事業は、バスケットボールBリーグ1部の「大阪エヴェッサ」を、子会社のヒューマンプランニング株式会社が経営しています。
Bリーグの注目度は高く、スポンサー収入や興行収入が増収に寄与しています。
5.競合は?
今まで見てきたようにヒューマンホールディングスは、4つ事業セグメントのそれぞれが複合的に関係し、ユニークな経営形態となっています。
よって、全く同じ事業の競合は見当たりませんが、それぞれの事業においては競合が存在します。
人材派遣を中心とした人材系事業において、ヒューマンホールディングスの売上高は、先にも述べたように約447億円で、業界11位です。
業界トップのリクルートホールディングス【6098】の人材派遣事業の売上高は約1兆2900億円で、2位のパーソルホールディングス【2181】が約5095億円。
市場規模5兆円といわれるマーケットですが、今後も成長が見込まれています。
教育事業のマーケットでは、語学に強いNOVAホールディングス【非上場】が1位で売上高約295億円(2017年度)。2位がヒューマンホールディングスグループで、語学を中心としたニチイ学館【9792】の教育事業が続きます。
ただ、1位と3位が語学中心の教育であることに対し、ヒューマンホールディングスは幼児教育~社会人教育まで、年齢層・講座ジャンルとも圧倒的に幅広いことが特長です。
介護事業の分野では、トップのニチイ学館【9792】の介護事業が売上高約1514億円です。ヒューマンホールディングスは、先に述べた売上高99億円で15位です。
こうしてみると、どれも大きなマーケットで事業を行っており、競合の存在も大きいのですが、ヒューマンホールディングスは、教育事業から人材派遣事業やその他の事業に繋げていて、そのシナジーを活かす事業展開をしているのが強みです。
よって、それぞれの市場でトップシェアを取るより、最大限のシナジーを得ることを優先した経営といえます。
6.ヒューマンホールディングスの総合力発揮、グローバルITエンジニア
グループシナジーを活かす、という点では、ヒューマンホールディングスが成長戦略の一つと挙げている「グローバルITエンジニア派遣事業」の推進は、まさに総合力、シナジーを発揮する戦略です。
日本の労働人口は減少しており、各企業は労働力の確保に必死です。
その中でも特にITエンジニアについては、IT活用ニーズ拡大の中で人材不足傾向が顕著です。
そこでヒューマンリソシアでは、海外大学や企業と提携し、日本で働きたいIT人材を募集し、採用。採用者の日本語教育や入国手続き支援を行ってヒューマンリソシアで常用雇用し、日本の取引先に派遣する、ということが進められています。
ITエンジニアは派遣単価も高く、外国人ITエンジニアにとってもヒューマンリソシアにとっても魅力的です。
この戦略の今後を見ていきたいですね。
インタビュー後記
インタビュー開始直後は「様々な講座や派遣事業、介護事業とバラバラではないか」と思いながら聞いていました。
しかし次第に、それらを結び付け行くというスタイルが見えて来て、とてもユニークな経営だと思いました。
このような事業展開は、許認可が必要な学校法人で行うのは困難ではないかとも思いました。
インタビューの最後で、将来は外国(東南アジア)で幼児・児童教育でロボット教室を行い、それによってITエンジニアとして成長した人材が、外国語の語学教育を受けて日本をはじめ、ITエンジニアを必要とする各国で働くようになる。そのような事業ができるといいなと思っています、と語られていました。
このような大きな夢を持てる株式会社の教育事業に、新たな可能性を見た思いがしました。
以上
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