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リンクアンドモチベーション(2170) モチベーションエンジニアリングで、顧客企業も自社グループ企業も活性化


今回は、リンクアンドモチベーション(2170)を訪問して来ました。

本社は東京都中央区銀座6丁目、今、話題のビル、GINZA SIXの12階にあります。LandM_officeImg01.jpg (97 KB)

GINZA SIXは地下2階から6階が商業フロア、7階から12階がオフィスフロア(13階はレストランと屋上庭園で、一部オフィス有り)になっています。

2017年4月のGINZA SIXオープンと同時に、このオフィスフロアの12階にリンクアンドモチベーションは本社を移転し、グループ企業とともに入居しました。

お話を伺った真新しい応接室からは、眼下に銀座通りが見下ろせて、まるで企業ドラマの舞台のようでした(実際に、撮影に使わせてくれないか、という問い合わせがあったそうです)。

1.2000年創業。リクルートからスピンアウト

リンクアンドモチベーションは、現会長の小笹芳央(おざさ よしひさ)さんによって、2000年3月に設立されました。それまで所属していた株式会社リクルートで、組織人事関係のコンサルティング部署を統括していた小笹さんは、企業経営には社員のモチベーションが大変重要であると考え、部下であり同じ考えを持っていた坂下英樹さん(現社長)ら6名とともにリクルートからスピンアウトする形でリンクアンドモチベーションを銀座に立ち上げました。

本題からは少し離れますが、会社設立にあたって創業の地を、日本で最も地代家賃の高い銀座を選ぶところがリンクアンドモチベーション(選んだのは代表者の小笹さん)らしいところかと思います。「売上が増えてきたら徐々に」というようなコツコツ型ではなく、「大きな会社にするために」あえて最初から銀座を選ぶ。大きな目標を掲げ、周辺をどんどん既成事実化して目標達成を遂げてしまう、そんな大胆なやり方で事業を展開した結果、2007年には東証2部に、さらに1年後の2008年には東証1部上場となりました。創業8年で東証1部上場を果たした、というこのスピードが、本業である「人材・組織コンサルティング」の効果を身をもって示している、そんな社歴ですね。

2.コアコンピタンスは「モチベーションエンジニアリング」

事業の中心は、採用を含めた人材・組織コンサルティングです。その中心には「モチベーションエンジニアリング」と名付けられた技術がありますが、まずはそこから見ていきましょう。

皆さんもご存じのように経営の3要素は「ヒト、モノ、カネ」です。

「カネ」で土地や設備などの「モノ」を用意し、「ヒト」を採用する。「ヒト」は「モノ」を使って付加価値、すなわちキャッシュという「カネ」を生み出していく。経営とはこのサイクルの繰り返しですね。

その時に、より多くの「カネ」生み出すようにするために外部コンサルタントの力を借りることは良くあります。リンクアンドモチベーションは「ヒト」に関して、よりキャッシュを生み出せるよう、企業をコンサルティングという形で支援します。

「ヒト」についてのコンサルティングは、研修で動機付けをしても、一時的で長続きしなかったり、風土改革策を実施しても肝心の業績への効果が薄かったり、ということがしばしばあります。

リンクアンドモチベーションはこのコンサルティングに関し、業績向上効果のある組織変革に繋がる「実効性」を保証するとともに、一定条件ならいつでも効果を出せる「再現性」のある方法を確立して、同社独自の技術としたのが「モチベーションエンジニアリング」です。

モチベーションエンジニアリングは従業員のモチベーションの現状を診断する「診断技術」と、その結果から人事制度や教育、採用、そして風土を変えていく「変革技術」から構成されています。

診断技術の1つとして「マゼランサーベイ」と名付けられた商品があります。従業員に132の質問項目に答えてもらうことで偏差値(スコア)化され、モチベーション状況が期待度と満足度を軸とした4つの領域にプロットされます。

そのプロット状況から適切な「変革技術」が選択され、実行されます。変革方法の例としては、人事・評価制度改革、採用方針・方法変革、風土改革施策その他、「ヒト」に関して顧客企業それぞれに適切な変革プログラムが組まれ、実行されていきます。

さらには変革プログラム実行後に再びマゼランサーベイを行い、スコアの変化(改善)を確認します。

このスコアのことを「エンゲージメントスコア」(ES)と呼んでおり、企業と従業員の相互理解・相思相愛度合いがどのレベルにあるのかが可視化されます。なお、このESが高いほど、営業利益率が改善するというデータもあり、業績との相関がある指標と言えそうです。

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そしてリンクアンドモチベーションでは、顧客企業の「ESの推移」を定点観測することで、変革プログラムの「実効性」を確認しています。

この一連のプロセスが他の顧客企業で実施されても、同様の効果を発揮出来ることを確認し、「再現性」を保証できているので「エンジニアリング」呼べるのだ、ということでした。

この「モチベーションエンジニアリング」は、ベースとなる人間観、組織観があります。

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一つ目の人間観では、人間は「完全合理的ではなく、限定合理的な『感情人』である」としています(これは、投資行動でもよく言われることですね)。つまり金銭報酬だけで十分にモチベーションが高く保てるのではなく、それに加えてやり甲斐などの「意味報酬」が必要という考えです。

また、組織は「要素還元できない『協働システム』である」と見ています。これは、組織の問題は、それを構成する「一人ひとり」に原因を求めるものではなく、ヒトとヒトの「間のコミュニケーション」で問題が生じる、という考えです。

それらの人間観・組織観の上に「モチベーションエンジニアリング」があるということでした。

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3.事業は、3つのディビジョン+αのセグメントで構成

決算資料によると、リンクアンドモチベーションの事業構造は「組織開発Div」(Div=ディビジョン。以下同じ)「個人開発Div」「マッチングDiv」の3つの主要セグメントと「ベンチャー・インキュベーション」で構成されています。

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組織開発Divは、企業を顧客として、コア事業である「コンサル・アウトソース事業」と、周年行事や株主総会などの各種イベントやパンフレットやWebページ制作などを請け負う「イベント・メディア事業」があり、2017年12月期の売上実績は10,936百万円です。

個人開発Divは、パソコンスクールのアビバや資格スクールのDAIEI、ロゼッタストーンブランドの外国語スクールなどの運営事業を行う「キャリアスクール事業」、「学習塾事業」で7,160百万円の売上を上げています。

またマッチングDivは「人材紹介・派遣事業」と、日本全国の公立学校へ外国語指導講師を派遣する「ALT配置事業」で構成されています。(ALTとは、Assistant Language Teacherの略)マッチングDivの売上実績は18,762百万円で、その内ALT配置事業で11,056百万円の売上を上げています。

さらにプラスアルファとして、「ベンチャー・インキュベーション事業」も行っています。これはベンチャー企業を「組織と資金」の両面からサポートしようというもので、選定基準は「モチベーションカンパニー創りへの共感」「上場を目指す」の2点となっています。今までに20社以上に出資し、そのうちアカツキ(3932)(2016年3月上場)、イノベーション(3970)(2016年12月上場)、ラクスル(4384)(2018年5月上場)などが上場を果たしています。

リンクアンドモチベーションは一見、組織・人事に関わるコンサルティング会社で、フロービジネスの会社かと思っていましたが、「コンサル・アウトソース事業」において、最近は「モチベーションクラウド」というサービスが売上を伸ばしています。これは、従業員のESを定期的にインターネット上で集計・診断し、組織改善を促進する月額従量課金のクラウドサービスで、利用企業が定期的にESを把握出来るようになっています。

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モチベーションクラウドを含む「会員・データベースサービス」は2017年12月期で1,187百万円を売り上げており、前年比160%の伸びを示しています。

こうして事業を俯瞰すると、モチベーションクラウドやALT配置事業のようなストックビジネスの売上規模も大きく、さらに将来に渡って顧客となり得るベンチャー企業への出資をしているということで、偏りのない事業構成です。

以前はフロービジネス中心だったようですが、企業の教育訓練費は不況時に削減されやすく、景気循環型でもありますので、リーマンショック時の落ち込みの教訓を生かしてM&Aを積極的活用し、グループ企業のストックビジネスも増やしてきたとのことでした。

4.M&Aした会社を「モチベーションエンジニアリング」により活性化

リンクアンドモチベーションは、パソコンスクールのアビバや資格スクールのDAIEI(旧 大栄教育システム)、ALT配置事業など、多くの事業をM&Aにより取得しています。リンクアンドモチベーションは、他社をM&Aし、組織を「モチベーションエンジニアリング」により活性化することで、収益力を高めることができます。
リンクアンドモチベーションが、急成長してきた理由はここにあります。

ただ、財務を見ると、これらのM&A、ベンチャー企業への出資などにより、流動比率(62.6%)や自己資本比率(26.0%)が高いとは言えない状態にあります(2017年12月期)。また、M&Aによってのれんは67億円計上されており、この金額は資本合計67億円とちょうど同水準となっています(2017年12月期)。
これについては「当社は銀行の信用度が高く、キャッシュマネジメントシステムが導入できているので、キャッシュ不足の際は、自動的に銀行から借り入れがされるようになっていて、運転資金として、キャッシュがショートすることはありません。現在はキャッシュを貯めるより、積極的な投資の時期と考えているので、M&Aやインキュベーションに積極的に投資しています」とのことでした。

5.競合、海外事業について

リンクアンドモチベーションの競合企業は、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(非上場)をはじめ、ベンチャー含めてHRーtech(ヒューマンリソース+テクノロジー)のコンサルティングの市場では競合が多数存在しますし、派遣事業しかり、スクール事業しかりで、それぞれの分野で競合はいますが、事業トータルで見て「モチベーションを切り口に、人材・組織を診断・変革によって活性化させる、という観点では、当社はオンリーワンのプレーヤーです」との事でした。

海外での事業展開については、グローバルに展開する日本企業の現地法人支援という事業はあるが、現在では本格的には着手できていない、ということでした。一方採用についてはALT配置事業の講師約3,000人のうち、約1,000人が毎年入れ替わるので補充の必要もあり、積極的に海外現地に出かけて採用を行うということでした。国内にはまだALTがいない学校も多く、今後さらに海外に出向いての採用は増えるだろうとのことでした。

既に、売上的には大きな30%以上を占めるALT配置事業ですが、さらなる伸長が期待できそうです。

インタビュー後記

銀座のオフィスは、グループ企業を含め、約700人が「フリーアドレス制」(座席が固定されておらず、空いている席で仕事をする)であり、外国人の姿も多く見られ、まさに「未来の職場」のように見えました。

事業のところでも述べたように、リンクアンドモチベーションは、コンサルティング会社のイメージでしたが、実際はALT配置事業や派遣事業の規模も大きく、事業基盤は安定しているように思いました。

このようなイメージは、コンサルティング事業や採用事業の広報・ブランド戦略の影響も大きいかと思います。個人投資家に対しては、企業の全体像が伝わるようなIRによって、投資先として魅力がより伝わりやすくなると思いました。

また、長期投資先として財務面が気になるのは確かです。非常に勢いのある会社なので、積極投資も理解できますし、利益を伴った事業拡大が続いています。この先、成長スピードを緩めるか、保有する自己株式を売却して自己資本の充実を図るか、により財務基盤を強化する必要があるかもしれません。長期的にはさらに事業を拡大し、他社で十分に活躍できていない人材を活性化して、ひいては日本全体が活性化していくことを応援したいと思います。

以上

 

※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。

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