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くすりの窓口(5592) 田中会長インタビュー !電子お薬手帳トップ、ストック売上最大化で増収増益体質構築 ~医療機関のDXで経営改善と社会課題解決に貢献~


【5592】くすりの窓口

開催日2025年 05月 19日
出演田中 伸明 代表取締役会長

くすりの窓口の田中会長に、ビジネスモデル、事業内容についてインタビューしました。

くすりの窓口とはどんな会社なのか?

株式会社くすりの窓口は、社名の通り、当初は調剤薬局向けのITサービスとしてスタートいたしました。現在はクリニックなど医療機関全般にサービスを提供しておりまして、ヘルスケアのITプラットフォームという位置づけで事業を展開しております。

ご存じの通り、日本は高齢化が進行しており、医療費が毎年膨大な金額になっております。今では46兆円程度と言われておりますが、今後も高齢化は続き、この先10年ほどはまだまだ医療費は膨れ上がっていくと予測されています。それと同時に、医療業界はIT化が進んでいないという側面がございました。このように申し上げると医療関係者の方にお叱りを受けるかもしれません。特に当社が創業した頃はその傾向が顕著でした。国も、現在で言うDX(デジタルトランスフォーメーション)のようなものに対する認識がまだ低かったため、事業のスタートには大変苦労いたしました。しかし、現在は国を挙げてデジタル化による効率化を推進する追い風もあり、私たちが開発した様々なサービスを『使ってみようか』とご検討いただけるようになりました。

私もずっとIT関連業界におりましたので、当初、医療業界の方々からは『IT業界の者に何が分かるのか』といった雰囲気がございました。しかし、今はおかげさまで業界での認知度も向上し、サービスについてご説明すると、真摯に耳を傾けていただけるようになりました。一方で、患者様にはまだまだ知られていないという側面がございます。

創業当初からの『メディア事業』、それから『みんなのお薬箱事業』、そして『基幹システム事業』という3つの事業が、それぞれ良い形で成長し、利益を生み出している状況です。

グループ全体の連結売上高は非常に順調に売上が伸長しております。2015年が実質的なスタートとなり、そこから約10年で111億円の規模となりました。創業当初の苦労した時代を思い出しつつ、今になってみると、特に最近は成長率も上がってきております。

認知度の向上により、ある程度のネットワーク効果(利用者が増えることでサービスの価値が高まる効果)が働いてきています。メディア事業の主力である調剤薬局様の処方箋予約サービスは、患者様からすると、利用できる薬局が多くなければ使い勝手が悪いサービスです。一方で、調剤薬局様からすれば、利用するユーザーがいないのに費用を払ってサービスを導入する理由がございません。その両面の課題からスタートいたしましたが、現在は電子お薬手帳のユーザー様も600万ダウンロードを超えました。ユーザー様が増えることでネットワーク効果が働き、売上もさらに伸びていくと考えております。

当初はもちろんサービスの開発が先行しますので、何年間かは赤字でございました。しかし、サービスが整う前から、営業活動には力を入れておりました。調剤薬局は全国津々浦々に約65,000店舗と、コンビニエンスストアよりも多く存在しますので、営業開拓が非常に大変です。サービスの開発と同時に営業部隊を組織したため、最初は赤字が先行いたしましたが、営業組織がしっかりと機能したことで、損益分岐点を超えてからは、順調に利益が積み上がっております。

私自身もともとはフリービット社の創業メンバーでした。フリービット社の現社長である石田とは、1994年頃から一緒にビジネスをしておりました。フリービット社の前身となる会社を一緒に立ち上げたのです。当時はまだインターネットの黎明期で、ブロードバンドが普及するよりも前の時代でした。『インターネットはすごそうだ』ということで意気投合してスタートし、経歴には載っておりませんが、小さな会社を立ち上げたり、三菱電機様の子会社の立ち上げを手伝って役員を務めたりといった経験もございます。

英語の通信教育などを手掛けるアルク社にもいました。今で言う『キクタン』のような英語教材や、大企業向けの社員英語研修といった事業を行っている会社です。

いつもやりたいことはたくさんございます。今も『これをやったら面白いだろうな』というアイデアがたくさんございます。

フリービット社、そしてくすりの窓口社と、2つの事業で成功していますが、半分以上は運だと思っております。ただ、ある程度はビジネススキルや事業の選び方で変わってくる部分もあるかと存じます。

 

くすりの窓口の沿革

くすりの窓口社は、実質的には2015年スタートですが、2015年当時は、私はまだ関わっておりませんでした。株式会社光通信様の中で、ITサービスを含めた事業を立ち上げたいという話があり、『EPARK』というサービスが生まれました。その中の一つの企画として、調剤薬局向けの予約サービスが始まったのがきっかけです。スタートから間もなくして、フリービットに『協業しないか』というお話がありました。ITサービスなので、ITのテクノロジーと予約サービスを組み合わせた事業を合弁でやらないか、というご提案でした。当時、フリービット側でもヘルスケア分野のITサービスを手掛けたいと考えておりましたので、タイミングが良かったのです。

ただ、最初に『調剤薬局の予約』と聞いた時は、『それは何ですか?』という状態でした。処方箋は病院でもらって、近くの薬局へ行かなければいけないものだと思っていたのですが、全国どこの薬局に持って行っても良いということを、その時初めて知りました。お恥ずかしい話ですが、その時点では素人だったわけです。しかし、それは面白い、と直感的に思いまして、ぜひ合弁でご一緒したいということになりました。

そして2016年から、フリービットの連結子会社となり、そこから私が社長を兼任して事業を運営してまいりました。

フリービットのビジネス自体は既にある程度軌道に乗っておりましたので、くすりの窓口の事業をフリービットの中で育てるという流れでしたが、私が2020年でちょうどフリービット在籍20年という節目でしたので、『卒業して新しいことをやりたい』と考えたタイミングがございました。その頃、くすりの窓口社はフリービットの成長のために買収したこともあり、その後は、フリービットの子会社として成長していくのだろうと想像していたのですが、ちょうどコロナ禍となりました。

フリービット社としては、先行投資が必要になるかもしれない、買収して利益が出ていない事業を切り離したいという意向があり、私がくすりの窓口社ともう一社を譲り受けることになりました。投資家も集め、そこからは私が会長となり、創業時から一緒にやってきた現在の社長である堤に後を任せ、独立系企業として上場を目指すという第二のフェーズが始まりました。

その後、2023年10月に上場に至りました。フリービット社としては、コロナ禍において自社のメイン事業に集中し、くすりの窓口は私が引き継いで事業を継続する形になりました。当時はコロナ禍という時勢でしたし、プライム上場企業の子会社から突然独立系企業になりましたので、当初は金融機関から『上場会社の連帯保証がなくなったのだから、今すぐ融資を返済してほしい』と言われるなど、出だしは大変でした。しかし、事業の方はおかげさまで順調に成長を続けております。

 

事業内容 1.メディア事業

メディア事業は、まず患者様の目線で申し上げますと、病院で受け取った処方箋を、これまでは病院近くの薬局へそのまま持って行き、調剤を待つのが一般的でした。特に大きな病院の周りの薬局では、かなり混雑しており、1時間ほど待たされることもございます。

当社のサービスは、その処方箋をスマートフォンで撮影し、ご契約いただいている薬局の中から、ご自身の家の近所や会社のそばなど、都合の良い場所を選んで送信できる予約サービスです。そうしますと、ご希望の場所に到着した頃にはお薬の準備ができており、すぐに受け取ることが可能になります。定期的に病院に通われている方が、当社のメインのユーザー層になります。朝起きたらインフルエンザで39度の熱がある、というような方は、近所のクリニックで診察後、すぐにお薬をもらって帰るというケースが多いかと存じます。私たちがメインターゲットとしているのは、例えば糖尿病などで3ヶ月に1回、経過観察と投薬が必要な方々です。そうした方々は非常に多くいらっしゃいます。

最初の使い始めとしては、『薬局の予約サービスはないだろうか』とインターネットで検索され、当社の『くすりの窓口』ウェブサイトにたどり着く、というケースが一般的です。そこで薬局を調べ、予約できるというのが最初のスタートです。2回目以降、このサービスを継続して利用したいとなった場合に、『アプリもございますよ』とご案内しております。電子お薬手帳アプリをダウンロードいただくと、処方履歴もすべて記録されますので、紙のお薬手帳が不要になり便利だ、ということで使い始めていただき、次の予約はアプリから、という流れになります。アプリでは、もらったお薬の履歴が見られますし、副作用や使用上の注意といった、これまで薬局で紙に印刷して渡されていた情報もすべてアプリ内で確認できます。公開情報はすべて入るようになっております。薬局でもらった紙を捨ててしまった時などにも便利です。実は、薬局で勧められて、当社のサービスだと知らずに使っていただいている方も結構多いと存じます。

現在、アプリのダウンロード数は約650万ダウンロードになりまして、この分野では最大規模となっております。競合となるアプリもございますが、結局、ユーザー様からすると、様々な薬局で使えなければ利便性が下がってしまいます。近所の薬局が登録されていないと不便ですので、そうした意味で当社のシェアがどんどん上がっていっている状況です。

大手の調剤チェーンやドラッグストアでも導入されています。薬局側からすると、このサービスに登録していないと、患者様から選んでもらえないということになります。例えば、大病院の周辺にたくさんある門前薬局と、ドラッグストアとでは、少し立ち位置が異なります。ドラッグストア様は、駅のそばやショッピングセンターの中など、病院から直接患者様が流れてくる立地ではないことが多いです。そのため、患者様が自ら能動的に『便利な場所はどこか』と探すケースが多く、ドラッグストア様にとっては、当社のサービスに登録していないとお客様を取りこぼしてしまう、という意識がございます。この仕組みがないと門前薬局に流れてしまう患者様が多い中で、この仕組みがあることで、駅前など便利な場所にあるドラッグストアにビジネスチャンスが生まれる、ということです。

事業をスタートする際は、まず比較的大きなユーザー様にご利用いただきたいと考え、大手のドラッグストア様などに概念実証(PoC)のような意味合いも含めて使い始めていただきました。その過程で、ドラッグストア様と従来の調剤薬局様とではビジネスモデルが違うのだな、と実践しながら分かっていった、という側面がございます。

 

メディア事業のビジネスモデル

ビジネスの流れとしては、まず患者様が薬局を検索・予約し、その情報が株式会社EPARKで会員照合された後、薬局に予約情報が送られます。そして患者様が薬局でお薬を受け取り、薬局はその処方履歴を登録します。その後、薬局からくすりの窓口に手数料が支払われ、ここで売上が発生する。最終的に、くすりの窓口から株式会社EPARKに対して一部ロイヤリティを支払う、という流れです。

売上は、ストック売上とショット売上に分かれています。ショット売上は、文字通り一回限りの売上を指します。調剤薬局様やドラッグストア様がサービスを導入される際に、初期設定や機材の導入などが伴う場合がございますので、その初期費用としていただくのがショット売上です。一方、ストック売上は、患者様がサービスを使い続けていただく限り、継続的に発生する売上です。アプリで処方箋を送信し、薬局で処方してもらうたびに、薬局から手数料が支払われます。SaaS(Software as a Service)のようなイメージです。

アプリのユーザーが増えれば増えるほど、このストック売上が積み上がっていくわけです。ですから、アプリのユーザー様を増やしていくことは非常に大切です。初回のご利用でお薬手帳の存在を知って登録してくださる方もいらっしゃいますし、アプリストアでの検索順位を上げるための施策にも力を入れております。スマートフォンが普及したからこそ成り立つビジネスです。

社内ではよく、『2,000万ユーザーになれば、国のインフラになれるのではないか』という話をしております。1年や2年ですぐに届く数字ではございませんが、ネットワーク効果がかなり働いてきており、サービスの利便性は日々向上しております。ダウンロード数の成長率も上がっておりますので、比較的近い将来、2,000万ユーザーという数字も見えてくるのではないかと考えております。

デジタルサービスへの浸透率も年々上がっており、10年ほど前は『慢性疾患の患者様でスマートフォンを使っている方は少ないのではないか』と言われましたが、今は全くそのようなことはございません。決済も簡単に行えるようになっております。

ストック売上の中には、処方箋1枚あたりの手数料の他に、「リッチプラン」がございます。これは、当社のウェブサイトの中で、特定の薬局様を目立つ位置に表示させるためのプランです。また、昨年からはオンラインでの服薬指導に対応することで診療報酬の点数が加算される仕組みが始まりましたが、当社のサービスを使えばすぐに対応できるため、そうした目的でもご利用いただいております。いずれも調剤薬局様やドラッグストア様から費用をいただくモデルです。

四半期ごとの売上高を見ても、ストック売上が積み上がっていますが、季節変動が多少ございます。例えば、春は花粉症のシーズンですが、毎年同じ薬をもらうような方は、2回目以降はオンライン診療で済ませるケースが増えております。そうしたオンライン診療から処方箋の送付まで、このサービスで完結できますので、2月から4月頃は利用が増える傾向にございます。完全な新規のお客様だけでなく、既存のお客様が新しいサービスを追加で導入される際にもショット売上は発生いたします。

粗利益も着実に積み上がっています。SaaSのような事業モデルですので、損益分岐点を一度超えれば、着実に利益が積み上がっていきます。また、解約率(チャーンレート)も非常に低いのが特徴です。一度導入いただくと、『これをやめたら、あのお客さんが来なくなるかもしれない』『お薬手帳のユーザーがすごく増えていると営業担当が言っていたな』といったご判断から、解約は得策ではないと考えていただけるようです。薬局側は、このサービス経由で何人の患者様が来たかをすべて把握しているわけですから、効果を実感されています。

マーケット全体で申しますと、年間の処方箋枚数は約8.3億枚ございます。その中で、当社のメインターゲットである、長期の慢性疾患の方や、小さなお子様がいらっしゃるご家庭向けの処方箋は、合計で約4.2億枚と試算しております。

お子様がいらっしゃるご家庭では、薬局内での二次感染のリスクを避けたい、子供が騒ぐので長時間滞在したくない、といったニーズがございます。また、お子様のお薬は年齢によって量を調整する必要があり、調剤に時間がかかるため、当社の予約サービスは大変ご好評をいただいております。

この4.2億枚という市場の中で、当社のサービスの年間予約数は約450万回ですので、シェアはまだ1.7%に過ぎません。まだまだ非常に大きな成長余地がございます。

一方で、薬局店舗数という点では、特に6店舗以上を展開するチェーン様においてシェアが高く、すでに40%近いシェアをいただいております。このシェアが高まるほど、患者様の利便性が向上し、さらにユーザー数が増えやすくなるという構造になっております。

薬局の開拓は、地道に訪問して営業するスタイルです。当初は大変でした。システムの利用料を頂こうとしても『誰も予約しなかったら、何のためのサービスなのか』と言われるところからのスタートでしたから。どこかで劇的に変わったというよりは、日々の努力を積み重ねる中で、ある地点で閾値を超え、急に導入が進んだり、ユーザーが増えやすくなったりした、という感覚です。今では『600万人が使っています』と申し上げると、皆様に関心を持っていただけるようになりました。

今回の決算のトピックスとして、「AIストック機能」を発表いたしました。これは、患者様が処方箋を薬局に持って行っても『在庫がない』と言われてしまう問題を解決するための機能です。薬局が2万種類以上あるすべての種類の薬剤を在庫しておくことは不可能ですので、時としてこのような事態が発生します。この機能は、予約しようとした薬の在庫がその店舗になかった場合に、系列の別店舗の在庫を自動で探し出す仕組みです。薬剤師の方が手作業で確認する手間を省き、薬局様の経営改善に繋がりますし、お客様を逃さずに済みます。患者様にとっても、すぐに代替案を提示してもらえるため、利便性と顧客満足度の向上に貢献するサービスです。薬剤師の方々は業務が多忙です。調剤作業にリソースを割かざるを得ない中で、こうした部分はシステムで支援する必要があると考えております。

 

事業内容 2.みんなのお薬箱事業

「みんなのお薬箱事業」は大きく2つのサービスがございます。

一つは、薬局の不動在庫、つまり使用期限が迫っているなどの理由で、このままでは廃棄ロスになってしまう医薬品を薬局間で売買できるようにするものです。ある患者様のために仕入れた高価な薬剤が、その患者様が来なくなったことで無駄な在庫になってしまうケースがございます。これをそのまま廃棄すると、薬局の損失になるだけでなく、国民皆保険制度で7割を国や保険組合が負担していることを考えると、単純な社会のロスになります。年間で数千億円規模のロスが発生していると言われております。このロスをできる限り減らそうということで始めたのが、このサービスです。ネット上のマーケットプレイスになります。薬局様が出品し、それを必要としている別の薬局様が買い取れる、いわば『薬局内のメルカリ』のようなイメージの仕組みです。これにより、ある薬局では余っていても、他の薬局では必要とされている医薬品を有効活用し、ロスをなくすことを目指しています。この事業に詳しいメンバーが社内におりまして、『これは当社がやれば、しっかりしたサービスになるし、社会的な意義も大きい』ということで、頑張って立ち上げました。売買価格は、医薬品の需要と供給のバランスによりますので一概には言えませんが、当事者間で自由に価格を決めていただき、売買が成立した際に、その売買額の数パーセントを手数料として私たちがいただくモデルです。

もう一つは、新品の医薬品流通に関するものです。特に、中小規模の薬局様は仕入れの交渉力が弱く、薬剤を割高で購入している場合がございます。また、在庫管理が十分に行き届かず、無駄な発注から不動在庫が発生するケースもございます。そこで、在庫管理と発注を一つのシステムで一括して行える『e-order』というサービスを提供しております。例えば、『この薬を処方される患者様は2ヶ月前から来ていないので、発注を止めましょう』といったことをシステムが自動で判断し、無駄な発注と在庫をなくします。これにより、薬局様の経営が改善され、資金繰りも良くなります。

つまり、この「みんなのお薬箱事業」は、特に調剤薬局の在庫管理を合理化するサービスということです。

みんなのお薬箱事業のKPIとしては、医薬品の流通額に着目しております。医療用医薬品の市場規模は約10.9兆円あり、そのうち薬局向けは約3.8兆円です。私たちはまだその2.1%にしか関与しておらず、こちらも成長の余地が大きいと考えております。不動在庫の問題まで含めると、社会的意義も大きく、薬局様のコストを適正化するという点で、経営改善に貢献する事業です。

流通額が2024年あたりから少し足踏みしています。これは、協業していた医薬品卸様との取引を仲介してくださっていた会社様の経営状況が厳しくなり、取引の仕組みを変更せざるを得なくなったためです。約1年間、新規の営業活動を停止していた時期がございまして、その影響で店舗数の伸びが鈍化し、流通額も横ばいとなっておりました。しかし、現在は新たにE-BOND社と提携し、二次卸としてサービス提供体制が整いました。今年度は再び新規店舗を増やし、流通額も伸長していく見込みです。

 

事業内容 3.基幹システム事業

3つ目の「基幹システム事業」は、薬局様のレセプトコンピューター(レセコン)、つまり診療報酬明細を作成して保険組合に請求データを送るためのシステムや、電子カルテ、薬歴情報の管理システムなど、業務の根幹を支えるシステムを薬局、介護施設、病院、クリニックなどに販売するビジネスです。薬局様の経営を下支えし、経営効率を改善させるための事業と位置づけております。私たちがシステムを提供することで、蓄積されたデータを分析し、患者様向けのコンシューマーデータと組み合わせるなど、新たなサービスの創出が可能になります。国のインフラ的な存在になるためには、このシステム事業は切り離せないと考えております。

お客様は、中小の薬局にこだわっているわけではございませんが、現状はそうなっております。介護施設などでも、服薬記録や介護記録をいまだに紙で運用しているところが多く、そうした現場のデジタル化を支援しております。

こちらの収益モデルも、ストック売上とショット売上です。システムは主にクラウドで提供しておりますので、SaaSのような形で月額利用料をいただくのがストック売上です。初期の導入費用がショット売上となります。この事業は、M&Aによって取得した事業が多いのが特徴です。医療業界のシステムは古くからあるものが多く、レガシー化しているケースも少なくありません。そうした会社様に我々のグループに加わっていただき、システムを更新してクラウド化するなど、お客様の利便性を高めることで売上を伸ばしております。

病院向けの薬歴管理システムなどは、一度導入すると乗り換えにくいです。データがそのシステムに蓄積されていきますので、事業ごとグループに加わっていただく方が効率が良いのです。今期は、国の施策である電子処方箋への対応で特需がございました。この対応機能をレセコンに導入すると補助金が出るため、多くの薬局様で導入が進み、ショット売上が伸びました。

 

経営資源・競争優位性

メディア事業が一番の根幹です。患者様が直接利用するサービスですので、薬局様から見ても『患者が集まっているのは、くすりの窓口だ』ということになり、他の基幹システムなども導入していただきやすくなる、という波及効果がございます。

処方箋の市場は非常に大きいですが、実は、この分野にはそれほど多くの競合がいません。やはり、利用できる薬局が少ないと、患者様にとっての利便性が損なわれるためです。大手の調剤薬局様が自社チェーンでしか使えない独自のアプリを提供している例はございますが、家の近くと会社の近くで薬局を使い分けたい、といった多様なニーズに応えるには、多くの薬局で使える当社のサービスに利便性がございます。また、アプリの開発・運用には相応の投資が必要です。ユーザー動向や国の施策を追いかけながら新機能を追加していくには、しっかりとした開発チームが不可欠です。当社の事業全体で得た収益を開発に再投資できるため、他社様のアプリとはサービスの発展性で大きな差がついてきているのではないかと考えております。

国の政策、例えば、診療報酬の改定などで影響を受ける場面もございますが、国としては医療費を抑制したいという大きな流れがございます。そのために薬局経営の効率化が求められると、デジタル化を推進しなければならない、という結論になりますので、我々にとってはむしろ追い風となります。『もっとアプリなどを使って薬局経営を効率化しなさい』という国の後押しがある、という構造です。

 

連結業績

2025年3月期は、売上高が111億円と、前期の87億円からプラス28%となりました。売上総利益は64億7500万円と、前期の49億3200万円からプラス31%ということで、売上の伸びとほぼ比例する形で粗利益も増えております。営業利益につきましても19億5300万円と、前期の13億7000万円からプラス43%となり、売上高から営業利益まで順調に伸長いたしました。前期につきましては、ショット売上において、基幹システム事業の部分でやや特需がございました。その好材料を除いても、当社が一番重要視しておりますのはストック売上ですので、そのストック売上が引き続き伸長している点は、自分としても非常に良くできていると評価しております。今回の決算に関しては、子会社の吸収合併に伴う税効果会計の影響があり、当期純利益がやや大きめに出る決算でした。

営業キャッシュフローが53億円ほどのマイナスでした。これは『みんなのお薬箱事業』における仕入れのサポートサービスが関連しておりまして、その取引スキームの変更によって、会計上の数字が大きく変わったという背景がございます。非常にシンプルに申し上げますと、これまでは、調剤薬局様からお預かりしたお金を医薬品卸様に支払うまでの期間が長く、その分が未払金として計上され、結果として手元に多くのキャッシュが残る状態でした。契約によって様々でしたが、未払金は100億円近い規模になっておりました。正確に申しますと、早めにお預かりしているお金が70億円ほどありました。加えて、多額の支払いを間違いなく行うため、資金繰りに余裕を持たせる意味で短期間の借り入れも行っておりました。今回のスキーム変更で、その両方が必要なくなり、借り入れを返済し、未払金も解消されました。その結果、数字上の出入りとしてマイナス53億円のように見えております。しかし、この一時的な影響を除いた実質的な営業キャッシュフローは20億円以上のプラスとなっております。また、借入金もほぼゼロとなり、無借金経営となりましたので、財務はむしろ健全化しております。もともとその借入金も、月末に数日借り入れるといった短期の運転資金だったのです。つまり、現在は調剤薬局様から代金をお預かりしてから、すぐに卸様へ支払うように、その期間が非常に短くなったということです。加えて、支払日が安定したため、一時的な借り入れをする必要もなくなり、確実にお預かりして、確実にお支払いできる体制になりました。従いまして、ビジネスの実態が変わって資金繰りが悪化したということでは全くなく、あくまで支払い条件の変更に伴う会計上の見え方の変化です。ご心配いただく必要はございません。むしろ、今後は実態がより見えやすくなると考えております。

 

2026年3月期 業績見通し

2026年3月期は売上高123億円、営業利益22億円という目標を掲げております。その前の年度も同様でしたが、発表するガイダンスとしては、堅実な数字を出すようにしております。一度発表した予算を下方修正することは、やはり好ましくないと考えておりますので、そのような方針で作成しております。また、前期の特需がございましたので、その影響を除きますと、売上高で15%増、営業利益で33%増となり、実質的には高い成長率となります。私たちが目指しておりますストック売上も順調に増加していきますので、こういった数字になっていくと見込んでおります。また、当社の事業は『医療イノベーションと営業力』の掛け合わせで成り立っております。しっかりとした営業部隊がおりますので、事業が崩れにくく、手堅いのが特徴です。世の中で増収増益を続けている企業様を拝見しますと、営業力が強い会社が多いように感じます。例えばキーエンス様のような代表格がございますが、そこまでとはいかなくても、やはり営業力がしっかりしている会社は着実に成長していく傾向があり、当社もそれに近い構造になっております。サービスの開発があり、それを営業が展開する。そして営業が現場で今必要とされている情報を集め、それを開発にフィードバックするというサイクルを回しております。新しい調剤薬局様の開拓、顧客ニーズの吸い上げとプロダクトへの反映、そして別サービスのクロスセルといった活動ができる営業部隊が、当社の強みです。

 

中期経営計画

中期経営計画において、2030年3月期にストック売上200億円、営業利益50億円という目標を掲げております。今この瞬間から見ると、まだ倍以上あるように思われるかと存じます。しかし、前期を含む過去5年間の年平均成長率は、売上高で32%、営業利益で42%でした。もちろん、事業規模が大きくなるにつれて成長率は多少鈍化するフェーズもあるかと存じますが、目標達成に必要な成長率は売上高で23%、営業利益で21%です。ターゲットとなる処方箋の枚数が非常に多く、まだシェアが1%強ですので、シェアが倍になったとしても、まだ2~3%という話です。

顧客基盤もますます拡大させていき、10万施設を目指します。調剤薬局様だけですと約6万施設ですので、それ以外の病院、クリニック、介護施設もターゲットとして、合わせて10万施設を目指していきます。

 

資本政策

2025年3月末の株主様から、初めて配当を実施いたします。やはり上場企業として、投資家の皆様にお応えするためというのが理由の一つです。また、現在、成長しながらもキャッシュフローがきちんとプラスでできておりますので、それを還元するという方針で決定いたしました。今回は一株あたり27円と、配当性向(15%)としてはまだ高い水準ではないかもしれませんが、成長への投資と配当のバランスを考慮し、この水準で設定しております。配当利回りにしますと、1.1%程度になるかと存じます。

2025年5月14日にIRで発表いたしました「上場維持基準への適合に向けた計画」についてです。基本的にはほとんどの基準を満たしておりますが、流通株式比率がわずかに基準を満たしておりません。基準を満たすべく、私以外の複数の大株主様にご協力いただき、本来は適合するはずでございました。しかし、蓋を開けてみますと、私たちが存じ上げない事業会社様が株式を保有されており、会社側から『これは純投資ではないのですか』と確認をしましたところ、『純投資ではありません』とのご回答で、結果として不適合となってしまいました。想定外の事態ではございましたが、未達の幅はわずかですので、調整は可能であり、ご心配いただく必要はございません。

流通株式比率を高めるということは、純投資や短期的な保有を目的とする株主様をもう少し増やす必要がある、ということです。

上位の大株主として、NBSEヘルステック投資事業有限責任組合、株式会社EPARK、SBIイノベーションファンド1号など、比較的固定的な株主様がいます。

まず、筆頭株主のNBSEヘルステック投資事業有限責任組合は、私が代表を務めており、フリービット社から独立する際に設立した組合です。フリービット社から株式を買い取る際に、複数の投資家の皆様にご出資いただき、設立したという経緯がございます。

株式会社EPARKは、当社のサービスの元々の始まりである会社です。

SBIイノベーションファンド1号様は、SBIグループが保有されているファンドで、外部の投資家はおらず、SBI様の自己投資、あるいは関係の深い事業会社様と事業提携的な形で出資されるファンドであると伺っております。

ですので、ファンドのような名称の大株主が2社ございますが、一般的にイメージされるような、株価が上昇したら少しずつ売却していく、といった株主様ではなく、事業と密に連携して一緒に取り組んでいる大株主であるとご理解ください。

今後、流通株式比率を高めていく上では、これらの株主様が一部株式を売却されるといったことも起こり得ると考えております。そうでなければ、なかなか流通比率は上がりません。一般の株主様にとっては、流動性が向上し、出来高が増えやすい方が望ましいかと存じますので、70%以上が固定株主という状況は、中長期的にはあまり好ましくありません。ここはいろいろと方策を立てて、変更していくことを考えております。

アプリのユーザー様の中には、アプリだけでなく、くすりの窓口の株式も保有したい、という方も出てくるでしょうから、そういった株主様に長期で応援していただくのが一番良い形です。

 

投資家の皆様へ

当社は、この国で増大していく医療費を効率化し、また、患者の皆様にデジタルサービスを通じて利便性を高めていただくことを目指し、日々事業に取り組んでおります。 どうぞ皆様、長期にわたってご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

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