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溶射加工でNo1のトーカロ(3433)。三船社長にインタビュー!


【3433】トーカロ

開催日2018年 11月 14日
出演三船 法行 社長

トーカロの三船法行社長に経営理念や事業に対する想い、会社の将来像等をインタビューします。

研究職から始まった三船法行社長

私は、福岡で生まれまして、今年で63歳になります。大学は、山口大学に入りまして、それからすぐ東洋カロライジングに入社しました。

東洋カロライジングを略してトーカロと今は呼んでますね。カロライジングというのはアルミニウムの拡散処理のことですが、それを溶射の前にはじめまして、それが創業となります。そのジョブが、だんだん溶射に転換していったわけです。私は、製造サイド、技術サイドに入りまして、その後、溶射技術開発研究所に入り、そこでいろいろ学会にも発表したり、論文などを国際会議でも発表しながら研究発表していました。社内では実用化の部分ということで、特に鉄鋼メーカーさんと共同で研究をしながらロールの表面開発であるとかガスタービンのプレートの開発などを行っていました。

その後、研究職が終わりまして、北九州に行くんですけど、若干経営の方に入りました。工場長として北九州にいきました。45歳だったんですけれど、その時に九工大の先生が今までの論文を見られて、なかなかいいので今まで書いたものをちょっとまとめなさいという指示が下りてきました。仕事の方も大変だったんですが、その当時の社長からは、どうせ5時以降は単身赴任で遊ぶなら勉強しなさいと言われ、論文を1~2本書きまして最終的にまとめて九州工業大学から博士号をいただきました。
この時の共同研究者と研究をしながら影響を受けながら教えていただきながら書きました。
そういう意味では、社内だけではなくて、そういうお客さんとの共同作業というか共同研究というところが実になったんだと思います。
そして九州の工場長をやりまして、明石工場長になりまして、製造本部に入りました。そして、2011年に中国台湾の方に合弁の子会社を設けまして、それの責任者というので董事長として月1回通っていました。半導体とフラットパネルの製造装置の部品を作ってましたので、そこの工場のトップとして指揮したということです。
そして、日本に帰りまして製造本部長に入り、全体の製造を見まして社長になったという流れです。

溶射(ようしゃ)とは何か?

溶射とは、漢字で溶かして射ると書きます。
どんなものを溶かすかというと、金属であるとか合金であるとかサーメットであるとかセラミックスであるとかです。高融点のものを溶かします。溶かすのにどんなエネルギーを使うかというと、燃焼させた火炎、炭化水素を燃やした燃焼炎であるとか、電気的にガスをプラズマ化させてその熱エネルギーを出すプラズマ炎などです。
要は高温にして溶かし、溶かしたものを吹き付けるという処置です。
溶けたものがある一定速度、例えば秒速200mというくらいの速度で機材(製品)にあたって皮膜を形成していきます。その機材(製品)はお客さんがトーカロの工場に持って来ていただくことが多いですが、大きなものになりますとこちらから溶射機を向こうに持ち込んで向こうで前処理や溶射、後処理をして帰ってくるということもあります。

個体のままだと被写体になかなかつかないので柔らかくして吹き付けるということです。昔よくやった、壁に粘土みたいなものを柔らかくして投げるとくっつく、そういうイメージです。吹き付ける際の温度管理やどういう形をつけていくか、吹き付ける材料などがノウハウになってくるんですが、そこが我々のビジネスのキーポイントとなっています。

 

溶射の例をみてみましょう。

製鉄所で使われている搬送用のローラーで、鉛メッキ鋼板という自動車用鋼板として有名な薄くて硬くて強い板を作るときに使われるローラーです。
直径80センチ幅2m ぐらいのロールです。薄い板が巻き付いたり流れたりする時に使われます。

このロールに表面改質ということで表面に溶射加工しています。
このロールが使用されるのが板を熱処理するための炉内なので、耐熱性が要求されるわけです。
また、ロールの表面が摩耗に弱いと傷が鉄板に転写されてしまうので、そのような傷ができないような表面に仕上げています。そして、溶射することによって例えば3年5年と使える耐久力が増し、いい品質の板がとれるわけです。亜鉛メッキ用のラインでのロールにはほとんどこのような溶射加工がされています。ある程度の期間使うと、また再溶射が必要になっています。
一年に一回の定期点検で検査しながらロール交換をし、同じ溶射をします。

次はベアリングです。一番有名なのは、新幹線のベアリングで、パンタグラフから電気を取る際のクラクションモーターという部分に使われるものです。軸の周りで防衛電流が若干走るときがあるため、それを防止するために溶射加工しています。
もしスパークするとベアリングの玉が傷つき、新幹線がガタガタすることになるので、そうならないように絶縁処理のコーティングをしています。何十万キロか走ると交換ということになります。
日本の新幹線では100%使われていると思います。中国の新幹線でも使われています。

次はリコート、再利用のことです。先ほどのハースロールであれば例えば3年使われたものが、私どものところに入ってきて、一度被膜を取って、その上に溶射で復元しながら新しい被膜をつけます。最終的には、山形の形状に仕上げます。ロール廃却というのがありまして、小さくなるまで何回も何回も使います。ロール寿命としては、多分15年~20年になると思います。
溶射加工することで耐摩耗性など持たせているので長く使えますし、素材の損傷を極力少なくしています。

特許を確保することよりも、顧客の課題解決が大切

溶射の技術は特許で確保している部分ももちろんあります。150件くらい特許を取っていると思います。けれど、特許化すると、かなりの部分の技術を公開することになりますので、そうすると海外からもチェックされますので、特許化することで技術が流れてしまう部分は特許化せずにノウハウでおいています。

ただ特許は単独というよりもお客さんと一緒に共同開発していくものなので、グローバルに守りながらやっていくという戦略でやっています。

溶射した膜の厚さは、環境によって色々違うんですけども溶射の一般的な厚みとしては50ミクロンから厚いものでも4ミリぐらいまでです。一般的には100ミクロン~200ミクロンくらいで勝負してます。
2ミクロンというのは、0.2ミリですから、シャーペンの芯より少し薄いくらいでしょうか。
均質にコーティングするのは一般的にどこでもできますが、一番はやっぱりお客さんが何に困られているか、それに対して解決するにはどういう被膜を適用したらいいかという部分がトーカロの強みです。

加工だけが得意なのではなくて、そのお客様が使われている環境を知ることから始めるというか、なんで困られているかというところから始めることが強みですね。

もしも表面を溶射加工してなかったら3日間ぐらいで取り出して交換しないといけないわけです。
3日ごとに取り換えていては、ラインを止めることになって生産性も下がりますし、出来上がった鋼板に少しの傷があっても、日本の自動車メーカーは受け取ってくれません。
ところが溶射加工すると耐久性が増し、長い間ラインを流すことができるようになるということです。

溶射加工すると、例えばただの鉄だったものが吹き付ける材料を何にするかによって色々な機能が付加されます。
そのことが顧客にとってどんなメリットがあるかというと、一つは工場の生産性が向上します。生産設備に付けることにより、高品質なものを作れる、耐久性が向上し、長い時間使えるようになります。
もう一つはベアリングのようにベアリングメーカーさんのベアリングに機能を付与することによって、モーターメーカーさんに高く売れるわけです。付加価値を付けて提供できるということです。

メッキと違いますかとよく聞かれるのですが、メッキは湿式の処理で、私どもは溶かして吹き付けるという乾式の処理なので、技術的な違いがまずあります。
もう一つは溶液にならないとメッキというのは付かないんですけど、溶射は、溶けさえすれば、ひっつけることができるので、セラミックスのようなものも付けることができます。材料の選定に自由度が高いといえます。

トーカロの業績について

財務的な数字の話になりますけれども、2018年3月の決算においては売上が341億円ありました。売上高の割合を見ると半導体あるいは FPD に関連するものが多いです。
半導体そのものを作っているわけではなく、半導体製造装置という、液晶であるとか有機ELなどの製造装置のエッチャーという部分によく使われています。
半導体というのは配線のところを膜付けして削っての繰り返しなんですが、削るエッチングの部分で私どもの提供した皮膜が使われています。その部分でトーカロの溶射加工された装置が使われています。
図の赤い部分の内側に溶射加工がされています。
ウェハを削るのに、フッ素系のガスや塩素系のガスをプラズマ化されたものを使うんですが、装置自体はアルミニウムでできています。シリコンウエハーを削るけど装置自体も削るんです。その機械が削れるとゴミが出て半導体の製造ができないため、機械を守るためコーティングをしています。
また、膜付けしたり削ったりするときに、ウェハをきっちり固定しないといけないのですが、昔の精度ではできなくなってきて、今では静電気でウェハを固定しています。その電気的に静電気を起こさせる台を溶射で作っています。ウェハチャックといいます。アルミニウムの素材の台の上に絶縁、電極、誘電体というコーティングをするんですけれど、それで電圧が出ると電気が帯びて静電気が発生するようになっています。電気的ですからON-OFFが早いですね。
外れたり、取り出したりがやりやすくなります。
半導体製造装置が売れれば自然と売り上げが上がってきます。

それからFPD,フラットパネルディスプレイというのは、液晶の画面や、携帯の液晶部分や有機ELなどです。そのようなパネルを作るのに静電気でガラスを止めるんです。
3m~3.5mくらいある、かなり大きなものです。かなり広い面積に何層も溶射をします。初期の頃は始めた頃は、2005年くらいだったんですけど、3日4日とかかけました。
今はもう少し生産効率は上がっています。
例えば今、中国の方で液晶のテレビの普及のために工場がいっぱいできて、そこに製造装置が入るわけで、その時製造装置のメーカーの方に、私共の商品を出すわけです。
中国で製造装置のコーティングの補修を行うなど、中国の子会社が行っています。

ですので、皆様が日頃使われているディスプレイやパソコンの中のCPUに本当に一部ですけどもトーカロの技術が使われているというわけです。
他には新幹線のベアリングに絶縁加工したり、石炭火力発電に使われたりしています。石炭火力発電というのはボイラーで石炭を燃やして、その外側の管の水の部分を蒸気化させて蒸気タービンを回して発電するんです。蒸気タービンにも一部採用されてますが一番大きいのはそのボイラーなんです。石炭を微粉炭にして吹き込んで火炎で燃やします。微粉炭によりそのボイラーチューブが摩耗します。また、石炭にはサルファーなど腐食物質が入ってまして、それがチューブを損傷させるということでコーティングすることで、耐摩耗性であるとか耐食性というのを付与するんです。特にバーナー近辺です。今はもう環境問題が非常に厳しい時代ですから、そういう意味ではそういうところをクローズの中でやらないといけないので、そういう処置をきちんとして石炭の火力発電に寄与しています。

売上に戻りますと、18年3月期で言いますと売り上げの約4割が半導体とFPD、フラットパネルです。産業機械が12%です。新幹線のベアリングやガスタービンのブレード関係などです。地熱発電ローターのシャフトなどもあります。それから鉄鋼関連は亜鉛メッキのローラーなど、鉄が搬送される場面で高品質生産のために使われています。非常に過酷な環境で使われています。

国内の子会社は溶射ではなく、PVDという世界のコーティングを採用している日本コーティングセンターが子会社となっています。溶射加工だけでは全部の表面処理を網羅できないところもあるからです。
海外は中国に2つと台湾とそれからアメリカの方にも最近打ち出しています。
中国は液晶パネルのリコートなどをおこなう子会社があります。上海の近くの昆山に1つと、鉄鋼関連や紙パルプ関連のロールなどを行う子会社が広州に1つあります。
台湾は半導体、液晶パネルの関係が盛んなところですので、リコート関係で子会社を作っています。

社内でできる小型のものから、ロールですと50トン60トンのような大型のものまで扱っています。大きくて運べないものは、こちらから研磨装置を持っていきます。

金属の価格の変動が業績に与える影響はあります。原価率は10%を切るほどですし、使う量も薄いため少ないですが、レアメタルやコバルト、ニッケルなど馴染みがない金属を使いますので、影響はあります。

長期的な業績の推移をグラフでみてみます。
棒グラフの部分が売り上げの推移、そして線グラフのところが利益の推移となっています。

ねずみ色の部分は子会社の売上の部分になります。
子会社も少しずつですけども、プラスになってきているのではと思います。
1951年創業で、当初はカロライズの加工でした。私の入社が1978年でそのころから業種転換しました。80年頃から溶射中心になり、その頃から鉄鋼中心に鉄鋼のアプリケーションが増えて伸びてきました。
その後、バブルがはじけまして、96年に店頭登録しましたが、その後ちょっといろいろありました。
2000年頃からFPDも含めた半導体の製造装置が一気に伸びてきまして、シリコンサイクルで少し落ちて、リーマンショックでかなり売り上げは落ちましたね。2007年は最高益で気が狂うように忙しかったです。
私共は受注産業なので、お客さんが注文をストップするとすべてが止まりますので、リーマンショックの時はかなり落ちました。リーマンショックの時でも黒字なんですけど落ち方がちょっと激しかったんです。直近で言うと売上も利益も最高になっています。進行期では売上410億円くらいを予定しています。

2007年のその絶好調だった時より、売り上げも利益も今の方が上回っていますが、それは半導体を中心に伸びてきたというのもありますが、半導体以外の部分、元の基本技術を大切にし、重工業産業関係もキープしながら伸びてきているからだと思います。半導体が10~20%と大きく伸びていますが、その他の部分も5%とかではあるものの、着実にアプリケーションは広めていっています。

全天候型経営をイメージした成長戦略

今後については、足元は半導体・FPD関連の需要がかなり大きくて増産体制を組まなければいけません。将来的に半導体が落ちることはないと考えられるので、その部分への投資は技術開発を含め今、必要だと思います。東京の工場では、一般の重工業関係と半導体関係の工場を分けるために重工業関係を別の工場に移したりしています。その他にも明石工場の近くに新しい工場を建てるなど設備投資を行っています。売上高400億の中の70億円ほどを投資しています。将来を見据えて継続的な発展のための覚悟の投資です。

 

表面の接する世界がどんなものかを知らないと表面の加工もできないと考えています。表面加工したものがどんな場面で使われ、被膜がない場合にどんな問題があるのかをきちっと理解しないと、どういう技術を持ってこなければいけないかというところが分かりません。そこを「診断」と言っておりますけれど、お客様の問題点をきちんと診断して、どういう処方箋を出そうかというところを考えるわけです。
そして被膜設計の提案を自分のところでシュミレートした実験をしながら、こういう被膜をもっていけばこの環境下ではお客さんの問題は解決できるというレポートを作って提案します。同じではないけど近い場面で使われているところで、これだけの実績だったらうちもいいんじゃないかなど、色々議論になります。お客さんの意見もありますので、ディスカッションをしながらという感じになります。
最終的に仕様が決まり、試作して使ってみてもらいます。1度でうまくいくこともあれば、うまくいかずに戻ることもあります。
相手からどういう問題点があるかを聞くのが大切なので、営業では文系の人も活躍しています。お客様とどれだけ腹を割って話を聞けるかがポイントです。

「全天候型経営」というのは、半導体もあり、鉄鋼もあり航空機もあり、といろいろな分野で利益が出せるような方向を目指していくということです。今は半導体の割合が少し多くなってしまっていますが。グローバル化については、顧客への対応、サポートのためにグローバル化はもちろんしますが、トーカロ単独でということではありません。またライセンスビジネスというのはできると考えています。

私の理想とするトーカロ像としては、ニッチの分野で光るものを造るビジネスをしたいと考えています。今は溶射加工の分野では世界有数、日本ではトップですが、溶射が適応できる部分を増やしていきたいと、新しいものに挑戦していきたいと、それが使命だと考えています。そのために技術開発をし、新しい市場を開発していきたいです。

日本ではトップ企業です。世界の強豪は、装置も作っているし、、材料も売ってるしジョブもしているという企業が多いので、なかなか比べるのは難しいです。我が社は、溶射加工で生きているということです。
また、一番には、従業員が会社に誇りを持ってほしいと思っているので、この会社で働いていてよかったと、一番やっぱりそこがあるからモチベーションが高くなると思っています。そして家族のサポートがあったりすることで従業員が力を発揮できると、そういう会社にしたいなと思っています。
ですので、ボリューム、金額を追うのではなくて、世の中にためになる製品開発をしていきたいなと考えています。

私は製造畑、技術畑できましたので、成功体験も何回かしまして、そういう意味では先輩にお世話になったし、お客様にお世話になったし、ということで、一緒に喜びを分け合ったという、新しいものを作り上げたという成功事例というのは嬉しいですね。そういう成功体験を若いエンジニアにも体験させてあげたいと思います。そういう成功事例の積み重ねで会社のベクトルも決まってくると思います。

今、ちょうど68期、もうすぐ70期になります。
将来的には100年を迎えられるような企業に少しずつですけども成長させていってもらって、バトンタッチしていきたいなというふうに考えております。今後ともどうぞよろしくお願いします。

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