ジェネリック業界研究
ジェネリックメーカー業界についてです。
ほとんどの業界が成熟衰退産業、景気循環産業である日本の中で数少ない成長かつディフェンシブな業界です。
ジェネリックメーカーを理解するためには新薬メーカーとの対比で理解していただくのが一番いいかと思います。
新薬メーカーの代表格はやはり武田薬品工業です。
そして、ジェネリックメーカーの代表は日医工と沢井製薬です。
まず、医薬品全体、新薬もジェネリックも両方ですが、業界の特徴としては、とにかく成長産業だということです。これは、日本の高齢化によるものです。
日本の人口推移のグラフを見ると、赤色の部分が65歳以上人口です。この赤色の部分だけを抜粋すると次の図のようになります。
65歳以上人口の推移です。このグラフをみると、今後30年間ほどは老年人口が増えていくため、医薬品業界は、長期にわたる成長産業といえます。
それを裏付けるように、日本国内での医療費の推移ですが増え続けています。
そしておそらくこれからもずっと増えていくでしょう。
次は、医薬品の中でもジェネリック医薬品の市場規模の推移と予測になっています。
ジェネリック医薬品とは、特許が切れた薬です。その特許切れのジェネリック医薬品の市場がどんどん拡大してきています。
ジェネリック医薬品は新薬と比べると安いです。医薬品が安くなると国と患者が喜び、新薬メーカーがデメリットを被ります。
医薬品の価格を決める、あるいは許認可を下すのは国です。国にとっては、ジェネリック医薬品が広まると医療費が削減でき財政が助かるというメリットがあるので、国としては、ジェネリック医薬品を進めたいわけです。
そのような国策もあり、ジェネリック医薬品はすごいペースで増えています。
グラフをみると、2005年9月に32.5%だったのが2015年で56%程度になっています。さらに2017年70%、2020年80%というところまで高めていこうという目標値が設定されてます。
海外のジェネリック割合を見るとアメリカは9割、ドイツ約8割、イギリス7割、イタリアフランススペインあたりは6割前後となっています。そのため、これら海外を意識して日本政府としても7割程度は当然だという考えのもと、ジェネリックの割合をどんどん高めていこうとしているわけです。まさに国策銘柄です。
では、海外の方も確認しておきましょう。
もちろん海外も成長していますが、海外の市場の中でも割合として非常に伸びてるのは、実はアジア、アフリカ、オーストラリアです。
絶対額で大きいのはやはりアメリカです。ヨーロッパが案外伸びてないということです。
ちなみに、日本は医薬品やあるいは医療機器の輸入国です。
貿易赤字の主要な要因は一つはエネルギーですが、もう一つは医薬品医療機器です。
このグラフは、国内で生産される医療用医薬品とその輸入額の推移を示しています。
この赤色と青色のところが国内生産、で緑色部分が輸入です。
輸入がものすごく伸びています。
安倍政権の成長戦略で、医薬品の開発・承認・申請を早くしようとしている背景には、まさにこういう日本が医薬品の輸入国で、ここをなんとかしようという問題意識があるわけです。
海外の医薬品市場は、間違いなく成長拡大していくので、日本の製薬メーカーや医療機器メーカーが成長戦略によって規制緩和をして、今までよりも実験的な治療を行い、早く承認を受け、そして海外に展開していくというのは日本の成長戦略として非常に適切なものだと思います。
海外マーケットは成長しているので日本は輸入を増やしている場合ではなく、国内で新薬なり医療機器を開発していかないといけないということです。
次に医薬品ビジネスの特徴をみていきましょう。
医薬品を作るためには、基礎研究から始り、臨床試験をフェーズ1からフェーズ3まで行ないます。そして承認申請をし、製薬の許可が出たら製造をし販売をするという流れになります。この基礎研究から販売まで、だいたい10年くらいかかります。
次に特許についてです。特許といっても大きくは物質特許と製法特許というのがあって、この2つによって新薬は守られるわけです。
逆に言うと特許が切れると他の企業が真似をして、ジェネリック医薬品を作るわけです。
特許の有効期間はだいたい20年ぐらいです。
ということは、新薬を開発し始めてからその開発に成功し製品化してお金を稼げる期間はよくて10年くらいなわけです。
今見たように特許の有効期間は20年です。例えば良い物質を見つけたとして物質特許とりました。この特許は、20年もちます。この20年の有効期間の中でできるだけ早く新薬を開発したいわけです。そして平均的な10年くらいで新薬が開発できたとします。
そうすると結局お金を稼げるのは残りの10年間です。この10年で販売し利益を上げるということです。
昔は新薬だったが特許が切れた、そういう医薬品を長期収載品といいます。そして、その特許切れの医薬品を真似て同じ成分で作ったのがジェネリック医薬品です。
この販売期間10年間の中に、1年当たり1000億円を超えるバカ売れの新薬、ブロックバスターを見つけ出すために新薬メーカーは日夜研究をしているということです。
ブロックバスターとしての代表作は、ブロプレス、リュープリンなどがあります。、
ブロックバスターを生み出しても、特許が切れたとたん売り上げは激減するわけです。なぜならジェネリック企業が同じ薬品をつくっていくからです。
このように特許が切れて、崖を転がり落ちるように売り上げが激減することをパテントクリフと言ったりします。
これは一般論ですが、特許が切れジェネリック医薬品が出てくると国内でだいたい売り上げは半減するようです。
アメリカなどではジェネリックが出てきたら元々の新薬、長期収載品は1/10ぐらいまで売り上げが激減するということで、非常に新薬メーカーはギャンブル的な要素はあるといえます。逆に言うとジェネリックメーカーは比較的安定した展開ができるということです。
新薬の開発には、平均300億円かかると言われています。
逆にジェネリックメーカーがその真似をした医薬品を作るのに約1億円しかかかりません。
新薬とジェネリック医薬品を比べた表をみてみましょう。
販売価格は、ジェネリック医薬品は新薬の50%~70%となっています。そして、新薬は独占状態で差別化が行われていますが、ジェネリック医薬品は競合多数でコモディティ化していきます。つまり、ジェネリック医薬品は価格競争になるということです。
新薬のビジネスとジェネリック医薬品のビジネスは全く違うわけです。新薬のビジネスは優秀な研究開発者を採用して、あるいは、面白いシーズを持っているベンチャー企業を買収してとにかく開発、差別化していくというビジネスです。
それに対してジェネリックのビジネスは、どんどん価格競争していくというビジネスです。
まったく種類が違います。
価格競争が起こるということは、M&A、シェア争いが起こるわけです。つまり大規模化したパイオニア企業が勝つわけです。
ジェネリックメーカーで大規模化の戦略をとっている企業は、日医工です。
これが、ジェネリック医薬品のビジネスの特徴です。
ジェネリックメーカーで、NO.1になったのが、日医工です。次点は沢井製薬です。
新薬メーカーで首位は武田薬品です。
新薬メーカーとジェネリックメーカーでは、新薬メーカーの方が10倍ほど規模が大きいです。
新薬メーカーの規模がやはり大きいですが、今では、ジェネリック医薬品の日医工の売上は、中堅の新薬メーカーと並ぶほどになってきています。業界もだいぶ激変してきているということです。
また、ジェネリックメーカーの日医工、沢井製薬、東和薬品を比べてみると、沢井製薬や東和薬品の営業先が主に医療機関であるのに対し、日医工は主に薬局に営業しているという違いがあるようです。
続いてもう一つのジェネリック医薬品ビジネスの特徴を見ていきたいと思います。
それは、売価が国によって決められている、国によって価格統制されているということです。ですので、政策によって利益が大きく変動するということです。
現在は医療費削減のためにジェネリック医薬品を普及させようとしています。しかし、ジェネリック医薬品にも限度があります。先ほど見たようにアメリカですらジェネリック医薬品の割合は9割です。そこが天井でしょう。ではもしジェネリック医薬品が広く行き渡ったら、ますます増加する医療費はどこから削減するでしょうか。おそらく薬価が下げられるでしょう。ですので、ジェネリック医薬品もずっと儲かるビジネスではないということです。
これとすごく似たビジネスが実は介護業界です。
売価が統制されてるっていうことで、介護の業界も介護報酬いう形で売価は価格統制されているわけです。
現在、介護報酬の引き下げがあったため、介護業界の景気は悪くなっています。
このように、国の政策によって業績が左右されるリスクがあるビジネスだといえます。
ジェネリック医薬品業界の成長性ということで、日医工が取り組んでいますが、海外展開があります。
海外には莫大なマーケットが存在しますので日本のジェネリックビジネスで稼いだお金で海外のジェネリックメーカーをM&Aしていくという戦略が考えられます。そうすれば、世界のゴールドラッシュの波に乗っていけるでしょう。
長期的な成長にマッチしている戦略をとっているのは、日医工といえます。
それと、もう一つはバイオ医薬品というものがあります。
今、バイオ医薬品の業界が広がってきており、このバイオ医薬品の後続品(より高度なジェネリック医薬品)のマーケットも広がってきています。このような点からも、ジェネリック医薬品業界は、長期的に見て拡大していくマーケットかと思います。