ベステラ【1433】プラント解体エンジニアリングを追求する
今回は、プラント解体専業のベステラ【1433】のIR部門を訪問してきました。
ベステラの本社は、東京都江東区平野3-2-6 木場パークビルです。
このビルには2018年8月に移転してきたばかりです。
それまではJR総武線錦糸町駅近くの自社所有ビルが本社でしたが、今後の事業拡大に柔軟に対応するオフィス環境を構築するため、その自社ビルを売却し、賃貸オフィスビルである木場パークビルに移転しました。
「木場パーク」の名前が示すとおり、三ツ目通りを挟んだ向かい側には「都立木場公園」があります。木場公園は敷地面積24.3ha(約72,000坪)の広大な総合公園で、住宅が密集する東京の下町において、豊富な緑を提供してくれています。
ベステラ本社の最寄り駅としては、地下鉄東西線木場駅からは徒歩10分、半蔵門線・大江戸線の清澄白河駅から徒歩12分。
駅からは多少歩きますが、東京駅から直線距離でたった3.5kmの場所にあり、東京湾沿岸にプラントが多数存在する京浜・京葉の両工業地帯へもアクセスが容易という、そんな立地に本社はあります。
1.会社設立から40年後のIPO
ベステラは、代表取締役社長の吉野佳秀さんが、名古屋で父親が創業した解体工事と金属回収の事業を1964年に引き継いだのがルーツです。
吉野さんはこの事業を行う中で、品質の良い鉄が回収できる(しかし技術的には難易度の高い)プラント解体に次第にシフトしていきます。
(肩書は取材時)
そして、1974年2月にプラント解体事業を主目的としたベステラ株式会社を、資本金3000万円で名古屋市中区に設立します。吉野社長が33歳の時でした。
社名は最上級を表す「BEST」と、ラテン語で地球や大地を意味する「TERRA」を組み合わせて「BESTERRA」と決めました。今から半世紀近くも前に、ベストな地球への思いを込めた社名を付けたのですね。
株式会社としてスタートしたベステラですが、その後の経営はかなり厳しかったようです。
会社設立の1974年は戦後の高度成長が終わり、第1次オイルショックで景気が急降下した年です。
その後、経営不振を打開するために1981年に大きなマーケット求めて関東に進出し、本社を千葉県に移転します。しかしこの時期は第2次オイルショックの頃。売上は低迷し、給料の遅配などもあったようです。そのような状況をしのぎながら、数名の社員と共にプラント解体のノウハウを蓄積していきました。
苦しい経営を続けて来た吉野社長でしたが、1990年代に入って豊洲の再開発で取り壊されるガス工場のボイラー解体を請け負うことができました。
ガス工場にはボイラーの他に、巨大な丸いガスタンク(球形ガスホルダー)が多数あり、吉野社長はタンクを眺めながら「(ガスタンクの)解体を受注できないかなあ」と思っていたそうです。
来る日も来る日も受注のための方法を考え続けたある日、ガスタンク解体に足場やクレーンが不要な「リンゴ皮むき工法」の原案がひらめいたそうです。
それまでガスタンクの解体は、周囲にくまなく足場を組んで、鉄板を切断(溶断)し、一枚ずつクレーンで吊って撤去する方法が採られていたので、周囲に大きなスペースの確保と、足場の設置~ガスタンク解体~足場撤去という長い工期が必要でした。また、鉄板の溶接部分に沿って1枚1枚切断していたため、鉄板の跳ね返りが起こることがあり、危険な作業でした。
これに対して、リンゴ皮むき工法は、タンクの下部に穴を空けたあと、高所作業車でタンク頭頂部から皮をむくようにらせん状に切断していきます。切断部分はタンク内部に重力で垂れ下がって行くため、足場の設置も鉄板をクレーンで吊り上げる必要もなく、短い工期で安全に、かつ低コストで作業ができるようになりました。
この方法は「大型貯槽の切断解体方法」として、1994年に日米で特許出願*されました。
これを機に「リンゴ皮むき工法」として発表し、新聞などに取り上げられたところ、ガス会社の本社部門から「詳しく聞きたい」との連絡がありました。
プラント解体は、通常プラント所有企業の関連会社の工事部門から発注されますが、この時はガス会社本社から直接の呼び出しです。すぐ駆けつけて説明したところ「発注するから、他には行かないでくれ!」となったそうです。
この経験から「優れた技術、工法があれば受注できる」と確信した吉野社長は、プラント解体技術の開発に注力し、多くの特許を出願、取得するようになり、思惑通り受注も伸ばして行きました。
この結果、会社設立から41年目の2015年に東証マザーズに上場を果たし、2017年には東証1部に指定替えとなって現在に至っています。
(*特許出願後、審査請求したのは2001年で、特許登録・権利取得は2004年です)
2.ベステラの事業
ベステラの事業を見ていきましょう。
2018年1月期決算の有価証券報告書によると、プラント解体の単一セグメントで、売上高44億96百万円、営業利益は3億86百万円、営業利益率は8.6%です。
ベステラの顧客は、電力・ガス・製鉄・石油・石油化学などの、日本のインフラを支える巨大企業です。
こういった企業の所有するプラント施設のうち、ベステラは金属を中心とした構築物の解体に特化しています。
解体というと、事業の一つとして手がける建設会社などは多く存在しますが、「解体専業」を謳っている上場企業はベステラと田中建設工業【1450】くらいです。
この2社のうちでも、田中建設工業はコンクリート建物の解体を中心としているので、ベステラとは直接競合しないということでした。
ベステラは、先述のガスタンク以外にも、石油備蓄用の円筒形タンク、製鉄所の古くなった高炉や関連設備、電力会社の発電所や変電所設備など、様々な大型構築物の解体を手がけています。
面白いのはその事業モデルです。「解体専業」とは言うものの、解体作業自体は外部委託しています。
つまり、解体設計と現場監督・施工管理を受託するという「解体エンジニアリング」事業なのです。
解体作業自体は外部委託なので、作業員の確保や労務管理の負担が少なく、また工事用重機という固定資産を保有する必要もありません。
これは、吉野社長が長年味わった経営の苦労により、ファブレスでの経営スタイルを指向しているからです。
作業人材や固定資産を持たない以上、エンジニアリング会社として解体方法の開発は必須であり、より良い解体技術の追求は欠かせません。
そのため知的財産(産業財産権)の確保にも積極的で、リンゴ皮むき工法以外にも多くの特許出願があります。
取得済み特許の一例として、
「塔状構築物の解体工法および装置(2005年9月9日登録 特許第3718296号)」
「ボイラの解体方法(2007年9月7日登録 特許第4009307号)」
「ゴライアスクレーンの解体方法(2013年3月22日登録 特許第5227210号)」
「三次元画像表示システム、三次元画像表示装置、三次元画像表示方法及びプラント設備の三次元画像表示システム(2018年12月14日登録 特許第6449180号)」
などがあり、出願済または登録済特許は、全部で24件にもなります(2018年12月末現在)。
これら知的財産にとどまらず、現場の技術開発は活発で、新しい試みが多く行われています。その一つが自社開発の解体ロボット「りんご☆スター」です。
これは、ガス切断の機能を持ったロボットがネオジム磁石付の車輪でガスタンクに吸着して、移動しながら螺旋状に溶断していく遠隔操作ロボットです。
この「りんご☆スター」の登場により、リンゴ皮むき工法はさらに進化し、高所でガス切断作業をする人員と高所作業車が不要になりました。
現在、ベステラが注力している事業に「3D計測サービス」があります。
プラントの解体が高難度である理由の一つに、現状を示す図面やデータが揃わないことが多い、ということが挙げられます。
これは設計から概ね40年以上が経過し、その間に設備の変更や増強が行われ、竣工時の図面と現状が大きく異なっていることが多いからです。
それどころか設計図面そのものが見つからない、ということもしょっちゅうです。
また、稼働しているプラントの中で、一部の設備だけ解体・撤去という案件も多く、解体用重機の搬入や解体物の搬出などで、既存設備への損傷は絶対に避けなければなりません。
3D計測により対象プラント・設備の立体的なデータを把握し、搬入搬出や重機操作のシミュレーションを行うことで、事前に手順や安全を確認できるのです。
企業再編が進む製鉄業界において、巨大で複雑な高炉などの解体は、1案件だけでも数億円~数十億円規模の仕事になります。そのような案件において、3D計測データをベースにした工法・工事計画提案による巨額の受注が期待されています。
3D計測による立体的なデータは、解体の場面に限らず、顧客にとって日々の設備メンテナンスにも重宝します。設備に詳しかったベテラン社員が高齢化で減少していく中で、ますます需要は高まっています。
このようなニーズに応えるため、3D計測にとどまらず、3Dモデリングやデータ活用によるプレゼンデータ作成の請負、さらには3D CADオペレータ等の人材派遣事業も行っています。
人材不足の中で、特にニッチな解体施工管理技術者の派遣なども含め、ベステラでは解体事業、3D計測事業とシナジーのある人材サービス事業の拡充にも注力しています。
こういった事業構成およびM&Aの推進で、2021年1月期決算では売上64億円、営業利益5億24百万円、ROE12%以上を目指しています(「中期経営計画2020」)。
3.プラント解体マーケットの今後は?
日本は戦後、第2次産業の興隆で高度経済成長を成し遂げましたが、その後産業の中心はサービス業や情報産業などの第3次産業へと移行しています。
第2次産業の象徴のような巨大プラント施設も、ベステラがどんどん解体したら、国内では解体するものが無くなる、ということはないのでしょうか?
一般的にプラント設備の寿命は50年前後。ベステラがまとめた資料によると、過去の建設投資データから「今後30年間で建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に増加する」としています。
また政策面ではパリ協定や日本の第5次エネルギー基本計画の中で、CO2削減、エネルギーの脱炭素化方針などにより、従来の石炭石油プラントから安全でより環境に適合した効率的なエネルギープラントへの移行を後押ししています。
こうしたことを背景に、プラントを所有する大企業は、業界再編や企業独自の効率化方針などを推進するため、解体・設備更新の需要は増加すると、ベステラでは見ています。
ベステラの海外への取り組みについては、まだまだこれから、というのが実情です。
もちろん解体エンジニアリング会社として、主要国に解体工法の特許は出願していますが、海外では日本ほど解体の品質要求が高くなく、また広い敷地で爆破による解体などの方法が採られるため、現在は積極的な営業をしていません。
ただし、世界で毎年約20%の伸びを見せている風力発電については、現在世界で発電用陸上風車が約34万基、洋上風車が約4千基存在しており、またその耐用年数が15年~20年と短いため、今後の解体需要増を見込んでいます。
そのため風車解体に足場が不要な独自工法の国際特許も出願済みであり、海外での受注も期待されます。
4.業務提携による事業の拡大
2018年は2つの大きな業務提携契約がありました。
一つは7月の株式会社日立プラントコンストラクションと、もう一つは9月の第一カッター興業【1716】との業務提携です。
日立プラントコンストラクションは、日立グループにあって原子力発電プラントの建設、保全、解体で多くの実績を持っています。
日本には60基の原子炉があり、そのうち24基はすでに廃炉が決定しています。日本の課題でもあるこれら原子炉の速やかで安全な解体撤去のため、両社の原子力発電に関する専門知識とプラント解体の豊富な実績が合わさって、廃炉が進むものと思われます。
第一カッター興業は、橋梁や道路、ビルなどの社会インフラについて、切断・穿孔が必要な維持補修や解体工事で独自の技術(ダイヤモンド工法、ウォータージェット工法等)を持ち、その施工技術者も抱える企業です。
両社が手を組むことで、金属構築物・コンクリート構築物が混在する大型案件や高難易度案件の解体も手がけることができるようになりました。
また、ベステラ受注案件における第一カッター興業の施工技術者の登用など、施工面での効率化も期待されています。
ベステラではこの他にも、良い案件があれば積極的に資本提携も含めたM&Aを行う方針です。
解体市場の拡大というオーガニックな成長と、M&Aシナジーによる周辺事業への拡大を目指すベステラ。将来は「世界のプラント解体技術提案者」になるという長期ビジョンに向けて進んでいます。
インタビュー後記
建設会社が解体も手がけているように、今まで「解体専門技術」というのはあまり重視されてきませんでした。
そこに「解体エンジニアリング」市場を創造したのが、ベステラです。
経営の苦労、現場の苦労は相当なものがあったかと思いますが、今日に至ったのは「考え続ける」という姿勢があったからではないでしょうか。
ベステラには今後も現場で考え続けて、新しい世界を作っていって欲しいと思います。
以上
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