フルサト・マルカホールディングス(7128) 古里社長にインタビュー!工場を持つ商社の「新たな価値」提供が、もの作りの未来を変える!
【7128】フルサト・マルカホールディングス
| 開催日 | 2024年 10月 07日 |
| 出演 | 古里 龍平 代表取締役社長 |
フルサト・マルカホールディングスの古里社長に会社の強みについてインタビューしました。
フルサト・マルカホールディングス スローガン「その手があったか」を次々と。
「その手があったか」という言葉は、フルサト・マルカホールディングスの経営理念と共通の価値観、そして両社のDNAを表すコーポレートスローガンです。これは、3年前にフルサト工業とマルカが経営統合した際に新たに作られました。
このスローガンが生まれた背景には、「顧客が今すぐに欲しいものだけでなく、まだ自らが見出していない価値もあるのではないか」という考え方があります。私たちは、お客様それぞれの価値を深く理解し、様々な提案を通じて「その手があったか!」と感動していただきたいと願っています。
一般的に、卸売業や商社は「右から左へ物を届けるだけ」というイメージを持たれがちです。私自身も元銀行員で、家業であるフルサト工業(メーカー機能も持ち、商社機能も持つ会社)に戻った当初は、商社機能に付加価値を感じませんでした。むしろ、「なぜこの国に卸売商社が存在するのか」と疑問に思っていたほどです。しかし、まさか自分がその卸商社の社長になるとは思ってもみませんでした。この経験から、卸売商社はもっと価値を創造し、「マーケットイン」という考え方を定着させなければ生き残れないという危機感を常に抱いています。
お客様へ最適な価値を届けるために
フルサト・マルカホールディングスのお客様は多岐にわたります。お客様のニーズは大きく分けて3つの段階があると考えています。
ブランド・品番が特定できているお客様
例えば、製造業のお客様で、常に同じ作業を行う場合、必要な工具や部品のメーカーや型番が明確です。このようなお客様は「早く正確な量を手元に欲しい」という価値を重視されます。ネット販売はこのニーズを満たす上で非常に有効です。
欲しいカテゴリーが分かっているお客様
ゴルフのショートパンツを探す際のように、カテゴリーは分かっていても種類が多すぎてどれが良いか分からない、といったケースです。早く届くことよりも、詳細な情報が付加され、その中から選びたいというニーズがあります。かつてZOZOが提供したZOZOスーツのように、詳細な情報提供に価値があると言えるでしょう。
適した品物が分かっていない、必要性を認識していないお客様
「家具の足が折れたが、どう修復すれば良いか分からない」「ドアの滑りが悪いが、何をすれば良いか分からない」といった状況です。このような場合、顧客は「行いたい行動」は分かっていますが、「解決策」が分かりません。ネット販売では解決が難しく、詳しい人からの提案が必要です。
さらに、世の中に存在することさえ知られていない商品も多くあります。例えば、「ドリルが欲しい人」は、究極的には「穴を開けたい」のであり、ドリルが最良のソリューションとは限りません。レーザーで穴を開けることも可能です。従来のやり方に固執していると、生産性やコスト競争力が低下してしまいます。
お客様と接していると、「この工場はもっとこうすれば良くなるのに」と感じるケースが多々あります。日本の企業は保守的な傾向があり、新しい技術やテクノロジーに興味を示さないことも少なくありません。このような企業や工場には、単に商品を早く届けるだけでなく、課題を発見し、解決策を提案することに大きな価値があるのです。
ネット通販の価値もあれば、私たちのような提案型営業の価値も間違いなく存在します。新しい課題解決方法を提案し、お客様に「その手があったか!」と言っていただき、それを導入することで生産性が向上する。これが私たちの使命であり、合言葉です。単に物を届けるだけでなく、付加価値を提供することこそが、私たちの存在意義だと位置付けています。
最適な価値提供の例「フルブレース」(自社製造製品)
当社が誇る特徴的な製品の一つに、鉄骨建築に使われる耐震構造用資材「フルブレース」があります。この細長い部材は、鉄道の駅舎、遊園地、自転車置き場の屋根など、目に見えないところで数多く使用されています。
地震が発生すると建物は揺れ、正方形の屋根面がひし形に変形するような力がかかります。その際、ブレースが引っ張りながら建物の変形を抑える役割を果たします。さらに、その力を超えた場合、ブレースは鉄製でありながら最大16%程度伸び、地震エネルギーを吸収して建物の倒壊を防ぐのです。人命を守り、建物の変形を防ぐこの役割は、地震大国日本において不可欠なものです。
体育館の天井などでもよく見かけられるように、ブレースは多くの場所に存在します。体育館は避難場所となるため、非常に高い耐震性能が求められ、大量のブレースが使用されます。また、仮設住宅の構造にも一般的に使われており、大規模災害時には全従業員を動員し、短期間でブレースを供給するという社会的な役割も担っています。
フルブレースは、全国9ヶ所の自社工場で製造されています。ブレースは重量があり、6~7メートルにもなる長い製品もあるため、需要地の近くで製造し、迅速に供給することが重要です。これにより、万一の地震で一つの工場が停止しても、他の工場でカバーできる体制を整えています。
このブレースの中心にある輪っか状の部品は「ターンバックル」と呼ばれ、左右で逆ネジが切られており、回すと伸び縮みします。元々、私の祖父が大阪市内の小さな鍛冶屋でこのターンバックルを製造し、地方の鉄骨建築業者に提供していました。当時は、鉄骨建築業者が自ら長い右ネジと短い左ネジを作り、それをセットしてブレースとして使用していました。
しかし、私の父がこのターンバックルの販売だけでは面白みがないと考え、ブレースをシステム化して製造できる仕組みを構築しました。寸法が多様なカスタムメイド品にも対応できるよう、一定間隔で素材を揃え、即納できる体制を整えたのです。これにより、お客様が「ブレースはターンバックルを購入し自分で作るもの」と思い込んでいた常識を打ち破り、「ブレース」を提供する形に変えていきました。
この革新は、お客様の手間を大幅に省き、また製品の品質を一定化するために業界に先駆けてJIS規格を取得しました。誰もが安心して、一定の性能が保証されたブレースを使えるようにしたことで、お客様にも喜ばれ、当社の発展にもつながりました。ちなみに、「フルブレース」は当社の商標であり、フルサト工業のブレースという意味に加え、「フルに引っ張る・抱きしめる」という意味も込められています。
私たちは、ユニークなシステム化のDNAを元々持っていたと言えるでしょう。現在も、従業員一人ひとりが様々なソリューションを考え、お客様に提供しています。
2021年10月1日フルサト工業 マルカ 経営統合 技術商社としてのプレゼンス確立
2021年10月、フルサト工業とマルカは経営統合し、フルサト・マルカホールディングスという純粋持株会社が誕生しました。この統合は、偶然の出会いから始まりました。2021年から遡ること約3年前、マルカはフルサト工業の近くに本社を移転し、ご近所さんになったのです。当時のマルカの社長と副社長が挨拶に来られ、これをきっかけに「何か協業できないか」と検討を始めました。
1年間かけて相互の事業を調査した結果、両社の事業がほとんど重複しておらず、非常に強い相互補完関係にあることが判明しました。それぞれの強みと弱みが互いにオフセットできる関係だと分かり、私の方から経営統合を提案しました。マルカ側は当初そこまで考えていませんでしたが、議論の末、3ヶ月後に統合が決定しました。まさに「そんな相手がいたのか!」という偶然を感じる出来事でした。
フルサト工業の強みは、建築資材、配管資材、そして子会社のジーネットが扱う機械工具など、比較的小さな商品群の積み重ねです。小さなボルト一本からでも数円の利益を積み重ねていくため、業績が比較的安定しています。景気の変動に左右されにくく安定した収益を上げやすいのが特徴です。
一方、マルカの強みは、工作機械やプレス機械、射出成形機といった非常に大きな生産材が中心です。こちらは設備投資連動型であるため、業績の上下が大きくなりがちでした。両社が一緒になることで、互いの事業特性を補完し合い、グループ全体の業績を安定させることが可能になりました。
また、海外展開においても相互補完が明確です。フルサト工業は2000年にジーネットに出資した際、海外事業から一時撤退した経緯がありましたが、マルカは海外28拠点に及ぶ強力なネットワークと、機械販売だけでなくメンテナンスまで行うエンジニア部隊を有しています。このマルカの海外チャンネルを活用することで、フルサトの工具や消耗品をグローバルに展開する大きなチャンスが生まれました。
私たちは「プラットフォーム戦略」と呼び、製造業を中心としたお客様の満足を得るために必要な機能を常に描き、M&Aをそのための手段として活用しています。お客様は製造業の工場や建設現場をイメージしていただければ良いでしょう。
例えば、2000年にジーネット(機械工具卸商社)を100%子会社化した際、当時の卸商社はプロダクトアウト(自分たちが売りたいものを売る)の考え方が主流でした。しかし、本当のユーザーニーズを知らずに機械工具を販売するだけでは将来はないと考え、マーケットイン(お客様のニーズから出発して提案する)の考え方を徹底している中部圏の自動車産業向け商社を買収し、そのノウハウをジーネットに移管していきました。お客様の課題解決に貢献し、「ありがとう」と言われるような行動こそが、私たちの目指す姿です。
理念体系
フルサト・マルカホールディングスのコーポレートスローガンは「その手があったかを次々と。」です。お客様が気づいていない感動につながる提案をひたすら行い、お客様が「フルサト・マルカホールディングスと付き合っていると、なぜか『その手があったか!』と言ってしまう」ような存在でありたいと願っています。
そして、その提案を通じてお客様が「こんなに良いものがあるんだ」「まだまだ叶えることができるんじゃないか」と感じ、社会が進化していくことを目指しています。これが私たちの未来ビジョン「この世の中に叶えたいという言葉が溢れている社会」です。
私たちのミッションは「感動提案で今を開き変化の先まで伴走する」。お客様の立場に立って感動を呼ぶ提案を考え、お客様の変化を促し、その変化の先まで共に走り続けることが、私たちの果たすべき使命です。
売上高推移 ・セグメント別収益
2022年、2023年の売上高はそれぞれ1624億円、1729億円と推移し、2024年12月期は若干減収の1632億円を計画しています。現在、特に工作機械の受注がダウントレンドにあり、トップライン(売上)は下がる見込みですが、私たちは中期的な受注トレンドの変動は避けられないものと捉えています。受注が少ない中でも、着実にやるべきことを実行し、将来につなげていくことが重要だと考えています。
当社には4つのセグメントがあります。
機械工具セグメント
機械工具セグメントは、当社で最も大きなセグメントであり、全体の65%を占めています。フルサトグループとマルカグループが統合したことで、このシェアはさらに拡大しました。売上全体の約6割を占めるこのセグメントは、主に以下の事業で構成されています。
機械販売
産業機械、産業用ロボット、マザーマシンと呼ばれる工作機械、プレス機械、射出成形機などを販売しています。単体での機械販売だけでなく、生産ライン全体の構築と販売も手掛けており、近年ではこのライン販売の比率が高まっています。ライン構築には高い専門性が必要とされ、単に機械メーカーが保証するだけでなく、当社がライン自体を保証しなければなりません。そのため、社内には図面を理解し、メンテナンスもできるエンジニアがおり、このような体制を整えているからこそ、ラインの受注が可能となっています。機械販売の主な販売先は、国内、北米、アジア(一部中国を含む)と、当社のフィールド全般にわたります。一方、工具販売はマルカがこれまで手掛けていなかったため、現在は国内が中心ですが、今後は海外のマルカチャネルを活用し、販売を拡大していく予定です。
機械製造
当社の関連会社が洗浄機、フォーミングマシン、食品加工機械などを製造しています。
洗浄機:工作機械で部品を削る際に付着する切削油や削りカスを洗い流すための機械です。
フォーミングマシン:鉄などの材料を様々な形に変形させる機械です。当社のグループ会社であるTSプレシジョンが製造するフォーミングマシンは、EV(電気自動車)向けのモーター内部にあるステーターコイル製造において、高い優位性を持っています。昔のモーターは銅線を巻いて電流を流していましたが、現在の高出力モーターでは銅のプレートを曲げたものが使われており、その製造に当社の技術が活かされています。機械製造の販売先は国内、北米、アジアと多岐にわたり、自動車産業のほか、半導体製造装置向け、食品機械など、幅広い分野にまたがっています。
この機械工具セグメントは、売上高全体の65%、営業利益でも同程度の65%を占めています。
建設資材セグメント
次に、建設資材セグメントについて説明します。
鉄鋼資材販売
鉄骨造の建物を建てる際に必要な資材や工具類を、鉄骨の骨組みを加工する「鉄骨ファブリケーター」と呼ばれる業者に販売しています。主要な材料である鋼材自体は販売しませんが、ボルト、機械工具、建築金物など、それ以外のあらゆる部材を取り扱っています。
例えば、ビルなどの鉄骨の柱と梁を締結する構造用ボルトであるハイテンションボルトは、国内の流通シェアでトップを誇っています。建設現場や鉄骨加工工場へこれらの製品を届けています。
配管資材販売
工場の配管や建築物の配管に必要な継ぎ手、バルブ、パイプなどを配管プラント業者に販売しています。
住宅設備販売
ユニットバス、システムキッチン、衛生機器、給湯器、エクステリアなどの住宅設備をメーカーから仕入れ、工務店やリフォーム業者に販売しています。また、この分野では自社でもリフォームを手掛けており、ホームオーナーや事務所オーナーから直接工事を受注することもあります。
建設資材セグメントは、売上高全体の約27%、営業利益の約34%を占める、かなり大きなセグメントです。
建設機械セグメント
3つ目のセグメントは建設機械です。売上高全体に占める割合は5%ほどですが、大型のクレーンなどが主力商品です。当社の主力製品としては、コベルコ建機製のクレーンやショベルなど、建設現場でよく見かける大型の建設機械があります。
IoTソリューションセグメント
4つ目のセグメントはIoTソリューションです。現時点では売上規模は大きくありませんが、今後の成長において非常に重要な要素になると考えています。当社の最大のマーケットである機械工具セグメントの最終エンドユーザーは日本のモノづくり企業です。現在、製造現場ではIoT(モノのインターネット)による変革が進んでいます。機械をインターネットに接続し、製造現場からデータを吸い上げてサーバーで解析し、効率的な製造を現場に指示するためにデータを送る、といった「スマートファクトリー」という考え方が普及しつつあります。これにはITやIoTに関する専門的な知見と技術的なバックボーンが必要です。残念ながら、そのような知見を持つスタッフはなかなか見つかりませんでしたが、このIoTソリューションセグメントを構成するセキュリティデザイン社は、元々監視カメラや入退室管理システムの販売・請負を手掛けていた会社です。そのため、インターネットを活用したデータ通信やソリューション開発に関するノウハウと知見を持っていました。
当社はそのセキュリティデザイン社の知見を活用し、これまで十分に対応できていなかった日本のモノづくりにおけるIoT化、すなわちスマートファクトリー化を支援していきたいと考えており、このセグメントをさらに強化していく方針です。
強み・特徴
ここからは、当社の強みであるユニークなソリューションについて、具体的な事例を交えて説明します。当社のロゴにもなっている「ユニソル」という言葉は、当社が大切にしている「ユニーク」という考え方から来ています。これは、「他の人が考えつかないような、他に類を見ないような」という意味合いです。この「ユニーク」というワードと「ソリューション」というワードを組み合わせた造語が「ユニソル」です。
コーポレートブランドやマークも、ユニークの「ユニ」と、感嘆符付きの「ソリューション」で構成されています。この感嘆符がポイントで、「その手があったか!」という驚きを表しています。また、ロゴの黄色は、色の中でも一番明るく楽しい色であり、ラテン語で太陽を意味する「ソル」にも通じています。明るくユニークなイメージでこのマークを作成しました。日本の企業ではあまり使われないショッキングイエローをあえて使うことで、「我々はユニークである」というメッセージを表現しています。
それでは、そのユニークなソリューションの実例を3つご紹介します。
二条城本丸御殿の耐震補強「コラムカプラ」
京都の二条城本丸御殿は、阪神淡路大震災で建物が損傷し、耐震性が確保できない状態でした。重要文化財であり歴史的価値の高い建物であるため、修復には細心の注意が必要でした。特に木造建築であるため、鉄骨で補強しなければなりませんでしたが、木造部分を残しながら鉄骨で補強するという困難な課題がありました。通常の鉄骨の柱と柱の接合には溶接が必要ですが、御殿内での溶接作業は火災のリスクがあるため不可能です。そこで、当社は溶接なしでボルト締結するコラムカプラを提案しました。木造部分の横に鉄骨の補強材を追加し、耐震性能を維持することができました。この補修により、これまで安全上の理由で立ち入りが制限されていた箇所も、現在では一般公開されており、多くの方が見学できるようになっています。完成時に私も見学に行きましたが、当社の技術がこのような歴史的建造物に貢献できたことを誇りに感じました。
スマート畜産管理システム「ユニ-モウ」
ユニ-モウは、肉牛の分娩(出産)ステージをAIカメラが認識し、最終段階になると酪農家をスマートフォンで呼び出すシステムです。肉牛の出産にはいくつかのステージがあり、最終的に子牛が生まれるまでの過程は長時間にわたります。酪農家の高齢化が進み、人手不足の中、出産に付きっきりで監視することは大きな負担です。ユニ-モウは、AIが分娩の兆候を検知し、専用アプリにメッセージと画像を通知することで、安全な分娩をサポートします。もし異常があった場合はアラートを発することも可能です。このシステムは、酪農家の負担を軽減しながら、安全な分娩を確保することを目的に開発されました。本システムは、京都大学農学研究科への当社の寄付研究の成果物であり、当社が販売しています。大規模な酪農家を中心に導入が進んでおり、特に食肉用の牛は単価が高いため、出産に失敗すると大きな損失につながります。そのため、酪農家にとってユニ-モウは「保険」として導入されるケースが多く、地域によっては補助金が適用される場合もあります。日本の地方における労働力不足の問題解決に貢献できると考えています。
現在、ホルスタインの分娩パターンも分析中で、ビッグデータとして読み込ませています。ホルスタインはミルクを出すために出産を繰り返す必要がありますが、最近では肉牛の受精卵をホルスタインに埋め込み、肉牛を産ませることで、牛乳と肉牛の両方を生産する研究も進められています。このような背景から、ホルスタインの分娩兆候管理と安全分娩確保も非常に重要になってきており、当社はAIにそのデータを学習させています。
橋梁補修用レーザーケレン
レーザーケレンは、ファイバーレーザーを照射して錆や塗装面を剥がしていく技術です。従来の錆取り作業は、研磨機で削ったり、スチールブラシで擦ったりする必要がありましたが、レーザーケレンはファイバーレーザーを照射するだけで、錆や塗料を飛ばして除去します。橋梁の錆は放置すると腐食が進み、落下の危険があるため、定期的な除去が必要です。しかし、塗料を剥がしてから錆を除去するという二段階の作業が必要で、非常に手間がかかっていました。この高出力レーザーケレンは、一部では塗料と錆を同時に除去することも可能で、作業スピードが格段に向上します。また、機械は背負えるほどコンパクトにできており、橋桁の上など、高所での作業も容易になりました。今まで人力で削っていた作業が短時間で可能になり、非常に高い評価を得ています。電力会社の鉄塔補修など、様々な分野での活用が研究されています。決して安価な製品ではありませんが、危険度、時間、体力といったコストを考えると、非常に価値の高い製品であると考えています。
中期経営計画
当社の成長戦略と中期経営計画について説明します。
現在の中期経営計画は2026年12月末で終了します。この計画を策定するにあたり、まず「10年後のあるべき姿」として、2032年に売上高4,000億円、営業利益200億円という目標を掲げ、これを意識共有しました。
現在の5か年中期経営計画(2022年~2026年)は、以下の段階で進められています。
最初の2年間(2022年~2023年)は、コロナ禍の混乱からの回復と、統合した事業の整理・安定化をテーマとしました。この間に、様々なビジネスのシーズ(種)を仕入れたり、新しい取り組みをスタートするための準備を進めたりしました。
セカンドステージ(2024年~2026年)は、これまで当社が考えて取り組み、準備してきたことの「成果を得る時期」と位置付けています。成長を加速させることを目標としています。まさに現在、このセカンドステージの後半3年部分にあります。数字面では苦労している部分もありますが、中期経営計画で決定したやるべきことを徹底して実行していく方針です。
現在進行中の中期経営計画「ユニソル」(2022年〜2026年)では、2026年12月期に売上高2000億円、営業利益100億円、ROE 8.5%を目標としています。2024年12月期は一旦苦戦するものの、2026年に向けて上昇していくと見込んでおり、そのための取り組みは着実に進行しています。
今年の財務資本戦略については、従来の保守的な考え方から脱却し、より前向きで積極的な姿勢へと大きく変更しました。配当については、従来の配当性向から株主資本に対する配当率(DOE)3.5%を中期的な目標としました。これにより配当の安定化を図るとともに、次期中期経営計画中には必ず3.5%にしたいという思いから、足元からは累進で配当額を増額していく方針です。つまり、業績に左右されず、少なくとも横ばいか、基本的には増配を考えています。
また、2024年12月期には特別配当や自社株買いも実施しています。政策保有株式(持ち合い株)の解消を進め、その売却益の一部を株主還元として特別配当で還元します。今期は普通配当と合わせて1株あたり107円の配当を想定しており、株価2300円(収録日時点)で計算すると、4%を超える高い配当利回りとなります。さらに、期間内に合計151万株(発行済株式総数の約6%)の自己株式取得も行っており、これは現金という資産の有効活用であり、積極的な株主還元姿勢を明確に示すものです。これらの財務戦略は、機関投資家の方々から高い評価をいただき、株主でもある友人からも感謝されました。
さらに、株主優待も変更しました。従来のカタログギフトから、より使いやすいクオカードへと内容を変更し、3年以上保有している長期保有の株主には増額して提供します。配当金が増え、優待も改善されたことで、株主様への還元を強化しています。
成長戦略
2026年、そして2032年に向けて大きな成長を遂げるためには、社会が抱える様々な課題を解決していくことが不可欠です。私たちが注目している社会課題は、以下の通りです。
少子高齢化・人手不足・事業承継問題: 国内の労働力不足は深刻であり、製造現場や建設現場では増産できない、工期が長引くといった問題が顕在化しています。このままでは日本のものづくりが衰退し、国力維持も国民の満足も難しくなります。
安心安全・快適な社会へのニーズ: 働く人々が安心して、安全で快適な環境で働けることが求められています。
これらの社会課題に対し、私たちはどのような価値を提供できるのかを常に考えています。少子高齢化や人手不足、事業承継といった社会的な課題に対し、安心・安全・快適な社会を実現するようなアクションを我々が起こしていく必要があります。
具体的には、これまで人によって管理されていたものをシステムで管理することです。例えば、これまでネットワークに繋がっていなかった機械の管理を、人の勘と経験に頼って行っていました。これを、機械をインターネットに繋ぎ、遠隔でモニタリングしながら制御できるようにします。これにより、機械のスペシャリストの数を減らすことができるでしょう。例えば、一人のスペシャリストが複数の工場を遠隔から管理することも可能になります。機械の振動や異常音をセンサーでモニタリングし、異常信号を早期に検知することで、故障する前にメンテナンスを依頼する、いわゆる「異常予知」が可能になります。これにより、機械の稼働率を高めることができます。このように工場を近代化、すなわちスマート化することによって、製造現場を持続させ、さらに発展させることが可能です。直接的な人員は増えなくても、少ない人数でこれまでと同様の作業を行うことができるようになります。
省人化という点で最も早く変化しているのはロボット化です。製造現場でのロボット化は、単にロボットが動くだけでなく、協働ロボットのように人の隣で作業するロボットも登場しています。従来のロボットは危険であるという認識から、柵を設けて人が立ち入らないようにしていましたが、協働ロボットは小さな衝撃を受けると自動で停止する機能があるため、柵なしで人の隣で作業することが可能です。
このような自動化の提案を積極的に行うことで、省人化対応、事業承継対応、そして安心・安全・快適な作業環境の実現を工場内で具現化できると考えています。我々がアンテナを張り巡らせて様々な情報を得て、それらを組み合わせることで、社会課題を解決するアドバイスや提案を行い、それが当社の付加価値に繋がるでしょう。
制御技術の簡素化について説明します。例えば、自動車部品を作る場合、まず部品の図面をCADで作成します。次に、その図面を見ながら、コンピューターで動く工作機械のプログラム(Gコード)を作成します。このプログラムは、どのような順番で、どの刃物を使って、どこを削るかといった詳細な手順を記述するものです。熟練した技術者や経験豊富な方でなければ、図面を読めてもGコードのプログラムを作成することはできません。また、初心者が作成したプログラムでは、生産効率が低く、無駄な動きが多い場合があります。
しかし、現在当社が販売しているアルム社が開発したAIソフトウェア「アルムコード」は、3次元CADの部品図面を読み込ませるだけで、工作機械を動かすプログラミングが自動で生成されます。AIが最適な加工手順をプログラム化してくれるため、プログラム生成という工程が不要になり、作業効率が格段に向上します。アルムコードはクラウド上で運用可能であり、例えば東京で図面を作成した方がアルムコードでGコードを生成すれば、それを地方の工場に送るだけで、その工場の機械が動き出すわけです。当社はアルム社と協力し、さらに全自動化を目指しています。これにより、経験豊富な職人さんが手順を考え、別の人がコードを入力していた作業が、瞬時に行えるようになります。
もちろん、熟練技術者の経験値は非常に大切ですが、一般的な図面からプログラム化する作業であれば、AIに任せた方が効率的だという時代になっています。
お客様への提案では、システムに詳しい方はすぐに導入を検討されますが、コンピューターに不慣れな方は最初戸惑われることもあります。しかし、10年後には人が工作機械のプログラミングをするケースはほとんどなくなり、このAIソフトウェアがどの工場でもスタンダードになっているでしょう。
制御技術の簡素化だけでなく、「繋ぐ」ことと「見える化」もこれからの工場には不可欠です。機械を繋ぐことで、遠隔での制御、データ取得、そしてそのデータに基づいた加工指示が可能になります。複数の工場を持つ企業にとって、遠隔でそれぞれの工場の稼働状況をコントロールすることは非常に重要です。どの工場の稼働が高いのか低いのか、その原因は何なのかを機械からのデータで吸い上げて改善に繋げることができます。
また、「見える化」は、特にサステナビリティの観点から不可欠な考え方です。上場企業にはTCFDの基準に基づきサステナビリティレポートの提出義務があり、Scope1(自社での燃料使用)とScope2(電力使用)をいかに最小化し、カーボンニュートラルに持っていくかが求められています。そのためには、まず「どれだけ使っているか」「なぜ使っているか」を把握しなければなりません。例えば、電力の見える化では、分電盤に機器を取り付け、Wi-Fiを通じてどの機械がどれだけ電力を使っているか、どのような形で動いているかをデータとして取得できます。これにより、同じ機械が複数台あっても、なぜか一台だけ電力使用量が大きいといった異常を検知し、原因を特定して対策を打つことができます。「見える化」は、対策を講じるための最初のステップです。電力だけでなく、工場内の空気(エア)も見える化が必要です。工場では、機械が電気だけでなく、圧縮空気で動いていることも多くあります。圧縮空気は電気を使ってコンプレッサーで生成されますが、このコンプレッサーが使用する電力は、工場内で使用される電力のおよそ4分の1から3分の1を占めます。これは、電気というエネルギーから圧縮空気というエネルギーへの変換ロスが生じるためです。また、圧縮空気の配管から空気が漏れると、その分余計な電力を消費してしまいます。そのため、空気の流れを可視化し、圧力を下げることで消費電力を削減できます。無駄をなくし、必要に応じて局所的に圧力を上げる機器を導入することで、コンプレッサーの消費電力を劇的に下げることが可能です。
このように「見える化」を通じて、電力や空気の無駄を特定し、対策を講じることで、大幅な省エネルギー化に繋がります。当社のIoTソリューションセグメントがこのソリューションを提供し、その結果として省エネ対策の機械販売や工事へとビジネスを繋げていきます。消耗品があればその販売も可能ですし、工場内の工事も当社で請け負うことができます。
このような省電力化、省人化、自動化を通じて、工場をスマート化し、日本の製造業を応援していきたいと考えています。スマートファクトリーの実現はまだ先かもしれませんが、様々な要素を繋ぎながら見える化を進めることで、最終的に日本の製造業の競争力を高めていくことが、当社の究極の目標です。
フルサト・マルカホールディングスは、全国に9ヶ所の自社工場を保有し、また関連会社でも洗浄機やフォーミングマシンなどを製造しています。私たちが自ら製造業であるという点が、大きな強みです。自社の工場も電力削減や圧縮空気の低圧化といった課題を抱えており、私たちはそれを自らのニーズとして捉えています。上場企業として、サステナビリティに対する責任を持ち、環境価値・社会価値と経済価値を両立させる中で、私たちは省エネルギー化や様々な改善策を自社の工場でテスト(POC)しています。例えば、フルサト工業の滋賀工場では、電力の見える化を実践し、そこで得られた知見を商品化しています。自社で工事部隊やIT専門の部署も持っているため、お客様の工場で工事を行うことも、ネットワークを構築することも可能です。これは、他の商社にはなかなかできないことです。工場を持っていない商社は、ものづくり的な発想になりにくく、IT部分も含めて全て外注に頼るため、自社内の知見が向上しにくいという課題があります。私たちは、製造業としての経験、IoTソリューションのセグメント、そしてチャレンジングな社風と商品化能力を兼ね備えている点が、大きな強みであると認識しています。
「その手があったか」というスローガンを意識し続けることこそが、私たちの優位性です。お客様に「その手があったか!」と言っていただくために、私たちは常に新しい提案を考え、実行しています。そのベースとなっているのは、4500社に及ぶ仕入れ先と16000社のお客様との信頼関係です。
最後に
フルサト・マルカホールディングスの事業内容は多岐にわたり、少し分かりにくいかもしれませんが、お客様の現場に寄り添い、製造業の気持ちを理解し、彼らをサポートしたいという強い思いで事業を行っています。今後も「その手があったか」を次々と生み出し、社会に貢献してまいりますので、ぜひ今後の動向にご注目ください。どうもありがとうございました。
