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エプコ【2311】設備設計で建築現場の効率・品質を向上させ、アフターフォローも受託。そして将来の布石も


EPCO honsha.jpg (202 KB)今回は、住宅の設備設計コンサルティング事業を行うエプコ【2311】のIR部門を訪問してきました。

 

エプコの本社は、都内城東エリアの大きな繁華街である錦糸町にあります。
所在地は東京都墨田区太平4-1-3 オリナスタワー 12階。
東京メトロ半蔵門線錦糸町駅から徒歩3分、JR総武線錦糸町駅からも徒歩5分です。

 

錦糸町駅北口、錦糸公園の隣にあるこの本社所在地は、都市再開発で2006年に開業した「オリナス」とよばれる大型施設の中にあります。

「オリナス」には、家電・家具・スポーツ用品の大型量販店と専門店が入る「オリナスコア」と、シネマコンプレックスと専門店の「オリナスモール」、そして45階建てタワーマンションの「ブリリアタワー東京」とともに、エプコをはじめジブラルタ生命保険やメットライフアリコ等多くの企業が入居する地上31階建てのオフィスビル「オリナスタワー」で構成されています。

再開発前は、明治時代から続くセイコーの製造部門「精工舎」の工場(1892年設立、1997年工場閉鎖)があった場所です。

 

 

1. 住宅給排水設備の現場で体感した不合理を設計で解決

エプコは、現 代表取締役グループCEOの岩崎辰之(いわさき よしゆき)さんが、1990年4月に設立した有限会社エプコが起源です。

当初から、現在の主力事業である給排水設備設計の請負をしていました。
それでは、なぜ給排水設備設計の事業化を思い立ったのでしょうか。

 

1964年生まれの岩崎さんは、1982年に新卒で東芝エンジニアリング(現 東芝プラントシステム【1983】)に入社し、大型プラントの設計に携わります。

しかし思うところがあって1年半ほどで退職し、東京下町の小さな水道工事店に転職し、住宅給排水設備の施工に従事するようになります。

具体的な作業としては、新築住宅の建築では、床や壁が貼られる前にキッチンやトイレ、風呂などの給水管や排水管を設置し、その後内装がほぼできたタイミングでシンクや浴槽、給湯器などを設置し、給水・排水がキチンとできて各設備が問題なく機能することを確認する、といった作業です。

 

岩崎さんは、水道工事店に転職した1983年から有限会社エプコ設立までの約6年半の間、給排水設備工事の現場で様々な不合理を経験します。

水道事業は電気やガスと異なり、各地方自治体が事業主体となっています。

そのため1998年の改正水道法施行までは、各自治体の条例によって指定を受けた水道工事店しか給排水設備工事をすることができませんでした。

条例で定められた指定工事店の要件は自治体によって異なっており、実際に工事をする水道工事技術者の資格もまちまちでした。

また各自治体は水道工事店を指定するだけでなく、工法や使用部材なども細かく指定しており、他の自治体との統一性はありませんでした。

そのため多くの自治体の指定を取得して広域で営業を行う事業者はほとんどなく、大手に限らず住宅メーカーはどこでも地場の事業者に頼まざるを得ないという状況だったのです。

それに加えて図面も、自治体(上・下水道局)に工事許可を受けるために最低限必要な図面だけを手描きしていた程度で、建築確認申請には設備工事の詳細な設計図が不要だったことから、実際は現場合わせで工事が行われることが多く、水道工事店がハウスメーカーや工務店に提出する見積もりも、いわゆる「どんぶり」の大雑把な金額の見積もりでした。

 

このような給排水設備工事の現状に直面して、大企業の設計部門を経験していた岩崎さんには様々な課題が見えたようです。

一つは給排水設備事業の地域性。
指定工事店制度が一種の参入障壁となって水道工事店はそれなりの経営はできるものの、大きな事業に発展させるのは困難だという課題。

もう一つは非効率性。
いちいち手描きする図面では図面作成自体に時間がかかり、工事前の事務作業に大きな時間が取られていたという課題です。

さらには「どんぶり勘定の商売」も「続くはずがない」と思っていたそうです。

 

こういった課題に対し、岩崎さんは当時まだ水道工事業ではほとんど導入されていなかったCAD(キャド。computer-aided design、computer-assisted drafting)をいち早く導入し、自社の図面作成を効率的に行うようにしました。

さらには、水道設備工事の発注元であった大手住宅メーカーを通じて、他の自治体の水道設備工事案件の図面作成も受注するようになります。

もちろん、その自治体の条例に適合する部材、工法できめ細かく図面作成していきました。

水道設備工事は自治体の指定取得が必要ですが、図面作成に限ればその必要はなく、全国から受注することが可能でした。

そうして岩崎さんは水道設備工事の図面データを蓄積するとともに、現場作業の経験を元に効率化ノウハウを蓄積していきます。これがエプコ飛躍の源になっていきます。

 

飛躍の鍵は、岩崎さんが、CADを導入することでそれまでの「手描きの図面作成」作業を単にコンピュータで描くようにしただけでなく、CADによる「設計」作業にまで高めたことにあります。

エプコがCADを使ってキチンとした「設計」をすることで、案件ごとに細かく必要部材を算出することができるようになり、部材発注の無駄が省かれました。

また最適な作業手順による工数が算出されるので、無駄な作業が減り、安定した作業が最短の日数でできるようになりました。

さらには当時の時代背景もエプコに味方しました。

有限会社エプコを創業した1990年は、いわゆる「バブル経済」のピークで、その後のバブル経済崩壊の波は住宅メーカーにも押し寄せました。

住宅メーカーからの値下げ要求は給排水設備工事に対しても強くなり、そのためのコストカットのアイディアが注目されるようになりました。

 

さらには1998年の改正水道法施行で指定工事店の要件が、条例でなく水道法で規定されることになったのです。
また国家資格の給水装置工事主任技術者制度も創設され、全国統一されました。

これにより規制緩和が起こり、力のある事業者が広域に事業展開できるようになりました。

これを機にエプコは、大手住宅メーカーから、工数や部材コストを下げる設備設計コンサルティングを本格的に受注するようになり、大きく業績を伸ばしていったのです。

エプコは創業から2年後の1992年6月に改組して現在の「株式会社エプコ」となり、さらにその10年後の2002年7月には株式の店頭登録を果たします。

さらには2004年には中国・深圳に設計作業を行う現地法人を設立するとともに、店頭登録を取消し、ジャスダック市場に上場します。

その後も、国内では設備機器大手のパナソニック【6752】と2009年に、LIXIL(LIXILグループ【5938】の連結子会社)とは2011年に資本業務提携を結び、さらに「TEPCOホームテック株式会社」を東京電力エナジーパートナーと合弁で設立(2017年)した他、海外では中国・吉林省にも現地法人を設立(2016年)しています。

そして2019年3月には東証2部に、さらに同じ2019年8月23日に1部に市場変更となり、現在に至っています。

 

 

2. エプコの事業その1、設計コンサルティング事業

それではエプコの事業を見ていきましょう。

エプコの売上高は38億99百万円、営業利益5億78百万円、当期純利益2億89百万円(いずれも2018年12月決算。以下同じ)です。
セグメントは設計コンサルティング事業、カスタマーサポート事業、スマートエネルギー事業の3セグメント*です。

 

*注:2019年12月決算より、それぞれのセグメント名は「設計サービス事業」「メンテナンスサポート事業」「システム開発事業」に変更されています。なお集計方法には変更はありません。

 

このうち、設計コンサルティング事業の売上高は24億57百万円、セグメント利益は7億30百万円です。

設計コンサルティング事業の顧客は、大手の住宅メーカーです。EPCO design.jpg (113 KB)

住宅展示場にモデルハウスを出しているような会社だと思っていただければといいと思います。

大手の住宅メーカーは、言い換えれば「注文住宅」のメーカーと言えます。

大手メーカーの扱う注文住宅は、建物の大枠は決まっていても、施主(住宅の注文主)の要望や土地形状等によって部屋の間取りや給排水設備の種類・数などを変えられるので、それに応じた設計図や積算が必要になります。

 

エプコでは、設備設計・工事積算と各種部材情報の提供を行うだけでなく、施工や維持管理が容易な部材と工法を部材メーカーと共同開発し、住宅メーカーに提案しています。

エプコの設計によって指定された部材は、設備工事の日程に合わせて必要数だけJust in Timeで現場に届けられるようにしてあり、物流コストの低減にもつながっています。

また現場の工事者向けの施工マニュアルも提供しており、部材もそれぞれの現場に合わせてサイズ等が加工されていますので、過不足無くキッチリと作業できるようにしてあります。

これによって工事品質が安定するとともに工期短縮となり、結果として給排水設備工事コストの低減が図られます。

 

給排水設備設計だけでなく電気設備設計も行います。
電気設備設計では住宅やアパートなどの電気設備設計はもちろんのこと、太陽光発電や家庭内エネルギー節約システムのHEMS(Home Energy Management System)の設計を行っています。

最近では給排水設備設計や電気設備設計に限らず顧客の要望で意匠設計(外観や間取りなど、目に見える部分のデザイン)も受託しています。

建築業界の人手不足もあり、これら受託する設計業務の種類は拡大する傾向にあります。

 

 

3.エプコの事業その2 カスタマーサポート事業

カスタマーサポート事業の売上高は11億14百万円、セグメント利益は2億64百万円です。

大手メーカーは、住宅を引き渡したあとも施主を手厚くフォローし、将来のリフォームや建て替えに備えます。
そのため、建具の不具合や住宅設備の故障などへの適切な対応は重要です。

エプコでは、施主からの不具合やメンテナンス依頼の連絡を24時間受け付けるコールセンター業務を、大手住宅メーカー各社からBPOとして受託しています。

「お湯が出ない」「床が傷ついた」「台風で家の一部が壊れた」など、さまざまな相談がエプコのコールセンターに寄せられます。その数、年間約55万件。

住宅メーカーから受託している管理世帯は約110万世帯ですので、毎年その半分の世帯からメンテナンスコールがあることになります。

 

エプコが受託するコールセンター業務は住宅メンテナンスに特化しており、全管理世帯の図面データを預かって、コールセンターのオペレータはその図面データを参照しながら、適切な対応ができるようにしています。EPCO jisseki.jpg (98 KB)

そのため、オペレータは建築図面を読み取れる能力が求められます。

エプコではメンテナンスコールの内容をデータベース化し、コール率の高い不具合や設備機器別の故障率を住宅メーカーに報告するほか、個別世帯のメンテナンス履歴から、住宅メーカーが施主にリフォーム提案や省エネ化工事提案ができるよう、積極的に資料を提出しています。

 

このカスタマーサポート事業は、コール数×単価による売上なので、管理世帯が増えるほど売上の増加余地が大きくなります。

エプコの設計コンサルティング事業は、毎年10万戸もの新築住宅の設備設計をしており、その設計した住宅のコールセンター業務も受託するので、今後も管理世帯のストックは増加し、売上が着実に伸びていくと思われます。

 

 

4. エプコの事業その3 スマートエネルギー事業

スマートエネルギー事業の売上高は3億27百万円、セグメント利益は▲66百万円です。

スマートエネルギー事業では、太陽光パネルメーカーから、太陽光パネルの設置から経済シミュレーションまで手掛けるシステムの開発業務を受託しています。

また2016年の自由化で、多くの電力小売事業者が誕生しましたが、そういった事業者に向けて需給・顧客管理システムである「ENESAP」を提供しています。

電力小売事業者が自社でシステムを保有するオンプレミス型に比べ、クラウド型のENESAPは価格面で手頃なため、導入社数を増やしています。

 

 

5.営業外損益に注目。合弁事業の持分法投資損益

エプコの経営を見る上では、いわゆる本業の利益を表す「営業利益」だけでなく、営業外損益も合わせた「経常利益」をよく見る必要があります。

注目すべきは損益計算書の「営業外費用」の項目にある「持分法による投資損失 1億9百万円」です。

これは何かと言えば、2017年8月に東京電力エナジーパートナー株式会社(東京電力ホールディングス【9501】の100%子会社で、電力・ガスの小売事業者。以下「東京電力EP」)が51%、エプコが49%の持分で設立した「TEPCOホームテック株式会社」の最終損益の持株割合分です。

TEPCO HT.jpg (129 KB)

このTEPCOホームテックは、一般家庭に向けて省エネ機器の提案、施工、アフターフォローをする会社です。

営業対象は、東京電力EPの顧客約2000万軒という膨大な数の住宅数がベースにあり、さらに電力自由化で関東に限らず全国の住宅に提案できるという、巨大な潜在マーケットを対象とした事業です。

事業の特長としては、国が進めているZEH(ゼロエネルギーハウス)や省エネ住宅新築、既存住宅の省エネ化工事などで、施主が省エネ機器やソーラーパネルなどの電力自給設備を所有するのではなく、TEPCOホームテックが設備を所有・管理して、施主は利用料を支払う、というモデルです(商品名「エネカリ」)。

これにより、施主にとっては大きな初期費用負担がなくなります。

またTEPCOホームテックにとっても住宅設備の事業でありながら、基本的には「契約数の累計増加=毎月の売上高増加」となるストック型事業となっています。

2021年度末までに累計13万件、2021年度売上にして500億円を目指しており、順調に契約数を伸ばしています。

 

TEPCOホームテックの決算は、51%所有の東京電力EPと連結されますが、TEPCOホームテックの当期純利益(純損失)の49%が、エプコの営業外損益に反映されます。

これが「分法による投資利益・損失」となるわけです。

先に記したように、2018年度は1億9百万円の損失でしたが、2019年度には黒字化する計画で、その後の毎期の利益の伸びが期待されています。

TEPCOホームテックの社長は岩崎さんが務めており、エプコにとっては営業外であっても、本業と思って取り組んでいる、ということでした。

 

 

6. CADからBIMへ、中国から日本に逆輸入

祖業であり、現在のメイン事業である設計コンサルティング事業は、工期の関係もありスピーディーな対応が必要です。

そのために沖縄のCADセンターでは、約150人のCADオペレータが働いています。

さらに、中国・深圳と吉林の現地法人で中国人オペレータが300人規模で設備図面の作成に当たり、顧客要望に応える体制を取っています。

 

もちろんエプコは中国国内での設計サービス受託にも取り組んでいます。

キーワードは「工業化住宅」と「BIM」です。

中国は日本と違い、ほとんどの住宅がマンションなどの共同住宅であり、戸建住宅はほとんどありません。

それらの共同住宅の建設は、長らく現場主導で行われてきましたが、品質面や施工面、コスト面に優れた「工業化住宅」を中国政府はすすめています。

「工業化住宅」とは部材生産の規格化、工場生産化と現場施工の機械化、そして住宅建設の科学的な計画・管理を行う建設方式です。

この工業化住宅の政策に沿う形で、中国建材販売、樹脂パイプ大手の中国聯塑集団(チャイナ・レッソ・グループ。香港市場上場)と設立した広州の合弁会社で、設計サービスとメンテナンスサービスの中国での普及活動を行っています。

 

一方の「BIM」(Building Information Modeling)は、ビル建物の設計から施工、維持管EPCO Bim.jpg (139 KB)理までをトータルに行えるようにするソフトウエアで、立体構造(3次元)でのデータを保持し、構造・意匠・設備の設計や仕上げ情報、コスト、そして竣工後のメンテナンスに至るまで、全てのビル建物に関する情報を一括管理できます。

日本ではまだスーパーゼネコンが超高層ビルの設計施工管理に使っている程度で、一般のビルや商業施設の設計にはまだ普及していません。

一方中国では、政府がとても強力に「BIM」を推進しており、工業化住宅の流れの中で、CADを通り越して一気にBIMによるビル・マンションの設計施工が進んでいます。

エプコでは住宅設備設計業務を吉林に集約する一方、深圳にBIMセンターを整備し、CADオペレータ150人をBIMのオペレータへと養成し、中国国内でのBIM受託を積極的に行っています。

中国で多くの実績とノウハウを蓄積し、今後日本でマンションや商業施設などの中・低層建物にもBIMが普及するときに、ビジネスチャンスをつかもうとしています。

この場合、顧客は住宅メーカーだけでなく、マンションデベロッパーからの受託も想定されており、エプコ顧客層の拡大が期待されます。

日本と中国という、2つの住宅事情の違いを、上手く設計受託サービスという事業の成長に活かす戦略となっています。

 

 

インタビュー後記

現場の不合理を感じ、それを設計で解決し、世の中を変えてきたエプコ。

会社のEPCOの意味も、当初は「Equipment Plan Company」でした。

その後事業は建物の水や電気などエネルギーへの関わりが多くなり、さらにその方向を発展させたいという思いから

「Energy Plan Company」の意としました。

住宅省エネ事業やBIM受託サービスといった、将来の大きなマーケットにも、着実に布石を打っているエプコ。

より良い社会実現を目指して、これからも新たな変化の創造をし続けてもらいたいと思います。

以上

 

 

※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。
当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。
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