日本アクア【1429】地球環境に優しい材料で断熱・省エネ、ヒートショックから人を守る
今回は、本年(2018年)3月1日に、東証マザーズから東証1部に指定替えになったばかりの日本アクア【1429】を訪問しました。
日本アクアの本社は、東京都港区港南2-16-2 太陽生命品川ビルです。
JR品川駅の港南口を出て、右へ続くペディストリアンデッキを歩くと太陽生命品川ビルの入り口があります。エレベーターで20階に上がり、日本アクアのエントランス入ると社名ロゴとともに「熱絶縁工事業」と太字で書かれた建設業の許可票が掲げられています。
1.ビル・マンション用の断熱工法を戸建住宅用に
日本アクアは、現代表取締役社長の中村文隆さんによって創業されました。中村文隆さんは住宅関連会社に勤めた後、株式会社イノアックコーポレーション(非上場。本社:愛知県名古屋市)に転職します。イノアックコーポレーションは、日本で初めてウレタンフォームを生産した高分子化学製品大手です。
ここで中村文隆さんは、断熱用硬質ウレタンフォームの営業担当となります。硬質ウレタンフォームは、ビルやマンション、病院、冷凍倉庫などの建設に際し、断熱材として現場発泡吹付という工事方法で施工されていました。
中村文隆さんは住宅の関連会社に在籍した経験があったので、ビルと違って戸建住宅(木造住宅)の壁や天井などの断熱には、グラスウールを中心とした繊維系断熱材が圧倒的に多く使われており(床断熱や外張断熱ではポリスチレンボードも多く使われる)、それらは気密性をキチンと確保する施工が行われないと、十分な断熱効果が得られないばかりか、結露しやすくなることでカビの発生などが起こることを知っていました。
これに対し硬質ウレタンフォームの現場発泡吹付では、繊維系断熱材で施工が難しいとされる筋交いがあるところでも気密性を確保した断熱施工が比較的容易にできることから、中村文隆さんは木造住宅への転用は事業性があると直感しました。
そこで中村文隆さんは、戸建住宅用のウレタンフォームの事業化を会社に提案しましたが、実現はしませんでした。というのもウレタンは自動車をはじめ、既に多くの用途で需要があり、加えてイノアックコーポレーションは原料メーカーであることから現場施工は行わない方針であること、および中部エリアから他のエリアに進出する意向はなかったというのが実情のようです。
しかし、中村文隆さんはその後も硬質ウレタンフォームの現場発泡吹付の事業化の夢をあきらめずに、断熱工事会社やウレタンの原料会社などを経て、ついに2004年11月に名古屋で日本アクアを創業しました。
創業翌年には東京営業所を開設し、その後も順次全国に営業所を開設していきました。こうした中で、2009年に関東が地盤の注文住宅メーカーである株式会社桧家住宅(現:ヒノキヤグループ【1413】)が日本アクアの株式を取得し、ヒノキヤグループの連結子会社となります。
ヒノキヤグループの一員となった後も、営業所を積極的に開設し、2012年には北海道から九州まで、全国に営業所網を完成させます。
そして2013年には東証マザーズに上場しました。IPOの目的は、信用力向上や人材獲得だけでなく、全国主要拠点の建設資金を調達する狙いもありました。営業拠点の建設は順次進められ、原材料の倉庫が備えられました。これは原料の一つであるイソシアネートが消防法の第4類危険物(引火性物質)であることから、消防法に適合した危険物庫に保管しなければなりません。この建設でアクアフォームと名付けた原材料を営業拠点で保管できるようになり、施工現場への供給がスムーズになりました。さらには事務環境が良くなるだけでなくシャワールームも設置されて、現場で働く従業員のためのリフレッシュ機能も向上するなどの効果を得ました。
そして、親会社のヒノキヤグループとともに、2018年3月に東証1部への市場変更に至っています。
2.主力の戸建住宅用断熱材は拡大余地大。ヒートショックから人を守る。
日本アクアの2017年12月期の売上は180億円。うち64%の115億円が「戸建住宅向け断熱材」の施工販売です。ビル・マンションや冷凍倉庫などの「建築物向け断熱材」施工販売が27億円(15%)、アクアフォーム等の原材料や吹付機械、断熱用副資材等の「商品販売」は37億円(21%)という内訳になっています。
主力の戸建住宅向け断熱材は、過去5年間、毎年6%~16%の伸びを見せており、順調に成長しています。
これは、施工実績が増えてこの断熱工法の優位性が知られるようになったことに加え、政府がZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス。省エネルギーと太陽光発電等でエネルギー量を概ねプラスマイナスゼロにしようとする家)を推進するするとともに、全新築建物に対する2020年の「改正省エネ基準」義務化という、国の政策の追風も背景にあります。
ところで住宅に関わる「省エネ基準」ですが、1979年に省エネ法制定によって断熱基準ができて以降、法改正で順次基準が厳しくなっています。しかし、経済産業省のパンフレットによれば現存する全国約5,000万戸の既築住宅のうち、現行基準を満たしているのはたった5%です。
過去の基準に適合しているものを合わせても全部で6割ほどです。残りの4割、約2,000万戸の住宅は「無断熱」状態で、冷房や暖房に非効率なエネルギーを使っているとのことです。
断熱性能の低い住宅では、冬場は部屋間の温度差が大きくなり、その温度差によりヒートショックを起こしたり、また夏場は熱中症を起こしたりと、人命に関わるリスクが高くなるといわれています。
厚労省の研究によると、入浴に関連してヒートショックで亡くなった方は、全国で年間約19,000人にもなるそうです(「入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究」H24年度)。一方、年間の交通事故死者数は4,000名を下回るようになりましたので、屋内の事故死の方が交通事故死より5倍近くリスクが高い状態といえます。
住宅関連産業は景気循環の影響を受けやすく、また国内の人口減少という観点からは市場の成長を期待しにくそうです。他方で、住環境改善という点から高断熱・高気密工事が施される割合は上昇しているため、戸建住宅向け断熱工事に対する需要は増加することが期待できます。
また新築住宅のみならず、既存住宅のリフォーム市場での拡大も期待できそうです。日本アクアでは、トラックではなく、狭いところにも入って行きやすいワンボックスにアクアフォームの原料や資機材を積み込んで移動できるようにした「リフォームカー」を開発するなど、リフォーム断熱事業にも力を入れています。
3.原材料の調達、ブレンド製造、販売。
ポリウレタンは、ポリオールとイソシアネートを混合し、反応させた高分子化合物です。混合・反応のさせ方で様々な製品となります。
富士経済の「2016 ポリウレタン原料・製品の世界市場」によると、2015年の世界のポリウレタン市場は約8兆5000億円。原料となるポリオール、イソシアネートの市場もそれぞれ2兆円以上あります。
ポリウレタン市場が巨大なマーケットであるがゆえに、原料の取扱いは大手企業が握っており、価格決定権はサプライヤー側にあります。このことからサプライヤーの原料納入価格が上がると、日本アクアも施工販売価格を上げたくなるところですが、そうすると繊維系断熱材とのコスト差が大きくなり、失注率が高くなってしまいます。
そこで日本アクアでは、上場で得た資金を活用して、比較的製造が容易なポリオールの自社製造に乗り出しました。
方法としてはポリオールの粗原料を世界各国から求め、それを複数の委託加工先に日本アクアのレシピで仕上げてもらう、ファブレスでの原料製造です。これによりポリオールの調達価格が安定しました。
戸建住宅における硬質ウレタンフォームの現場発泡吹付が増えるにつれ、日本アクアは、より大きな市場を求めて建築物の断熱施工に参入し、それまでビル・マンション工事などで、ゼネコンの下請けとして施工していたウレタン断熱工事業者が競合となりました。
しかしその競合は規模が小さい工事会社がほとんどであるため、原料値上がり時のコストアップ分を価格転嫁できず、自社で負担しなくてはなりませんでした。
従来日本アクアでは、全国の認定施工店に原料を支給してきましたが、ポリオールを自社で製造するようになって以降、競合の工事業者にも商品として販売することにしました。
価格が安定し、建築物の断熱工事に最適化された「アクアフォーム」を、これらの工事会社にも提供することで、顧客とすることに成功しています。
このように施工棟数が増えるにつれ、イソシアネートの調達トン数も増えたため、こちらの価格も安定してきました。
この結果、現在では繊維系断熱材とのコスト差は僅少になり、硬質ウレタンフォーム断熱のメリットがより目立つようになってきました。
4.国内のシェア、海外展開は?
国土交通省の「建築着工統計調査」によれば、2017年の新築住宅着工件数は約96万戸で、このうち木造住宅の着工棟数は42万棟です。日本アクアの2017年施工棟数は46,500棟でしたので、単純計算で11%のシェアとなります。新築住宅での断熱は未だに繊維系断熱材採用が圧倒的に多く、現場発泡硬質ウレタン断熱の採用は15%程度と見られているので、まだまだ開拓余地はあります。
その開拓余地の多くが「分譲住宅」分野です。いわゆる「建売住宅」で、そのデベロッパーの多くは、金融機関からの借入で土地を仕入れ、家を建てます。よって早い資金回転が求められるため、どうしても低コスト住宅が多くなり、繊維系断熱材の採用が主流となっています。日本アクアでは原材料のコスト低減、施工コストの低減努力と額面どおりの省エネの必要性を伝え続けることで分譲住宅分野でも高断熱・高気密住宅を提供できるようにしていきたいと考えています。
海外に目を向けると、実は日本の断熱基準が、かなり低レベルであり、欧米はもちろんのこと、気候条件が日本と似ている中国や韓国の基準をも大きく下回っています。屋根や壁に比べて、窓の断熱基準が大幅に低いのが主要因ですが、すでに日本より高断熱、省エネルギーの住宅が多いこれらの国々への進出は難しそうです。
一方、親会社のヒノキヤグループでは、ベトナムを中心とした東南アジアの住宅開発に力を入れる方針であり、それに伴って海外での施工も増えると思われます。
東南アジアの高級住宅では、エアコンの導入が進みつつありますが、もともと「家の断熱」という概念がないため、エアコン負荷が過大です。今後エネルギー消費削減、Co2排出抑制という観点から、東南アジアの住宅でも高断熱・高気密は広がる可能性があると見ています(ただし、時間はかかりそうです)。
2016年7月には、フィリピンに「アクアフォーム・アジア・アソシエイツ」という現地法人を設立しました。これは主として積算業務を委託していますが、これとは別に技能実習生を日本アクアに招聘し、日本全国に配置し現場施工員として技術を身につけさせることもしています。将来、彼らは帰国後にフィリピンの住宅断熱工事のリーダーとなることが期待されています。
5.硬質ウレタンフォーム断熱のトップ企業として
日本アクアは、戸建住宅に対する現場発泡硬質ウレタン断熱工事という市場を創造し、開拓してしきました。まだまだ発展途上のこの市場で、商品開発の努力は欠かせません。2013年に横浜市に設置したテクニカルセンターでは、原料の品質改善やコストダウン、新商品の開発などを行っていて、RC建造物用のアクアフォームで新しい発泡剤で高性能かつノンフロンのものを開発したり、シロアリ防虫効果のあるアクアフォームを開発したりしています。
また、施工現場には抜き打ちで品質パトロールカーを派遣し、施工がきちんと出来ているか確認するなどの品質管理も実施しています。
現在、日本アクアが創業して約15年。一方住宅は30年、40年と使われることが多く、長期の断熱効果の維持に対する答えはこれから出てきます。そのためにも品質管理・品質向上の努力をトップ企業として継続していただきたいと思います。
インタビュー後記
省エネ基準のところで述べたように、省エネルギーの観点から住宅の高断熱化・高気密化は不可欠です。また、健康的な生活をし、ヒートショックや熱中症による不慮の事故を減らす上でも高断熱化・高気密化は日本の喫緊の課題と言えそうです。
日本アクアには、現場発泡硬質ウレタン断熱工事で業界の常識をくつがえしたように、今後も新たな挑戦を続けてもらい、企業理念である「人と地球に優しい住環境を創ることで社会に貢献」し続けて欲しいと思います。
以上
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