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新薬メーカー業界研究 第2回


新薬メーカー業界研究セミナーの第2回目です。

新薬開発の流れを確認します。

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新薬を開発する場合に、基礎研究が最も大切です。病気に効きそうな化合物を見つけてくるのが開発の肝になります。その基礎研究をサポートする企業なのが、創薬ベンチャーです。創薬ベンチャーは素晴らしい化合物を見つけて、それを新薬メーカーに売ったり、あるいはライセンスをして、特許料をもらうビジネスを行っています。

また、製造プロセスでは、新薬の原薬を作るメーカーが存在します。ダイトなどです。この分野も面白い企業が多いです。販売プロセスでも、医薬品卸や調剤薬局、ドラッグストアなどが関わってきます。新薬メーカーを知ることで、その周辺の関わりのある企業へのイメージを膨らませることも大切です。

次に、臨床試験のフェーズⅠ~Ⅲの違いについて説明します。

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フェーズⅠとは、少数の健康な人を対象に薬を使ってもらいます。そして、安全性の確認や体内動態といって、体に吸収されてから排泄されるまでの確認を行います。次にフェーズⅡaでは、少数の患者さんに使用し、どのような病気や病態に効果があるのかを確認します。フェーズⅡbでは、少数の患者さんに、投与量や投与方法の違いによる効果の比較を行います。最後にフェーズⅢでは、数百人~数千人の患者さんに投与し、薬剤の効能と副作用を詳細に検討します。また、既存の薬と比較した安全性や有効性を研究します。

このことを知った上で、製薬会社の決算資料のパイプラインを見ると、よりよくわかると思います。

続いて特許についてです。

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特許と一言で言っても、たくさんの特許があります。

その中で一番強い特許が物質特許です。これは、成分の構造に関わる特許です。最も重要な特許となっています。

その他の特許は、物質特許に比べると、弱い特許ですが、様々な特許を組み合わせることで、特許をできるだけ引き延ばしていくわけです。

その他の特許としては、まず用途特許があります。既存医薬品の新しい効能や効果を発見した場合です。例えば、爆薬に使われるニトログリセリンを狭心症治療薬に使う場合などは、その用途に特許が取れるわけです。胃潰瘍として今まで使われていた薬に、胃炎にも効果があったと分かった場合も、その新たな用途を追加するわけです。

製剤特許というものもあります。錠剤からカプセル剤など既存の医薬品を新しい製剤によって処方すると有効であると証明したり、薬の吸収を促進するような添加物質に特徴があるときなどに使える特許です。

また、製法特許といって、成分を作るノウハウに関わる特許もあります。

このように様々な特許があるので、新薬を開発した際には、最初に物質特許を取り、しばらくしてから用途特許、終盤で製法特許を取るなどして、一つの化合物に対する特許が切れるまでに、様々な特許を組み合わせてできるだけ特許を引き延ばすようにマネジメントします。そうすることによって、薬の価値をできるだけ長引かせることができるわけです。これが新薬メーカーの戦いです。

新薬の特許が切れて、売上がガクンと下がることをパテントクリフといいます。特許が切れた瞬間、ジェネリック医薬品が出てきて売上が急激に落ちるわけです。

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新薬メーカーの特許対策をまとめます。

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新薬メーカーは、様々な特許を組み合わせることで、特許切れを長引かせます。また、形状変更や効能を追加するなどして、使い勝手を高め、ジェネリックとの差別化を図ってもいます。また、自社グループの別会社でジェネリック化している企業もあります。

新薬とジェネリックを比較してみましょう。

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新薬は開発費に300億円ほどかかりますが、ジェネリックは1億円ほどです。開発期間は新薬が9~16年かかるのに対して、ジェネリックは2~4年です。販売価格は、ジェネリックは新薬の50~70%です。競争状態は、新薬は当然独占ですが、ジェネリックは競合多数です。新薬は特許を取る、あるいは買い取るなどして差別化を図りますが、ジェネリックはコモディティ化するため、大規模化による低コスト戦略となります。

新薬メーカーとジェネリックメーカーの粗利率を比較すると、新薬メーカーの方が高くなっていますが、それほど大きな差はありません。

今後注目されてくるのは、非常に構造が複雑な医薬品であるバイオ医薬品だと考えられます。そして、バイオ医薬品のジェネリックはバイオシミラーと呼ばれることも知っておくといいでしょう。

業界の特徴をまとめます。

新薬メーカー業界は、国内市場は成熟です。まだ、じりじり伸びてはいくでしょう。しかし、国が医療費を抑制するために、ジェネリックへのシフトを推進していることは押さえておくべきでしょう。一方、世界の市場は巨大であり成長産業です。

また、良くも悪くも薬価制度の影響下にあります。一定の利益は保証されていますが、年々薬価は下げられるともいえます。

投資をする際にはその企業のパイプラインを見ましょう。フェーズⅢまでくると、承認される可能性が高くなります。

そして、ジェネリックとの熱い戦いがあります。いかに特許を長引かせるかに注力しています。新薬メーカーとジェネリックでは、基本戦略が全く違いました。新薬メーカーは高付加価値戦略であり、ジェネリックは低価格大量生産戦略です。

 

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